3.7.Side-チャリー-生き残り
ダネイル王国にひっそりと戻って来たチャリーは、道中で様々なことを考えながら希望を探していた。
その希望とはアオに仕えていた者たちの生き残りである。
彼らを一人でも見つけて仲間に引き入れることができれば、多くのことができるようになるはずだ。
そのためにこの任務……失敗するわけにはいかなかった。
チャリーは反乱の現場には居合わせなかったことを後悔していたが、アオ……もといエルテナと奇跡的に合流できたことでそれは安堵に変わっていた。
まだ追手の魔の手から逃げ続けなければならないが、あの男と自分が居れば問題ないという確信があった。
自分の魔法を完全に往なされたのだ。
あの刃天という男にはそれほどの実力があり、相手が魔法使いだとしても様々な機転を活かして勝利を導くだろう。
一戦戦っていやでも理解させられる。
悔しいが、実力としては刃天の方が数倍上手だ。
魔法を使わず武器一本のみであそこまで戦うことのできる力……。
それをエルテナの為に使ってくれるというのであれば、自分から言えることは何もない。
さて、任務を遂行しなければ。
そう意気込んで息を吐く。
あの大きな騒動の中、逃走を選んだ者たちも多いはずだ。
そして隠れるのに最も適しているのは、やはり人が多いダネイル王国。
ここであれば危険ではないとは言い切れないが、ある程度危険を分散させることは可能。
そのためダネイル王国には多くの使用人たちが逃げ込んでいる可能性が高い。
問題は彼ら彼女らをどうやって探し出すかなのだが……。
(皆も私みたいに仲間を探しているのは自分を守れる実力がある人だけ。他の非戦闘員はどこかの店で隠れてるかな……?)
戦闘員に選ばれる者たちは一声あればすぐにでも集結してくれるだろう。
無論その忠誠心が未だにおれていなければの話だが、ここは信じるしかない。
一方非戦闘員はやはり安全を選ぶ者たちの方が多いはずだ。
ある程度こちらで万全を期せる態勢を整えておかなければ、非戦闘員たちは安心してこちらに合流することはできないだろう。
もちろん危険を覚悟で靡いてくれる可能性はあるが、確率を高くさせるためにはある程度の安全を提示できるようにしておかなければならない。
とはいえ、短期間で安全を提示できるような状況になるとは思えなかった。
やはり今探すべきは、戦闘員。
チャリーはそんなことを考えながら酒場へと足を延ばした。
やはり人を探すならばこの辺りがいい。
まだ明るい時間帯だが暫く滞在しておけばおのずと人は増えてくるはずだ。
席に座って適当に摘まみを頼む。
今この場に居る者たちの会話に耳を傾けてみるが、あまり有力となる会話はしていないようだった。
この辺りに情報屋でも居てくれたら楽なのだが、生憎そういった伝手はない。
コツコツと小さな情報を集めて確認をしに行くしかなさそうだ。
長い間席に座って情報を収集していた。
気付けば周囲は暗くなっており、より多くの客が店内に入ってくるようになった。
ここから本格的な情報収集の開始だな、と思って気合を入れる。
客の会話に耳を傾けてみるが、なかなか有益な情報は入ってこなかった。
そう簡単にはいかないか、と摘まみを口に運んだところで冒険者ギルドの話を耳にした。
「これからどうなんだ? 冒険者ギルド」
「後釜が長になるんだろ。つっても……あの異人が指名手配されるとはな」
「まぁギルドマスターを殺したんだし当然と言えば当然だが……。あとなんだっけ? あの子供」
「エルテナとかいうやつ?」
「そっそ。なんか騒ぎになってなかったか?」
「ゼングラ領の元領主、ウィスカーネ家の子供らしい。要は生き残りだよ、生き残り」
「それが復讐に来るんだっけ? 怖いねー」
「悪いのはあっちなのになー。ハハ」
やはり周囲には、ウィスカーネ家が悪者であると周知されてしまっている様だ。
チャリーはゆっくり息を吸って静かに吐き、怒りを鎮めていった。
だが刃天とエルテナが冒険者ギルドで引き起こした騒動は広まりつつあるようだ。
指名手配されているということだし、騎士団や冒険者が駆り出される日も近いだろう。
もしかすればゼングラ領を奪い取ったヴェラルド・マドローラ家も何かしらダネイル王国に干渉して捜査を行ってくるかもしれない。
こうなってくると厄介だ。
ダネイル王国で人を探すのも危険を伴ってくる。
(残されている時間は長くない……かぁ)
