既存木造住宅の耐震性について

十三岡繁

新耐震と2000年

 大きい地震が起きる度にテレビなどで聞く言葉が『新耐震』だろう。1978年の宮城沖地震を受けて、建築基準法の耐震基準は大きく見直された。そこで1981年以降に建てられた建築物は新耐震基準という事で耐震性が高いとされている。


 それは確かに間違っていないのだが、今回の能登半島地震では新耐震の木造住宅でもかなり被害を受けたと報道されている。もちろん日本の耐震基準では一度の大地震でも倒壊せずに、中の人が逃げて生命を守れるようにという事が目的になっている。なので何度も大きな地震に耐えられずに倒壊してしまった…それはもちろんあるだろう。


 ただあまり報道されていないのだが、木造住宅の耐震性についてはもうひとつ大きな節目がある。新耐震では地震に対抗する壁の量を増やしただけであったが、実は建物の耐震性にはバランスが重要である。建物の重心と、聞きなれない言葉かも知れないが固さの中心=剛芯のずれが大きいと、建物がねじれて揺れてしまって被害が大きくなる。このあたりを考慮するようになったのが、1995年の阪神淡路大震災を受けて2000年からである。また、梁と柱、柱と土台などの結合部に一定基準の強度を持たせるための金物の使用も義務化された。


 金物などに頼らずとも従来のやり方で、十分強度が出るという議論もあるが、伝統工法はそれを作る大工さん等の技量で完成度にばらつきが出てしまう。大量に作られる木造住宅で満遍なく強度を担保する方法としては、金物の導入は私は有効であったと思う。


 何が言いたいかと言えば、2000年と言えば割と最近で最高でも築24年である。2000年以前に建てられた木造住宅を購入したりリフォームするときは、バランスと接合部の強度という部分にも留意して欲しい。リフォーム業者の中にはそれらを全く考慮することなく工事をしてしまうところも少なくない。不動産業者も分かっていない人間が多い。また築24年を超える木造住宅に住んでいる人も注意が必要だ。


 不安な人は専門家に相談して欲しい。図面が残っていれば前述の壁のバランスなどは見ればすぐに分かる。リフォームもどこまでやるかだが、壁や床を剥がす場合などは金物を入れるチャンスでもある。ダメ元かもしれないが、リフォーム業者にも相談してみて欲しい。工事範囲が大きくなれば当然工事金額も上がってしまうが、一番大切なのは命である。お金が大切なのではなくて、大切なものを守るためにお金があるという事を忘れないで欲しい。寝室だけ頑丈なフレームで囲んでしまうなどやり方は色々とある。


 設計者だけでなく一般の人も、もちろん不動産取引や建築工事に関わる人はとりあえず2000年という数字だけでも覚えておいて欲しい。

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