第一章:焼肉杯

LAST MATCH TO REACH MYTHIC①:役職被り


「なんで役職が被るキャラを出すんだよ、この雑魚が」



 ナポリくんは、リアルで目を細めた。

 他のプレイヤーに暴言を吐く人がいたからだ。

 

 プレイヤー名が「りあむ」というその人は、更に会話チャットを続けた。


「Why I choose hunter and you choose hunter too?(なんでオレはハンターを選んだのに君もハンターを選んだの?)」


「You know the balance of heroes is so important in MOBA games, right?(MOBA系ではヒーローのバランスが凄い大事なんだと知っていますよね。違いますか?)」


 表示される国旗から外国人だと分かる相手に、ご親切に英語まで……

 だが、その言葉が相手に通じることはなかった。


「I want to play hunter.(僕はハンターをやりたいんだ)」


 相手は試合に勝利する確率を上げるより、自分のやりたいロールを優先したのである。


     ―――――


 【ララちゃんの試合中いきなり解説コーナー♪①】


「ディメイショナル・オンラインをより深く楽しめるように、ララちゃんが追加の解説をするにゃん♪」


「5人がチームになって戦うMOBA系では、『如何にチームの構成のバランスを良くできるのか』が試合の勝ち負けを決める重要なポイントの一つになるにゃん♪」


「ミドルレーン」→タンク又はサポート・メイジを1体ずつ。

「トップレーン」と「ボトムレーン」→それぞれのレーンにハンター・ファイターを1体ずつ。入れ替わっても可。

「ジャングル」→アサシンを1体。


「ディメイショナル・オンラインの基本の構成はこれだにゃん♪ この構成が一番バランスを取れているにゃん♪」


「逆に同じロールのキャラを2体も取るのはあまりオススメしないにゃん♪」


「ハンターを2体取ったとして相手のチームに相性の悪いアサシンがいたら、自分たちのチームに2体もアサシンに勝てないキャラがいることになるにゃん♪」


「キャラのロールはあまり被せず、バランスよく行こうってことにゃん♪」


「だからりあむさんが味方のプレイヤーに暴言(指摘)したことはあながち間違っているとは言えないにゃん♪」


「言い方が良くなかったけどにゃん♪」


「ゲームは楽しむためのものだから、どこのロールを選ぼうと個人の自由だにゃん♪」

 

「だからMOBA系のゲームでこういう場面に出くわした時は、あまり相手のことを責めないであげてにゃん♪」


     ―――――


「F***(XXXX)」


「言い方が悪いってレベルじゃねぇぞおい」


「息を吸うようにネットミームを言ってんじゃねぇぞおい」


(前言撤回だにゃん♪ りあむさんはOUTだにゃん♪)


 レイシさんが僕のツッコミに更にツッコミを入れたと同時にシステム警告文が出て、りあむさんは10分間発言禁止ミュートになってしまった。


 こういうDMO(ディメイショナル・オンラインの略称)内の治安を維持してくれるようなシステムも、僕がDMOが好きな理由の一つである。


 さて、ツッコミを入れた流れから分かる通り、りあむさんは僕とレイシさんの友達フレンドだ。


 なぜ、僕とレイシさんはりあむさんと出会うことになったのか……



 ――1 MONTH AGO(1か月前)――



「ランク上げを一緒にやってくれる人募集 条件→勝率70%以上の人」


「……」


「ランク上げを一緒にやってくれる人募集 条件→勝率70%以上の人」


「……」


「ランク上げを一緒にやってくれる人募集 条件→勝率70%以上の人」


「……」



 『グローバルチャット』というDMOサーバー内のプレイヤー達が会話できる場所で3分置きに送られるそのメッセージを、僕は放っておくことができなかった。



「DM許可ありがとうございます。勝率70%以上とか、そんな厳しい条件だとランク上げ(※1)を手伝ってくれる人中々出てきませんよ」


「知ってますよ」


「あとメッセージがそんな上に流れていないので、あまり連投しない方がいいかと思います」


「知ってますよ」


「ちなみに僕ともう一人のフレンドは勝率が70%以上なので、一緒にランク上げしましょう」


「指摘しに来たんじゃないのかよ」


 少し考えてから、僕は答えた。


「遊びに来た」


「は?」


 これがりあむさんとの出会いだったのだ。



 DMOをプレイし始めてから1か月しか過ぎていない僕とレイシさんだったが、FPSで養った情報収集力と順応力のおかげで勝率70%以上になることができた。


 (この人たちが頭おかしいにゃん♪ FPSしかやったことないMOBA系の全くの初心者の人は普通そんな勝率を取れないにゃん♪)


