第10話 何も見ずに模索しているときのほうが楽しい
ミーナは道端で引いた様子で見ていた。
「とりあえず、鈍器のようなもので叩くと粘液飛び散るから注意が必要ね……、
私ウイッチだから魔法でなんとかできるかもしれない。ちょっとまってて」
ユウも、あっそういえばと言わんばかりに、メニューを出してスキルを探し始めた。
「あったあった。わたしスキルに『ファイヤー』『ヒール』『自動回復付与』があるから使えるみたいよ。ヒーラーなのに、炎系魔法が使えるのね……」
続けてミーナもメニューを確認する。
「わたしは『アイス』と『サンダー』みたいよ。魔法の基本て感じね」
――ブビィー
親指で片方の鼻を押さえ、鼻をかみながらにブチョウに対して言った。
「そういや、ブチョウのスキルって何なんですかね?」
ブチョウは手を口に当て、メニューを出してスキルを確認した。
「そういや、『バイトリーダー』ってなんのスキルがあるんだろうな……。
もうすでに、俺の設計した仕様も破綻しまくってるみたいだし……」
そして、メニューを見るなり、眉間ににシワを寄せながら目を凝らして見つめているブチョウ。
しばらくの沈黙ののち、ブチョウはゆっくりと口を開いた。
「『連続殴打』『投擲』『全力スウィング』か……」
またしてもかと言わんばかりに膝から崩れ落ちた。
「大丈夫ですよ、熟練度上げていけばきっと新しいスキルできますって!」
崩れ落ちるブチョウの肩を叩きフォローした。
「おい、じゃあお前のスキルは何なんだよ。俺のより良かったら承知しないからな」
ちょっとふて腐れた様子でこっちを見てきた。
「ち、ちょっとまって下さいね。俺もこの職業、なんだか良くわからないんで」
と言うと、メニューを出して確認した。
「こ、これは……!」
目を丸くしながら驚くと、ユウとミーナとブチョウが駆け寄りミーナが言ってきた。
「なになになに? ちょっと見せてみなさいよ」
ユウが俺の後ろに回り込みメニューを覗くなり驚いていた様子であった。
「なんかデバッグメニューの一部みたい、
それと私たちには見えていない数値とメニューが出てるみたい……」
俺自身メニューを見ながら言われてみればたしかに、そんな感じがするよな……と、思った。
「非常にファンタジーっぽくないスキルなんだけど、今は
『
『
『
『
するとブチョウが
「いいじゃないかシン! おれの職業交換してくれえええええぇぇ!」
再び叫ぶブチョウ。
「そ、そんなこと言ったって。熟練度上がりきるまで無理ですって」
あきれた様子でブチョウに言った。
「とりあえず、当たり障りのなさそうなテストがてら使ってみますね」
くるっと振り返り後ろにいるブチョウを見る。
そして身構えるブチョウに腕輪のしている左手をかざし唱えた。
『シングルアナライズ』
:
:
左手の腕輪の上にコンソールが出現した。
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HN:ブチョウ JOB:バイトリーダー
HP:やばめ MP:やる気無し 96
固有スキル:他人任せB 老眼A 腰痛B 説得C
スキル:連続殴打 投擲 全力スウィング
武器:バット 防犯カラーボール
-----------------------------------------
ブチョウがスタスタと歩いてきて腕輪の上に出現しているコンソールをちらりと見た。
「シィィィン! なんじゃこのステータスは! それとヒットポイントやマジックポイント表記が適当過ぎて良く分からんわ!」
叫ぶブチョウ。
「えぇぇ……。俺に言われても困るんですけど。ブチョウの設計じゃないんですかこれ?」
ブチョウを両手で押さえながら言った。
ブチョウは憤慨していた。
「スキルはいいよ。スキルは。武器はバットだしバイトリーダーだししょうがないと思ってるよ! だが固有スキルは何よ、全然ファンタジーっぽくないよね!」
「たしかにさぁ……歳なのはわかるよ……、でもさ、こんな世界にまで老眼とか腰痛とか持ってこなくてもいいじゃねぇかよ……」
そういってぼやくブチョウに声をかけ、自分の固有スキル欄をみた。
「いやいや、俺だって固有スキルに『腰痛』とかありますからね?
