第一噺 桃と呼ばれた子

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 そこはどこにでもある普通の村。

 農家の家が多い村。

 村の近くには大きな桜の木があり、春に咲く桜が美しい村。


 その村に一組の家族が住んでいた。

 父、母、子の三人家族だった。


 父は『金太きんた』と呼ばれており、女性のような華奢な身体をしていたが、村一番の力持ちであった。

 母は『むらさき』と呼ばれており、夫である金太よりも華奢な身体で、村一番の美貌の持ち主であった。


 そして、その金太と紫の間には七つになる息子がいた。

 金太と紫の髪と目は漆黒であったが、2人の息子の髪と瞳は―――赤かった。


 息子の名は『桃太朗ももたろう』。

 桃太朗は金太と紫から『もも』と呼ばれていた。

 桃は変わった容姿をしていたが、金太と紫は一人息子である桃を無償の愛で大切に育てた。



「お父さん」

「どうした、桃?」

「どうしてボクの名前は、『桃太朗』なの?」


 ある日、桃は金太に尋ねた。


「どうしてって……そりゃあ、桃が母ちゃんの腹から桃の節句に産まれたからだろ?」

「『桃太』とかじゃ駄目だったの?」

「桃は『桃太』が良かったのか?」

「ボクの名前、長いんだもん」


 桃は頬を膨らませて金太に言った。


「おいおい。だったら父ちゃんはどうなる? 父ちゃんの名前も『金太郎』で長いぞ?」


 金太と呼ばれている父の名は、『金太郎きんたろう』と言った。


「だって……食べ物の桃って桜色じゃないか」

「何だ、桃は桃の桜色が女みたいで嫌なのか?」

「うん…」

「父ちゃんは好きだぞ。桜色は綺麗だし。食い物の桃は美味い。最高じゃないか」

「ボク、『桃太』か『太朗』のどっちかが良かった」


 名前は生命の次に貰う大切な物。

 本人が気に入らないと文句を言っても、今更仕方がないのだが。


「ははっ! そうかそうか。なら、お前の本当の名前の由来を教えてやろう」

「ボクの本当の名前の由来?」

「おうよ! 桃。お前は───」

「金太!!」


 金太が桃に、桃の名前の由来を教えようとした時、それは止められた。


「紫」

「お母さん」


 話を止めたのは、金太の妻で桃の母親である紫だった。


「金太。言ったはずよ? その話、桃にはまだ早いわ」

「良いじゃねぇか、別に。今、桃に教えたって」

「駄目よ!!」


 金太は桃にいずれ教え、桃がる時が来るのであれば、今教えても良いと考えていた。

 しかし、それを紫は許さなかった。


「金太。物事には段取りってもんがあるでしょう! 七つの桃が識るには重過ぎるわ!!」

「相変わらず細けぇな。桃を誰だと思ってやがる? この“強い”“優しい”“良い男”が揃った金太郎の血をひく子供だぜ?」

「…金太が強いのは認めるけど、優しいのと良い男なのは、間違いよ」

「何だと!

「何よ!」

「お父さん、お母さん、けんかしないで」


 金太は大雑把な性格。

 紫は勝ち気な性格。

 同じなのはどちらも負けず嫌い。

 なので、金太と紫は意見が噛み合わない時は、毎日喧嘩ばかりしていた。

 しかしそれは、どこにでもある家庭の光景。

 家族に遠慮などいらない。

 言いたい事があったら、はっきりと言う。


『喧嘩する程仲が良い』


 毎日喧嘩ばかりしているが、金太がすぐに気にしなくなる為、金太と紫の夫婦仲は良好だった。

 そんな二人を見て育った桃は、心優しい子であった。

 ただ、何でも聞きたがり、答えられた事をそのまま鵜呑みにしてしまうのが少し欠点であるが。


 金太は口も達者で人をからかうのが好き。

 桃の性格を知っている金太は、桃に聞かれた事に対して、嘘を教え桃を騙し反応を見るのが楽しかった。

 桃を騙すのは、金太の日常茶飯事であった。

 そして、その後に金太は紫にこっぴどく叱られ、紫は桃に新たに教え直すの繰り返しだった。





 この時、桃はらなかった。

 たった七つの桃がるはずなかった。


 自分にこれから訪れる運命を。

 運命の先にどんな結末が自分を待っているのかを。


 桃が識るのは、もう少し後───十年後である。





 赤は不吉の色。


 赤髪は異物。


 赤瞳は忌みの証。


 赤、紅、アカ。


 真っ赤な炎。


 ─────血の色─────


 だから、桃太朗、桃太朗サン。


 アナタに待っているのは………。


 ───なぁに?


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キミが咲う かがみゆえ @kagamiyue

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