 もっとも、まだ技術レベルがそんなに高くないプレイヤーがいる低ランク帯の『エピック』にいたから70%が取れたというだけで、高ランク帯になったら僕とレイシさんの勝率は自然と下がっていくと思う。


「りあむさんのこのアカウントはサブ垢(※2)ですか? 勝率が80%とすごい高いですけど」

「前のアカウントは勝率が低くて嫌だったから作り直した」

「なるほど……」


 そうして、僕とりあむさんとレイシさんで3人組トリオ(※3)でランクに行くことになったのだが、グローバルチャットで僕が感じた不穏な雰囲気はどうやら当たっていたようだった。


「Why you choose hunter?(なんで君はハンターを選んだの?)」


「I already took Hunter.(オレはもうハンターを選んだのに)


「You want to lose? Yeah?(負けたいの? ん?)」


「I'm saying seriously.(本気で言っているんだよ)」


 りあむさんは、そういう人である。指摘という名の暴言をする人である。


 ナポリくんは、何回もリアルで目を細めた。



 ――NOW(りあむさんと出会ってから1か月後)―― 



 これがりあむさんではなくて他のプレイヤーだったら、僕は通報していたと思う。


 なぜ、りあむさんと1か月もフレンドで居続けたのか。

 なぜ、りあむさんと距離を取らずにいたのか。

 なぜ、りあむさんともっと仲良くなったのか。


 僕はこの後のりあむさんが好きだ。



「もしもーし」


 りあむさんはDirscordのグループ通話の自分のマイクをオンにした。


「聞こえてます?」


「聞こえてるよー」

「おん」


「もう一人の味方はアサシンを取ったので、ナポリさんとレイシさんはメイジとタンクをやってください」


「ナポリさんはトップレーンとボトムレーンの両方をカバーできるような機動力の高いメイジを。レイシさんは敵の突撃を止められるようなCCの多いタンクを」


 少し息継ぎをして、りあむさんは言葉を続けた。




「こうなったからには、オレがこのチームを勝たせます」




 “彼”は暴言を言うだけの人ではなかった。

 “彼”は表現の仕方が分からないだけの、誰よりもゲームが好きな人であった。




     ――――――――――




 【簡単に理解! 誰にでも分かるDMO用語解説!①】

~「MOBA」が分かる方は流し読みでOKです~


 ※「DMO」→ディメイショナル・オンラインの略称である。

 Demensional Onlineから「D」と「m」と「O」を取って、DMOである。



 ※1「ランク上げ」→そのままの意味である。

 FPSのAPEX、TPSのフォートナイト、MOBA系のDMOなどはストーリーモードがない代わりに、ランク(ランキング)モードがある。

 ランクモードで試合をして勝って、一番上のランク帯に行くことがこの類のゲームの最終目標の一つだと言われている。



 ※2「サブ垢」→サブアカウントの略称である。

 「メインとなるアカウントとは別の目的をもって作られたアカウント」→サブアカウントである。 



 ※3「トリオ」→「3人組」または「3人でパーティを組んで試合をすること」を指す。


 パーティを組んで試合をするゲームでこれらの用語はよく使われている。


 ちなみにトリオ以外に、

 「フルパ」→「5人組」または「5人でパーティを組んで試合をすること」

 「四パ」→「4人組」または「4人でパーティを組んで試合をすること」

 「デュオ」→「2人組」または「2人でパーティを組んで試合をすること」

 「ソロ」→「1人だけのパーティで試合をすること」

 などの用語もある。



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