ブチョウだけって訳じゃないんですよ。俺のを見ます?」
と、しきりに説明して、自分のステータスウインドウを表示した。
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HN:シン JOB:デバッガ―
HP:ちょっと辛い MP:めんどうくさい #$%&
固有スキル:腰痛A 七転八倒A
スキル:サーチフォーオブジェクトID チェンジトゥーオブジェクトID サモンオブジェクト シングルアナライズ 投擲
武器:なし
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ステータスを見たブチョウが一言言った。
「おまえもまた、ずいぶん適当だな……」
「でしょ? スキルはアレかも知れませんけど。そもそも武器がないんですよ……。
固有スキルも変なのばっかりだし。文字化けしてるし……」
頭を抱えながらに言った。
ユウが両手を後ろに回し、後ろから覗きこんできた。
「じゃあちょっと私のをアナライズしてみてよ」
「変なの出てもがったりしないでくださいよ」
そう言うと、少し離れてユウに向かって左手をかざし詠唱し始めた。
『シングルアナライズ』
左手の腕輪とコンソールが光り、情報が更新される。
「どれどれ~」
そう言いながら、みんなが覗き込む。
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HN:ユウ JOB:ヒーラー
HP:まずまず MP:それなり 4
固有スキル:自動回復B 初級熱系魔法A 初級回復系魔法A
スキル:ファイヤー ヒール 自動回復付与
武器:尖った杖
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ユウが首を傾げながらちょっと不機嫌そうな表情をしている。
「なんだか、普通すぎてあまり面白みがないね……」
そんなユウに思わずぼやいた。
「面白くなくていいじゃないか。うちらのステータスは殆どがネタみたいなもんだと言うのに……」
そんな中、ミーナも手を挙げ言ってきた。
「はいはーい。んじゃあ、最後にうちのステータスも見てみてよ!」
まぁきっと、察するに極々普通の魔法使いだろうな、と思いつつも、詠唱を始めた。
『シングルアナライズ』
左手をミーナにかざし詠唱した。
そして更新される左手のコンソール。
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HN:ミーナ JOB:ウイッチ
HP:並の下 MP:潤沢 5
固有スキル:自動魔力回復C 初級冷系魔法A 初級雷系魔法A
スキル:アイス ライトニング 魔力充填 全力投球
武器:分厚い本 指ぬきグローブ(右手)
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俺はメニューを見て言った。
「まぁ、至って普通だよな」
ブチョウもメニューを見て言った。
「まぁ、普通だよな」
ユウもメニューを見て言った。
「まぁ、普通よね……」
ミーナが声を荒げる。
「ちょ、ちょっとまちなさいよ! さっき良く見てなかったけどスキルの《全力投球》って何よ!」
俺はとっさに言った。
「えっ。投げるんじゃね? 魔法を……」
「そ、そりゃあそうなんだけど……」
困惑するミーナ。
まぁまぁと、ミーナをなだめるブチョウ。
「とりあえず、物は試しだ。スライム相手に使ってみようじゃないか」
ミーナは草むらのスライムに向かって、右手をかざした。
「そうね、とりあえず使ってみないことには解らないしね」
そして詠唱を始めた。
「アイス!」
右手がうっすら青く光ると、手のひらから白い煙のようなものが見えた。
そして、どこからともなく落ちてきた葉っぱがひらりと手のひらのそばを通過すると、その葉っぱの中の水分と大気中の水分が凍結し、真っ白くなって地面にぽとりと落ちたのである。
「えっ。これだけ?」
ミーナが目を丸くした。そして、再び詠唱する。
「サンダー!」
右手がうっすら黄色く光ったが、《ブーン》という低い音がしただけで、特に何か起こった様子は感じられなかった。ミーナの頭髪と衣類以外は。
頭髪は逆立ち、衣類は風がそよいだかのように少しフワフワとしているだけで、それ以外は特に身体的特徴は感じられなかった。
ミーナのそばにブチョウが近寄る。
「おいおい、何も起きないじゃ……」
ミーナのフワフワしている衣類の端とブチョウの間に青い閃光が走る!
