第5話 オレの事情
大学の夜道を――街灯の少ない、人通りのない道を……つまり、股間を見られないように、オレは駆け抜けてゆく。
……ジョジョ立ちでうまくごまかせた。おそらく見られてはいないハズだ。
走っている間にも、オレの股間でオレの意思と無関係にモンスターが激しく暴れ回っている。
オレは神など信じていないが、もしこの世に神がいるとするなら、神に向かってこう叫びたい。
……神よ、なぜ、男にこのようなブツを与えたもうたのだ!!
しかし、オレのこの状況には、事情があった。
※ ※ ※
「……ふぅ~」
走ったおかげか、オレの中から湧き出たモンスターは、ようやくオレの中へと姿を消してくれていた。
そして、目の前には『第三男子寮』と書かれた門。
「……はぁ、着いた」
門を通り、中へ。
俺はいま、男子寮に住んでいる。
見ず知らずの男たちとの共同生活は、一か月ほど経っていた。
……のぞむところだ。
と、入る前は、思っていた。
オレは、草食系な上に、なかなかに忍耐強いほうだと思っている。
少しのことでは、まず声を荒げたりはしないし、また、我慢できないような理不尽な出来事が起こったとしても、それで誰かを恨んだり、復讐してやろうとか、そういったことは考えないようにしている。
……今このとき、オレよりはるかに辛い、苦しい思いをしている人たちが、絶対にいるんだ。
いつも世界苦というものに思いを馳せることにより、自分の中にふつふつと沸いてしまう感情を抑えるのだった。
……つまり、それに比べれば、男子寮での生活など、苦ではない!
と、思っていた……。
「……」
オレは自分の部屋へ。
――キィィ……。
部屋の扉を入ると、廊下が続いていて、両サイドには、木の板で仕切られたスペース。
この板の仕切りの中の空間が、オレや他のメンバーの個人スペースとなっている。ちなみにその扉はスライド式で、扉を閉めるカギは、ない。
木の板は大体5センチほどで、個人スペースは、左に3つ、右に3つずつだ。
個人スペースの中は3畳ほど。ベッド用のマットレスが置かれた台、勉強デスクとイス、そしてクローゼット、それだけ。
個人スペース同士を仕切る木の板は、天井まで届いていない。
大体2メートルくらいのとこまでしか高さがない。
つまり、勉強机やベッド用の台に乗れば、お隣の個人スペースが丸見えという状態である。
また、少しでも音を立てれば、隣どころか、部屋全体に聞こえてしまう。
ようは、漫画喫茶でよく見る環境だ。
そういえば、母親が入学手続きの際、寮の費用の破格の安さに、非常に喜んでいた。
こういう、ことだったのか……と、男子寮に入ったあと、オレは思った。
この環境……オレは、とてもではないが、できなかった。
しかも……、
「あぁ~!ショウゴさぁぁあああん!」
部屋の奥の個人スペースから、男の声。
「どうしたのかい?……ここが、いいのかい?」
口調を変えながら、一人で言い続けている。
――キィィ……。
「おう」
ひとつ上の一緒に住んでいる先輩が部屋に戻って来て、オレに声をかけた。
「先輩」
「いま、帰ったのか?」
「はい」
「お疲れお疲れ」
「そうしてだんだんと熱を帯びたそれは、わたしの身体をすべるように……!」
「むむっ!?」
先輩が声に反応した。
「けしからん!!」
すぐに先輩は声のする個人スペースへと駆け寄ると、扉を開けた。
――ガラガラ!
「おい!!マグ!!」
「……えっ!?」
オレも先輩の後ろから、個人スペースを
「ちょっ、先輩!」
俺と同期の、マグというあだ名のメンバー。ちなみに名付け親は、先輩である。
「開けるときはノックくらい……!」
マグの手には、タブレットが持たれている。
「おい、マグ。いくらサークル活動の一環といっても……」
先輩が、マグに注意した。
「俺がこれから読もうとしている、NTR系小説を先に朗読するのはよせ!!」
「……えっ?」
「ネタバレになってしまうだろうが!!」
「す、すみません!」
……いやそこかよ!!
この男子寮、思った以上に、変態の巣窟だったのだ。
大学イチと謳われるコとなんやかんやでなぜか仲良くなる鉄板シチュとか普通に考えてワイの股間マジ危機一髪なんですわぁぁ……!! じっくり @jikkuri
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