2.13.密偵の見聞き
大きな騒動があった冒険者ギルドは混乱に陥っていた。
ギルドマスターがどこの誰とも知らない異人に殺されてしまったのだ。
それに加えてその場に居合わせた者たち全員が傍観していただけで手を出せなかったという始末。
詳しく話を聞いてみれば、その異人は一度完全に殺されたのにも拘らず生き返ってギルドマスターを切り殺したのだという。
本当に死んでいたのかと問うてみれば、彼が使役する蛇はどんなに大きな魔物も仕留めることができる毒を持っている蛇だったらしく、人間であれば数秒で死に至らしめることができる。
飼いならすのはそこまで難しくない蛇だが、とても珍しいし種族らしい。
その蛇は確かに異人の足首に噛みついた。
これは多くの冒険者が実際に目撃しており、異人が倒れたところも多くの目撃者がいる。
にわかには信じがたい話だが、蘇る人間を相手にしようなどとは思えない、と冒険者たちは口を揃えて保険を張った。
ギルドもギルドマスターを殺されてしまったことで経営体制に大きな穴が開いており、冒険者の処罰にまで手が回っていないようだ。
そして最後に……異人が連れていた子供の話。
名前をエルテナ・ケル・ウィスカーネ。
ダネイル王国から東に行った場所にあるゼングラ領という領地の領主の息子だ。
「
「ずいぶん遠くまで逃げられたなぁ。ハハ」
情報を収集して共有しながら酒を飲む密偵二人。
二人はエルテナを追って派遣された刺客である。
まるで信じられない話がギルド周辺で横行しているようだが、どうやらこれは事実らしい。
あのギルドマスターを斬り伏せる男がエルテナの側にいる。
これだけでも厄介なのに、二人の雇い主に向けて『死神の大鎌を振るってやる』などと豪語したらしい。
この事はすぐに知らせなければならないと思い、同行していたもう一人の刺客には領地へと戻ってもらった。
この知らせが届けば本格的な捜査が開始され、確実に首を獲るまで追いかけまわされるだろう。
だが……ダネイル王国の冒険者ギルドマスターは、冒険者であれば誰でも知っているような有名人であったはずだ。
彼は貴族ではあるが実力は確かであり、所有している魔法も召喚魔法だけではなかったはず。
攻守に優れた冒険者として一時期は引っ張りだこだったり、その功績を認められて多くの地位を得たと聞いていたのだが……。
これも歳ということなのだろうか。
だがそうだとしても、やはり異人には気を配っておかなければならないだろう。
「んでどうするんだこれ。もうこの国にいないだろ……」
「確かにな。門番には金を渡しているが……見つけられるかもわからん。異人といるってことだから目立ちそうなもんだけどな」
「それが分かっただけでも大きな進歩だろ。だがヴィルソンはどうした」
「居ないってことはそういうことじゃないか?」
「あいつは厄介だからな。いないなら丁度いい」
それに同意し、酒を飲む。
この知らせが届いたら、現領主であるヴェラルド・マドーラは怒りに燃える事だろう。
そんなことを笑いながら言い合う。
まるでなってない密偵だ、と胸の内で呟いた女がマスターに金を払った。
ぼろきれのようなマントで顔を隠しながら店を出る。
華奢な体つきをしているように見えるが、それは着痩せて見えるだけだ。
腰に取り付けている鞘から武器が落ちないか少し心配して位置を調整する。
「……うっし……! 見つけましたよエル様……!」
タンッと地面を蹴った女は跳躍して屋根に登り、門の外まで最短距離で駆けていった。
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