「ホゲエェェェェ!」
絶叫するブチョウ。まばゆい光が一瞬光ったと思ったらブチョウが地面に転がっていた。
「大丈夫ですかブチョウ!」
声を掛けながらブチョウに駆け寄った。その時である。
ブチョウのバサバサになっていた裾や髪が逆立っていたのに気がついたのは。
そして、一瞬目の前が真っ白に光ったかと思ったらブチョウと青い閃光で繋がっていた。
「ギャアアァァァ!」
転がるブチョウ。叫ぶ俺。
そして目の前が一瞬赤くなると同時に、どこかに転送された。
「うっ。くっくそっ。ココは初期スポーン地点か」
何故俺だけが。こんな所に……。
走り出すと急いでスライムの狩り場向かった。
遠くから声が聞こえてくる。
「――ヒール! ヒール!」
「ヒール! ヒール! ヒール!」
ユウは少し涙目の焦った様子で、俺の少しずつ崩れていく遺体にヒールをかけていた。
「ハァハァ……。お、お待たせ……」
息を切らしながら、狩り場に戻った。
「ひゃあぁ!」「うひゃああぁ!」
ユウと俺は変な声を出した。
俺が突然出現したようでビックリしていたようだ。
ミーナもビックリしている。
ブチョウはちょっと肌が黒く焼けたような感じであったが、見た目だけはピンピンしていた。
ユウの涙を流しながら、走り寄ってきた。
「シンが、シンが死んじゃったかと思ったよ……ピクリとも動かないし体は崩れていくし……」
自分の崩壊する体を見つめながら必死にユウをなだめた。
「だ、大丈夫だよ。ほら。俺はリスポーンするだけだし」
そんな中、なんだか世界再構築前より崩れゆくスピードが極端に遅くなっている気がしたのだが、今は考えるのを辞めた。
ミーナも申し訳なそうにうっすら涙を浮かべている。
「ごめんなさい……。私の不注意で……」
ミーナの方を向き励ました。
「大丈夫大丈夫。初のスキルだし、挙動までは流石に解らなかった訳だしね。
まぁ、リスポーンするだけだからどーんといこう。どーんと」
そう言うと若干焦げたブチョウに訊いた。
「そういやブチョウは大丈夫だったんですか?」
「ちょっとビリビリって来たけど、なんかこう。腰が調子よくなった気がするんだよ!カイロなんとかに行った時みたいな感じだよ」
興奮気味に喋るブチョウ。
そんなブチョウをHPが減っているか確認するためこっそりアナライズしてみた。
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HP:やばめ⇒間もなく乞うご期待
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に変化していた。
なんだか良く分からない変化だが、もう一度食らったら逝きそうだな……。
ユウには、
「もう少しでブチョウ逝きそうだから回復してあげて」
とささやいた。
ユウは困惑した様子で様子で言ってきた。
「ごめんねじつは、唱えてももう光らないの……たぶんMP使い果たしたみたい」
「そ、そうか……。とりあえずダメージ食らわないようにフォローしてあげようか……」
と、言うと。メニューと睨めっこしているミーナに訊いてみた。
「対象に触れてから詠唱するタイプなんじゃない? それか本を使うとか」
はっ。とした表情で本を見るミーナ。
そういえば、本はページをめくってもめくっても真っ白である。
困惑するミーナに言った。
「もしかしたらだけど、試しに1ページだけ破って、それに詠唱してみたら……?」
と提案した。
