おいおい恋愛でそのハンデつけたら詰まんなくねえか?

 フレデリック=ローレンス。黒髪緑目の男。その男は今問題の遺跡に到着したところだ。

「なんか冬華ちゃんの滅多に聞かない大爆笑が聞こえた気がするんだが」

 と独りごちり、辺りを見回す。すると、木々に隠れて彼の位置からは見えにくい位置の遺跡から出てきたような男+女とそれと相対するように冬華が立っているのが見えた。

 まあ難なく見つけたので挨拶はしておく。

「冬華ちゃん。

 ♪いつもとはちょっと違う、君にアメイジ~ング!」

「うわ、好色騎士が来た!」

 そんなことは言われ慣れているといった感じで自分の前髪を手ではらう。

「オッケーオッケー! 見たところ正常だ。精神惑わされてねーみてーだなムーンショッターは欲望叶えるためにルシファーが化けた女神から自分の魂に超洗脳施術ダウンロードしてる場合あるからな」

「別に洗脳なんて霊波動や魔法や気功や陰陽道より上に位置する呪禁じゅごんで対処できるし……」

「そうだねえ、さすがにそんな感じの洗脳術は呪禁じゅごん使った方かいいわな~苦行してる坊さんじゃねえんだから使えるもんは使うべきだわな」

 と冬華に君偉いじゃないの~みたいなポーズをしつつ答える。

「おい、誰だ貴様は!

 この女は俺が最初に口説いてるんだぞ!」

「で、成功した?」

 気楽に聞き返すフレッド。

「えっ、そ、それは」

「やっぱりかー。手ごわいっしょ彼女?」

「おう」

「でもあきらめない?」

「おう」

「おーさすが! ナンパの大先輩としてアドバイスしておくぜ」

「いやあんたどっちの味方なんよ……」

 肩を落としたような体勢で水鏡冬華がぼやく。フレッドはそんなボヤキはスルーして、彼女を紹介する。

「彼女は借り物の力でイキる奴が大嫌いなんだ。だからそのまがまがしい借り物のルシファーの力捨てた方がいいぜ?」

「まぁ、それはその通りね」

 指で頬をかきながら、冬華。そして場の雰囲気を乗っ取ったフレッドに対して愚痴る。

「あんたって戦場でも自由ねー」

「褒めてくれて感謝だ」

「いや褒めてないけど」

「お、おい」

 2人の漫才が始まりそうな雰囲気をどーにか遮ろうとする。

「なにー?」

「お前はこの女を口説きに来たんじゃないのか?」

「え、俺そんなこと言った?」

「あんたいちいちナンパ宣言する? してないでしょ……」

「いやいやそーだけども」

  2人の漫才が始まりそうな雰囲気を止める事、どれだけ女神からチート能力をもらっても無理かもしれない。

 女神の姿をしたものからまがまがしいオーラを授けられた男は、弱気にそう思った。

「だいたいさ冬華ちゃんてミハさんと――」

「ちょ! この場ではいらない情報でしょ! オーラがうっとうしい発音が面白い子が暴走したらどうするの」

「ちょちょちょっと待って、そのお姉さん既婚者?」

「発音が面白いてそれで森に響くくらい大笑いしてたの冬華ちゃん」

「えっ、えっと――」

 冬華がそんな戸惑いの声を漏らした時。

 空から急速にどピンクが舞い降りてきた。

(着ている十二単がピンクベースの春ベースで髪の毛もピンクな上に雪と共に炎を操る雪女だから雪女って気づかれないのよね、この子)

 そんな事を思いつつどピンクを見つめる。

「ほ~い! この世で一番強い妖怪雪女のはるなだよ~ん」

「あんたが偽名使うのいちいち訂正めんどっちーからスルーしていい?」

「えー! 構ってくれないとやだ~!」

 水鏡冬華は頭を抑えるふりをした。

「頭病めそう」

「あらー半竜ったら頭硬すぎて頭痛いのね~とりあえずそこのムーンショッターの子を武器にしておっぱいでかくて憎らしいあなたをぶっ叩くわね~。

 おっぱい縮め~!

 憎らしい半竜の形も良くて大きさもでっかいおっぱい縮め~!」

「いやあの、人間は武器として扱えないでしょというーか、お前ら1つの会話でツッコミどころは1つにしろーーーーーーーー!」

「俺喋れてねーけど」

「そーねそーね、なんかわたしが剣向けてた相手と仲良くサンドイッチ分け合いながら話してたの見えてたわよ。

 あんたなんなの?

 RPGで敵を改心させて仲間に引き入れるような真似現実でやってくれちゃって!

 お前ら二人は自由過ぎるんじゃアホーーーーーーーーーーー!」

「あのお姉さんね。

 会話にツッコミどころが多くなりすぎるとあんな風に発狂すんの。

 元々シリアス一辺倒な人生送ってきたから会話にツッコミどころが多くなりすぎると耐えられないらしいよ?」

「そーなんですかー」

 なんかよくわかんないけどこのフレッドにつんけんした態度を取るのって遠慮――というか無駄、糠にぬかにくぎな気がして丁寧語で受け答えしてしまった女神から力を授かった彼。

「君さ。冬華ちゃんだけと相対してた時すごい神経ビリビリというかとげとげしい感じだったでしょ?

 今どうよ冬華ちゃん発狂してっけど刀向けあってた時より場の雰囲気良くない?」

「ま、まあ。そうですね。なんか場がギャグ一辺倒ですが」

「物事ってさあまり硬く考えずに端から見たら真剣にやれって先生が怒鳴りそうな事でも

『おううっせ学校フケるわー!』

 くらいの気持ちで行った方が自分の心救われるぜ。そりゃあ社会的制裁は受けるだろうが心のダメージ減らす事の方が大事だって。

 って、俺はだいぶ前にミハさんに言われた。

 それから意図して俺はこういう態度で生きてる。この世界に対してな」

「で、でも。それ結構度胸のいる生き方ですよね?」

「そのくらいの度胸は身に着けてもいいさ

 神風特攻みたいな悲しい度胸よりはよっぽとな」

 フレッドはムーンショッターにへばりついてる女を見ると、

「こんちは」

 フレッドは笑顔でそういった。

「こ、こんにちは」

「彼のこと好きなの?」

「あ、はい…。まがまがしい力ですけどそれで私の事を守ってくれたので……」

「おお。それは偉いねえ男としてかっこいいじゃん、ムーンショッター。

 他の誰もが認めなくても俺がお前を認める。

 お前はかっこいい!」

「え、あ、いえ……」

「で、それが偉いと断じた上でこれ言うんだけどな」

 とフレッドが人差し指を立てる。

「それって俺の人格に惚れたわけじゃなくて

 『この人のおかげで命助かった』

 というのがまず第一に来るじゃない。

 それってなんか詰まんねえんだよな」

「な、なんでよ? それは別に普通に受けとればいいんじゃ」

 と巫女装束の女。フレッドは緩くかぶりを振り、

「あのさ『この人のおかけで命助かった』が先に来ると俺の人格見てくれるの遅くならねえ? 『私の命を救ってくれた人』だぜ第一印象が」

 フレッドはそりゃ勘弁してくれな仕草を取るとこう続けた。

「恋愛でそのハンデつけたら詰まんなくねえか? 絶対俺の勝ちじゃんよ」

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