運命の出会い頭

平 遊

違う違う、そうじゃな……い?

「ねぇ、しょう駿しゅんも射手座のA型だよね?」


 同じクラスの相原結衣あいはらゆいがそう言って、見ていた雑誌を俺たちの方に差し出す。

 相原は世話好きタイプなのか、何かと俺たちに構ってくる。


 俺は、綿貫翔わたぬきしょう。ヤツは和多田駿わただしゅん

 別に仲が良い訳では無いが、あいうえお順の席順だと、どうしたって席が近くなる。今だって、ヤツと俺の席は前後。ヤツが俺の前の席に座っている。


「ああ。それがどうした?」


 答えたのは、ヤツ。

 血液型はともかくとして、星座が同じなのは当然。俺とヤツは同じ誕生日なのだから。

 誕生日も一緒。イニシャルも一緒。血液型も一緒。ついでに言えば、好きな女も一緒だ。


 綾野百合香あやのゆりか


 名前の通り清楚で可愛らしい。

 ヤツは暇さえあれば百合香を見ている。後ろの席の俺からは丸見えだ。

 だから、ヤツと俺が仲が良いはずがない。ライバルなのだから。


「見て、これ。今月の占い。『出会い頭で、恋の始まりの予感』だって!ラッキーデーは、明日みたいだよ?」


 ニヤニヤと笑いながら、相原はチラリと百合香を見る。

 相原はたいてい百合香と一緒にいる。家も近いし、席も近いし、確か誕生日も近くて血液型も一緒だとか。

 そういや、イニシャルも同じだ。

 俺と駿と同じような状況だが、俺たちと違って相原と百合香は本当に仲が良い。

 そんなわけだから、悔しいがいつも百合香と一緒にいる勘の良い相原には、ヤツも俺も百合香を狙っていることはバレバレらしい。

 相原の視線を感じたのか、百合香がこちらを見て小首を傾げ、曖昧な笑みを浮かべる。

 理由がわからず困っているような顔だ。これまた可愛い。

 ふと見れば、前の席の駿も、鼻の下を伸ばして百合香を見ていた。


「百合香って、あの三叉路の真ん中の道を通ってくるよねー。ま、あたしもだけど。で、翔が左で駿が右だっけ」

「学校側から見たら、そうなるな」


 相原に答えながら、俺は素早く雑誌に目を落とす。すると、同じように雑誌に目を落としていたヤツが、呆れたような顔で俺を見た。


「翔、お前こんなの信じるのか?ガキみてぇだな」

「べっ、べつに信じるなんて言ってないだろ?せっかく相原が見せてくれたから見ただけで」

「へ~」


 いちいち気に障るヤツだ、まったく。


 俺は頭にきてヤツから思い切り顔を背ける。すると、相原は可笑しそうな笑い声をあげた。


「ほんと、あんたたちって仲いいよねー」


「「どこがだよっ!」」


 非常に不本意ながら、ヤツと俺の声はぴったりと重なった。




 翌日。


 俺は朝からソワソワしていた。

 昨日相原が見せてくれた雑誌の占いには、こう書かれていたのだ。


【いつもの朝。出会い頭であの人にドンッ!そこから恋が始まる……かも!?】


 百合香がだいたい何時頃あの三叉路を通るかは、分かってる。

 だから、その時間に合わせてあの三叉路に向かうのだ。


 百合香と出会い頭でぶつかるために……!


「行ってきます!」


 ソワソワする気持ちを落ち着けて、家を飛び出す。

 走り出したい気持ちを抑え、速度を抑えてゆっくりめに歩く。

 だけど、歩きながら俺は考えた。


 なんせ今日はラッキーデー。

 もしかしたら、駿のヤツも同じことを考えているんじゃないだろうか?占いなんて、とバカにしておいて俺を差し置き、抜け駆けする気かもしれない。


 そうは行くか!


 俄然闘争心に火が尽き、自然と歩みが早くなる。

 すると、微かに遠くの方から足音が聞こえてきた。


 これはもしや、百合香の足音じゃ……!?


 一足先に三叉路の合流地点手前まで辿り着いた俺は、そこで息を整えた。

 足音が、弾むような小気味よいリズムを刻んでどんどんと近づいてくる。


 よし……今だっ!


 タイミングを見計らって、俺は三叉路の合流地点へ飛び出した。


 ドンッ!


 思い切りぶつかった相手は……


「「なっ!?なんでお前なんだよっ!?」」


 なんと、駿。

 お互いに呆然と顔を見合わせていると。


「ほんと、あんたたちって仲いいよねー」


 三叉路の真ん中の道から、ケラケラと笑い声が聞こえてきた。相原の声だ。

 見れば、百合香を伴ってこちらへと歩いてくる。


「綿貫くんと和多田くんも一緒に学校?仲良しなんだね」


 うふふ、と笑う百合香に、俺もヤツもぶんぶんと大きく首を振ったが、相原のやつがニヤニヤと笑って余計なことを言いやがった。


「違う違う、百合香。翔と駿の間には、これから恋が始まるんだよー。占いに書いてあったもん」


 やったね、このこのー!


 などと言って、相原が俺の肩にドンッと体当たりをしてくる。


「きゃあっ、そうなの!?私、応援するね!綿貫くん、和多田くん!」


 百合香は百合香で頬を染めながら、バシバシと駿の肩を叩いている。


「「んなわけ、あるかーっ!!」」


 俺とヤツが同時に叫んだのは、言うまでもない。


 もしかして、相原のやつ、こうなることを分かっていて俺たちにあの占いを見せたのかも?

 そーいや相原と百合香も、俺達と誕生日近かったはず……


 なんて思う俺は、考えすぎなんだろうか。


 百合香の隣で楽しそうに笑い続ける相原が、俺の視線に気づいてウインクなど飛ばしてくる。

 何故か俺の胸が、ドキンと跳ねた。


【終】

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