「ちょっとやってみるね」
ミーナがそう言うと、1ページだけ破き、右手の手のひらに乗せ、詠唱し始めた。
「アイス!」
すると、右手がうっすら青く光り、手のひらに乗せた紙から煙がうっすら立ち、より白く変化していく。
「おっ。煙が出るだけで何も変わらんぞ?」
と言うなり、ブチョウは右手で紙に触った。
その瞬間、ブチョウの触った右手が白く変化していく。
「手が、手がぁあぁぁぁ!」
と、叫ぶと。ブチョウの体がその場で崩れ去った。
――ドシャァ
叫ぶ、ミーナとユウ
「きゃーああああ!」
「ブチョー!」
俺も叫ぶと、近くにある初期スポーン地点の方を見ていた。
何故か後ろからドタドタと土煙を上げながらブチョウがやってきた。
どうやらスポーン位置が違うらしい。
「ハァハァ……いきなり死んだんだが……」
屈んで息を切らしているブチョウにすかさず状況を説明した。
「いや、ブチョウの体力はあと一発っぽかったですよ。HPの標記がサンダーの前は『やばめ』だったのに、その後は『間もなく乞うご期待』になっていましたから……」
「ハァハァ……。なんだよそう『乞うご期待』てのは……。ハァハァ。
ち、ちなみに、いまはどうなってるんだ……?」
ブチョウは道ばたにドカッと座り込みんだと思うと、地面に寝転び仰向けになり訊いてきた。
ちょっと待って下さいね。と言うと、手をかざしアナライズしてみた。
「HP表記は『下の上』になっていますね。相変わらず良く分からない仕様ですね……。
とりあえず、ステータス関係は不明部分が多いので一旦保留にして、
スキルの使用方法を考えた方が良いかも知れんね……。特に危険度の高いミーナから……」
俺は振り返るとミーナの方を見た。
「うーん。さっきのやり方から察するに、
ページをちぎって魔法をかけて投げつけるって言うことになるのかしら……。
それなら『全力投球』のスキルがあるのも意味が分かるけど……」
ミーナが本をペラペラとめくりながら考えている。
突然閃いたような顔で、ページをビリビリと破りくしゃくしゃに丸めた。
そして、丸めた紙を右手に乗せ、その紙をぎゅっと握り絞めると振りかぶって詠唱し始めた。
「サンダーァ・ボォォォル!」
ウイッチとは思えぬほど元気よく放たれたその丸まった紙は、黄色く発光し放電しながらも、
その手を離れ10m先の草むらのスライムに向かって勢いよく飛んで行く。そして──
――ドオォォォォォン! ッパァァン!
鳴り響く轟音。それと同時にスライムは割れ、四散するスライムの体液。
その着弾した地点の半径5m付近の大地は数センチほどえぐれて小さなクレーターとなった。
「ブッ! ぷごォッハあぁぁあああ!」
そして、草とスライムと半径ギリギリ内側に居た俺とブチョウは、スライム液にまみれながら軽やかに消滅した。
再びスポーン地点から2人が戻ると、粘液まみれのミーナが謝ってきた。
「ご、ごめんね……。なんか気合い入れすぎちゃったみたいで……。力込めると威力も倍化するみたい……」
「ま、まぁ。テストだからな……」
俺は粘液をブチョウに払いながらに言った。
――ヒュッヒュッ
「ぶっ。こ、こっちに飛ばすんじゃない!」
ブチョウも負けじと、俺に向かって粘液を払ってきた。
――ヒュッ
ミーナはひとまず顔の粘液を払い終わると言った。
「次は、アイスボールやってみるね!」
目をキラキラとさせている。
なんかこっち来てからあいつ性格変わってきてるんじゃないか?