少し場所を変えて情報を集めてみることにしたチャリーは、立ち上がって店を出るため支払いを済ませる。
フードを被り直して店を後にしようとした時、先ほど会話を盗み聴いた男性二人に、一人の老人が近づいたのが分かった。
顔はローブで隠れているのでよく分からない。
長い杖を持っているようだが、それは布で巻かれている。
魔法使いであることは間違いなさそうだ。
「もし、一つ聞いてもいいかな」
その声を聴いて、チャリーは鳥肌を立てた。
「……え、なんだよ爺さん……」
「その、子供の話を聞かせていただきたい。今は異人と共にいるようだが……何処に向かったかな」
「流石に知らねぇよそんなの。だーって俺も噂で聞いて程度なんだぜ? 足取りまではなぁ……興味もねぇし。もしかして爺さん賞金稼ぎ?」
「そう思っていただいても構わん」
老人は懐から何かを取り出した。
こちらからは何を取り出したか見えないので分からないが、彼と対話をしている男二人はそれを見て目を見開いて固まっている。
「なにか、知らんかね」
「……南の門番が騎士団から話を受けているのは見た」
「俺は東……」
「西と北は?」
「いや、聞いてないなぁ」
「俺も」
老人は話を聞いて首を傾げた。
だがそれをすぐに戻し、男性一人の手を取って取り出した何かを握らせる。
「邪魔したね。ではごゆるりとね」
「あ、ああ……どういたしまして……?」
老人は杖を突きながら店を出ていってしまった。
チャリーはすぐにでも声をかけたい衝動を抑え、怪しまれないよう少し間を置いてから外に出る。
それから老人の背中を探してすぐに追いかけた。
「エディバン様!」
「ぬ……!? その声……チャリーか!」
老人はバッと振り返ってフードを取っ払う。
そこには見慣れた顔が驚いた様子で目を瞠っていた。
丸眼鏡をかけており、顔には深いしわが多く刻まれているがその目は未だに若々しい。
少し痩せただろうか?
最後に見た時より少しだけ頼りなく見えてしまうが、彼は紛れもなくウィスカーネ家に仕えていた魔法使いのエディバンだった。
「良かった……! 無事だったのですね、エディバン様!」
「チャリーも良く生きていたな……! やはりここに流れてきている者は多かったか!」
「他には……?」
「いや、まだお前だけだ。はぁ……エルテナ様はまだ見つけられていない。ここにはいないかもな」
エディバンは再会した喜びをすぐにしまい込み、残念そうに嘆息した。
この切り替えの早さは彼らしいな、とチャリーは思ったが、そんな彼にとって朗報とも言えることがある。
チャリーは声を潜めて伝えた。
「エディバン様」
「なんじゃ?」
「エルテナ様ですが、既に保護しております」
「ッ!! 本当か……!?」
コクリと頷き肯定する。
そして自信満々に胸を張った。
エディバンは握り拳を作り、それを小さく振るわせていた。
これだけで彼がどれほど喜んでいるかよくわかる。
ここまで長い旅をしながら追っ手を撒き、もしくは倒し、ようやく来ることができたダネイル王国で人探しをしていたのだ。
この老体でここまで来るのは大変だっただろう。
それが今実を結んだのだ。
嬉しくないはずがない。
「チャリー、今すぐ案内せい!」
「さ、さすがにもう暗いので明日にしましょう。ここにはもう居ないんですよ」
「む、そうか。冒険者ギルドで何か事件を起こしたのだったな。ではどこにいる?」
「森です。エル様は安全な所にいますのでご心配なく。護衛ももちろんいます」
「良い手際だ……」
感心したように彼は頷き、その場にしゃがみ込んだ。
慌ててチャリーが駆け寄ると大きなため息を吐きながら膝をさすった。
「人探しは……流石に老体には堪えるな……」
「今日はゆっくり休みましょう。肩を貸しましょうか?」
「大丈夫だ。よっ……」
杖を頼りにして立ち上がり、体重を預けながら歩いていく。
色々話を聞きたいところだが今は休ませてあげた方がよさそうだ。
だが、一番最初に見つけたのがエディバンでよかった。
彼はウィスカーネ家の当主の右腕的な立場だった人物だ。
これからの行動について様々な知識を駆使して助言をしてくれることだろう。
明日にでもエルテナの下へ連れていこう。
チャリーはその時の反応を今から楽しみにしながら、一旦宿を取りに向かったのだった。
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