留学ハプニングエッセイ2 夜中の激痛、海外で急患病棟へ

蜜柑桜

夜中の激痛

 こんにちは。佐倉奈津の姿をした蜜柑桜です。普段は長編ファンタジーを書いていますが、今回は……ich möchte meine Erfahrung während meiner Auslandsstudien ということで、私のドイツ語を駆使した時代の留学経験を。

 海外でこんなことになったら、どうします? こんなことっていうのはですね……



 ***



「い、だ、い……いだいよう……いったぁ」

 最悪な寮生活から一年ののち、引っ越し先築140年越え一人暮らしのアパートの一室。私は悶えていました。腹痛に。それも激痛に。いくら貧乏生活で食費を削りまくり見切り品を使っての食事といえど、即保存処理等々、衛生面で問題があるわけではありませんでした。そもそも腹痛の種類がそういうタイプじゃない。

「痛いー痛いー痛いー」

 ベッドの上で叫ぶしかない。救急車、救急車呼ぶ? どうしようどうしよう。でも怖いよう救急車呼ぶとか。

 日本だって救急車呼ぶのは躊躇われるじゃないですか。それが海外って。

「お姉ちゃぁん」

 メールで医療従事者(姉)に相談するも、「急性胃腸炎」「薬のめ」「病院行け」この三点。薬は飲むも効かず。そもそもお腹を下すわけでもなく。汚い話、中のものが出れば楽なのかと思いきやその気配すらない。

「救急車呼んでいいのかわかんないよう」

『大家さんに相談しろ』

 ドイツ語で!? 夜中に!? おばあちゃん(大家さんはご高齢でした)起こすの?

 なにそれ。出来ないよう。

「上のお姉さんなら……」

 幸い、私の上に住んでいたのは日本人のお姉さんでした。動けない、動けないようという苦しさを押し殺してほうほうの体で上階へ。しかし——返事なし(起きているわけがない)。

「痛いよう痛いよう痛いよう」

『だから救急車』

 呼べないよう……



 と、一晩耐えたわたくし。朝方までなんとか耐えたわたくし。普通なら市内の町医者に行かねばなりませんが、次の日は日曜日=休診日。

 取れる道は一つしかありません。大病院の急患病棟に行くしかない。

 普通ならタクシーを取るところでしょうが、貧乏学生にそんなことができるかぁ! と身悶えしながらトラムに乗り、大学病院まで辿り着く。

 動けるんじゃん、と思われるかもしれませんが、激痛は続いているのです。ええ、佐倉奈津は異様に持久力があります。



 大学病院、急患受付に辿り着きます。

「昨日の夜からお腹が痛くて原因がわからないんです!」

「じゃあとりあえず問診を」

 と、問診に回されます。しかし……

 私は5〜6人の若い白衣の方々に囲まれます。男女混合。真ん中のお姉さんが口を開く。

「こんにちは。私たちはA大学の医学部の学生なんだけど、まずドクターに伝えるからあなたの状態を話してくれる?」

 先生とじゃないのか! すごい、学生さんが実地学習だ!

 どのくらいの学年なんだろう? もしかして研修医さんとかのレベルなのかな? でも学生さんって言っていたし! さすが医療でも有名な土地!

「えっと! 私のドイツ語はまだ不安なので、紙に書いてきました!」

Gutグッgemachtジョブ!」

 今思い返すと本当にそんな余裕よくあったな佐倉奈津。

「痛いのはお腹で、でも下痢はなくて、熱もなくて」

 みたいなのを書いた紙を渡したはず……それを読んでいただきながら、間に説明も入れつつ。

「〜で、こういう状態で、日本から持ってきたこの薬を一応飲んで」

「なんだろこの薬(製薬会社によって同じ成分でも名称が違う)」

「(日本名)セルベッ⚪︎スです」

「なにそれ知らない。どれだろ」

 学生さん、スマートフォンで私の薬を調べています。そして手際よく学生さんに採血され、確か血圧も……。

 さすが5〜6人いますから手際が良すぎます。

「それじゃあこれ、血液検査に回すから」

「にしても血圧低すぎるのでまず点滴ね」

 そして手際よくナトリウム剤の入った点滴を……

「これ、全部なくなるまでここで寝てて」

 廊下……。しかも一度に500って多くないですか。確かに薄味すぎるとか言われたりもしますけれど。

 しかし指示されたらそれに従うべし。廊下で点滴されながら寝転がる佐倉奈津。人生初の点滴が海外とは。量が多いし。

 まあそれも済みまして……点滴終わったよー。学生さん来てぇ。衆目の中で点滴で寝転がっていたくないようー。周りにも何人か点滴されている人はいるのですが、やっぱり廊下で座って点滴よりも寝ながら点滴の方がよほど恥ずかしい。

「ああ済んだわね。じゃ、こっちに」

 ここでやっと、やっと、やっとドクターと話します。

「うーん、異常値ほとんどないんだよね。腹痛になるようなものは」

 学生さんのうちの一人がしっかりドクターについて(学びながら)、私は初めてドクターの診療を受けるという。

「取り敢えず処方箋出すから薬局でそれ買って飲んでみて」

「止血のはしばらくしておいてね」

 普通の問診と思うなかれ。私が先生の話をうんうんと聞いている間、何をされているかというと、学生さんが点滴を外された私の腕にバンドを回して止血をしているんですよ。


 はい、こうして滞りなく受診が終わり、若干大学の医学部学生さんの臨床実習の材料になりながら、急死に一生を得たわけでした。


 ちなみに診療代は……無料。薬代だけです。

 保険が適用されるんですね。日本もこの辺り、もっと改善してほしいものです。保険料高いんだし。


 なんのオチもありませんが、海外にいらっしゃる方、海外旅行保険はかけていってください。保険なしだと救急車呼ぶのも高いです(余部中なったくせに)。

 ちなみに、原因は本当に分かりませんでしたが、免疫力が下がる時に異常値を出すタンパク質の値がやや異常でした(と、姉から聞く……)。


 こうして私もギリギリに、お題「危機一髪」をクリアしたわけです。



 姉の一言。

「一度にナトリウム500って多くない!?」


 これよりもっとまともな渡航時のすったもんだエッセイはこちら!

https://kakuyomu.jp/works/16818023211715267419

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