そんなことをと思いつつ、危険を感じ、ユウと、俺、ブチョウはミーナから15mほど離れた。
「よーし! 撃っていいぞォ!」
俺は手を振って叫ぶ。
「じゃあ、いっくねー!」
と乗り気のミーナ。例の如くページを破り丸め、右手で握りしめたのち、振りかぶった。
「アイスゥ・ボォォォル!」
凄い勢いで投げられた紙は、冷気とも思える白い煙を帯びながら、
10m前方の草むらのスライムに着弾、白い煙が四散しそれと同時に半径5m付近の周囲の草木、スライムまでもが完全凍結した。
「こ、こええぇ……。これもう、敵の討伐はミーナだけでいいんじゃね? 雷使ったらミーナに近づくだけで死ぬし歩行要塞みたいじゃん」
ブチョウがブルブル震えながら声を漏らした。
俺は、ミーナに向かい歩きながらに、ブチョウに言った。
「だめですよ、ブチョウ。まずは全員分のスキルと威力を確認しないと」
ユウも合わせるようにブチョウの方を見て言った。
「そうですよ、ブチョウ。今回この程度で済んだかも知れませんが、スキルの威力確認しておかないといざって言うときに、もっと酷い目に遭うかも知れませんよ」
ブチョウはとぼとぼと歩きながら、
「そうだなぁ、洞窟内とか狭いところでぶちかまされたら最悪生き埋めだしなぁ。まぁでも、リスポーンすれば良いだけなんだけど」
と言い、15m先のミーナに合流した。
「さて、次は……ユウのスキル見てみるか。この中で、『ファイヤー』『ヒール』『自動回復付与』というのがあるが、まずは『ファイアー』から順に見てみない?」
と、提案した。
「いいけど、さっきMP使い果たしちゃったから……」
ユウは残念そうな表情で言った。
「そういや、そうだった」
なんだか年を取ってくるとさっきのことも忘れやすいんだよな……。
「じゃあ、さっき途中だった俺のスキルでも見てみるか」
そう言って提案した。
ユウは頑張ってー。と言わんばかりに応援してくれている。
「さてさて、それでは……」
左手を大きい岩に向かってかざして唱える。
「サーチフォーオブジェクトID!」
左手が緑色に発光し、対象となる物体のID番号が緑色のコンソール画面に表示される。
-----------------------------------------
シンプルな大岩:0100 1214 4577 6554
状態:良好 リソース消費量:まぁまぁ
-----------------------------------------
「オブジェクトIDと、謎の情報が取得できたな……では次に……」
左手を樹木に向けて唱えた。
「チェンジトゥーオブジェクトID!」
左手がブルーに発光し、先ほどの緑色のコンソールの上に、青色のコンソールが表示される。
そこには、対象となる物体のID番号と入力欄が表示され、同時に腕輪が開きキーボード出現した。
そして、『0100 1214 4577 6554』と入力し確定ボタンを叩いた。
すると――
樹木がブルーの粒子状の光の粒に分解され、再構築されていき、大岩と同等の物がそこに再現された。
この間1秒足らずである。
「おぉ! こんなことが出来るのか!」
一同はざわめいた。
それと同時に、ブルーのコンソールは赤くなり、カウントダウンが始まる。
それは正の整数から始まった。
「な、なんだこの数字は……」
左手にあるコンソールを眺めながら言った。
――5……、4……、3……、2……、1……
数値がマイナスになり、負の整数となる……。
――-1……、-2……、-3……、-4……
「ぐっ、ぐあぁ……、なんか急にめまいが……」
同時に、コンソールにある自分のHPが変化していく。
ユウが心配する。
「だいじょうぶ? 顔が凄く青いよ……?」
自分のHPの表記が。
〈ちょっと辛い〉⇒〈かなり辛い〉と変わっていき、〈間もなく乞うご期待〉になる。
「くっ、乞うご期待だと……しまっ……!」
――ドシャァ……
言葉半ばで、目の前が真っ赤になり、ビリッと電気が走ったかと思ったら体が崩れ落ちていった。
そして、再び目を開けるとやはり、初期スポーン地点に戻ってきている。
向こうから駆け寄るユウと、ミーナとブチョウ。
心配そうにブチョウが声を掛ける。
「大丈夫かシン!」
膝に手を掛けゆっくりと起き上がる。
「あ、ああ……。ぶ、ブチョウ?」
「顔がいきなり青くなったと思ったら、突然崩れてビックリしたぞ」
真っ先にブチョウが説明してくれた。
