第6話 不安

学校の先生の訪問から、光は考えることが多くなった。退院してから、ぼんやりと過ごしすぎてた気がする。

学校に行かないということは、これからどうなるんだろう。卒業なんてできそうにもない。


ふと、左手の傷が目に入る。

今まで、何度もなぞってみたが消えたりなんかしない深く長い傷。

光は、ため息をついた。

何も考えたくないのに、不安が押し寄せる。

「私に明るい未来なんてなさそうだな…」

知らずに呟く。

【声】も最近あまり話さない。

どうしたんだろう。

まさか、いなくなった?

・いるの?・

間をあけることなく返事があった。

・いるよ・

ホッとすると同時に気になってきた。

・最近あんま話さないね。どうしたの?・

今度は、少し間があいて返事がきた。

・別に……て言いたいとこだけど……・

珍しく【声】が言い淀んでいる。

【声】の言葉の続きを待つ。

・……悔しくて・

何が?と言いそうになった。

いじめについてだ。

光は、記憶がないとは言え、そのことについて自分が無関心すぎると感じた。

【声】の方が、よっぽど当事者のようだ。

・その傷もそのせいじゃん?・

言われて、また傷を見る。痛々しい。

・たくさんいじめられて、自殺までしようとして、そして……

あいつらはのうのうと生きてる・

表情がわかるのなら、【声】の今の表情はひどく苦しげに違いない。

光は、何と言葉を返したらいいかわからない。

まるで、自分が無責任なやつのようだ。


・…………・

さらに【声】が何が呟いた。

・え?・

光が聞き返す。

・なんでもない・

それきり【声】は黙ってしまった。

光も気まずくて、黙った。


これからどうなるんだろう?

また不安のさざ波がやってきた。


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