「ス、スキルには効果時間とある程度の体力が必要みたいですね……。大岩にあったリソース消費量とかいうのが、影響しているのかも解りませんが、この値が大きすぎると一気に体力を奪われるようです……。それと解除したり、使用者が死ぬと変更したオブジェクトは元に戻るみたいですが……」
そう言うと、先ほど変更した大岩を指さし、元の樹木に戻っていることを確認した。
ユウもミーナも心配そうに見ている。
「これじゃあ、スキル使うのも命がけね……」
ミーナが呟いた。
「あ、あと1つ、まだ試していないスキルがあるぞ」
左手で額をこすりながら、ゆっくりと言った。
そして、左手を構え、詠唱する。
「サモン・オブジェクト!」
左手がオレンジに発光、そしてオレンジ色のコンソールが出現した。
そのオレンジのコンソールには、〈+〉と〈未登録〉だけが表示されている。
「なんだこれ? 登録しないと召喚できないのか……」
とホッとするもつかの間。
コンソールにあるHP表記が変化していっているのに気付いた。
「ちょ、もっ! 乞うご期t……しまっ……!」
――ドシャァ……
再び崩れ、リスポーンする体。
気の毒そうに、ブチョウがこちらを見ている。
俺は、はぁ……。とため息をつくと。
「とりあえず、ここを動くと戻ってくるまで面倒だし、俺はスポーン地点でいろいろ実験してみるから各自いろいろ試してきてくれよ」
「よ、よし。一通りスキルも知れたし、スライムぶっ叩いてくるわ!」
ブチョウは、バットを片手にスライムの海に飛び込んでいった。
「リスポーンするとはいえ、あんまり無理しちゃダメよ」
そう言い残し、ミーナもその場をあとにすると、あたりのスライムに向かってひたすら魔法を投げつけていた。
ときおり、ミーナの魔法が直撃したのかブチョウの悲鳴が聞こえてくる。
そんななか、ユウはスポーン地点のそば端の方で体育座りでブチョウとミーナを見てたたずんでいる。
「ユウは行かないのか?」
コンソールをいじりつつも声を掛けた。
「んー。さっきは近づいてきたから反射的にスライム殴っちゃったけど。基本、争いごとあんまり好きじゃ無いの……」
体育座りのまま顔をうずめていた。そして続けて
「本当はね。こんな変な世界だけど。改めてシンや変なブチョウと面と向かって喋れて良かったと思ってるの。シンは職場ではいっつも自分の仕事より人の世話ばっかりして、忙しそうで話なんて出来そうにないし、ブチョウは位が違いすぎるし、話してもいい加減なことしか言わない。」
「でも、こうしてみんな同じような境遇で同じ目標に向かっているのって、凄くいいなって。初期案とは言え、うちらとAIが作り上げた風景もなかなかキレイだしって思って見ていたの」
そう言って顔を上げニッコリ笑った。
ことある毎にリスポーンを繰り返しながら相づちを打つ。
「そ、そうだなぁ、いまはログアウトが出来ないから、む、無理だけどさ、
もしログアウトが出来たら、このメンツで仕事を気にせず色んな所にゆっくり旅行とか行ってみたいよね。幾つものテストをしてバグを潰していけばそのうち帰れるかなぁ……」
ユウがブチョウとミーナの方を眺めながら言った。
「そうねぇ……。帰れればだけどさ。でもここでも旅行みたいなもんじゃない?」「のんびりと時間も気にせずこんなキレイな草原とかそうそう見られないよ。それにココ以外にももっと知らない場所とかに旅行出来るかと思うとちょっとワクワクしない?」
背景ではスポーン地点で、崩れゆく体が山のように積み上がっては消え、また出現を繰り返している。
「そ、そうだね。こういう現実をあらためて受け入れ、この世界をいろいろ旅して回るのもいいかもしれないよね、っと。ほら出来たァ!」
そういうと、草を細かくちぎって空に投げる。
そして、ちぎられた草に向かって左手をかざし詠唱した。
「チェンジトゥオブジェクトID!」
空に舞う細かくちぎられた草が、白い花びらに一斉に変化する。
続けて、詠唱を開始する。
「サモン・オブジェクト!」
ミーナの作った氷の結晶を大気中に大量召喚した。
その花びらと、太陽に反射してキラキラと光る氷の粒に気付いたのか、
向こうで戦っているミーナとブチョウも手を止めた。
ユウは空に手をかざすと。
「現実じゃ無理だけど、こういうのは現実じゃ絶対味わえないよね」
俺の方を振り返りニッコリ笑った。
そして、次の瞬間俺の体は崩れ、散らした草っぱは風によりブチョウを直撃した。
「シイィィィィン!」
ブチョウの叫びがこだました。
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