命の恩人

口羽龍

命の恩人

 それは1月7日の事だった。小学3年生の黒崎加奈(くろさきかな)は友人の家でテレビゲームで遊んでいた。だが、午後4時になり、帰宅する時間になったので、帰宅する事にした。遅くまで帰らないと、両親が心配するだろう。帰らなければ。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ」


 加奈は遊んだ友人に手を振り、別れた。加奈は家に向かって帰宅し始めた。家まではそんなに遠くない。すぐ帰れる。問題ない。


「早く帰らないと」


 加奈は帰り道を歩いていた。途中には工事現場があり、鉄柱をクレーンで運んでいた。だが、加奈は全く気にしていない。クレーンは慎重に鉄柱を運んでいた。


 だが突然、風にあおられて鉄柱が落下し始めた。その鉄柱は加奈の頭上に落下してくる。だが、加奈はまだ気づいていない。


 直前になって、気配を感じた加奈は上を見た。鉄柱が迫ってくる。


「うわっ・・・」


 まさか、鉄柱が落下してくるとは。死を覚悟した。


 加奈は頭を押さえた。だが、落下してこない。何だろう。加奈は上を見た。


「あれ?」


 そこには、黒い壁がある。何だろう。加奈は首をかしげた。今さっきはそこになかったのに。


「壁が・・・」


 加奈が前を見ると、鉄柱が転がっている。危機一髪だったが、どうして壁ができたんだろう。


「まぁいいか、帰ろう」


 だが、加奈は気にする事なく、家に向かって再び歩きだした。加奈は知らなかった。その時、後ろに1人の少年がいるのを。


 数分後、加奈は家に帰ってきた。いつも通り家に帰るなんて、奇跡だ。だが、引き続きこんな思わぬ事故があるかもしれない。気を付けないと。


「ただいまー」

「おかえりー」


 加奈はすぐに2階に向かった。こんな事故に遭いそうになって、疲れてるのだろう。いつもと違う加奈を、母は不思議そうに見ている。


「どうしたの?」


 母は気になった。何があったんだろう。


「いや、何でもないよ」

「そう・・・」


 だが、加奈は何も言わずに2階に向かった。




 翌日、今日は1月8日。冬休みは終わり、今日から始業式だ。いつも通り迎えられることが、奇跡だ。今までそう思った事はないのに。


「行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい」


 加奈は小学校に向かった。今日は転校生が来るという噂がある。どんな転校生だろうか? かっこいいんだろうか? 楽しみだな。


 その途中、同級生に向かった。昨日、友人の家で一緒にテレビゲームをやっていた子だ。


「加奈ちゃん、おはよう」

「おはよう」


 その子も、転校生が来るという話題で持ちきりだ。


「今日から転校生がやってくるって」

「そうそう。とっても他人思いの子だって」


 その子は、転校生の事をある程度知っていた。だが、会った事はない。早く会いたいな。


「そうなんだ」


 2人は一緒に小学校にやって来た。小学校には、多くの小学生がいる。いつもの日常が戻ってきた。また小学校生活を頑張っていかないと。


 2人は教室に入ってきた。ここも懐かしい。終業式と違い、机といすが1つずつ増えている。転校生のために増やしたんだろう。


 間もなくして、チャイムが鳴り、先生がやって来た。そして、先生の後に続いて、転校生がやって来た。その転校生は、スポーツ刈りのかっこいい男の子だ。


「起立、礼!」

「おはようございます」


 生徒はみんな、席に座り、転校生をじっと見た。こんな顔なんだ。かっこいいな。


「えー、以前からお話ししてましたが、この子が今日からこの小学校にやってきました、土山貴生(つちやまたかお)くんです。皆さん、仲良くしてやってくださいね」


 その声とともに、貴生は少し緊張しながらお辞儀をした。


「はーい!」

「じゃあ、黒崎加奈さんの隣の席にどうぞ」

「はい」


 貴生は加奈の横に席に座った。この席が新たに追加された席だ。加奈は緊張している。まさか、転校生が隣に来るとは。




 始業式の後、加奈は友人と話をしていた。ここで会話するのも、久しぶりだ。


「あの子、なかなかいい子じゃない」

「うん」


 そこでも話は、貴生の事で持ち切りだ。噂には聞いていたが、こんなにかっこいいとは。これは惚れるな。


 そこに、貴生がやって来た。貴生は男の子と話をしていたが、終わってここにやって来たようだ。


「あっ、貴生くーん」


 加奈が手を振ると、貴生は笑みを浮かべ、反応した。


「どうした?」

「遊ぼうよ」


 貴生がやって来た。と、貴生は何かに気が付いた。加奈に見覚えがあるようだ。


「うん。あれ? 君、昨日、事故に遭いそうだったんじゃない?」

「えっ!? 何で知ってたの?」


 作業をしていた人以外、誰も見ていないと思っていたのに。まさか見た人がいたとは。


「加奈ちゃん、何かあったの?」

「鉄柱が落ちてきたんだけど、突然周りに壁ができて、無傷で済んだんだ」


 それを聞いて、友人は驚いた。昨日の帰り道で、こんな事があったとは。よく無傷で済んだな。でも、周りに壁ができるなんて。どうしてだろう。まさか、不思議な力だろうか? いや、そんなものは存在しない。


「そんな危ない事があったんだ。危機一髪だったね」

「うん。まさか、貴生くん、見てたの?」

「うん」


 誰も見ていないと思っていたが、貴生が見ていたとは。全く知らなかったな。


「誰もいないように見えたんだけどな」

「それが見てたんだよ」


 貴生は笑みを浮かべている。だが、加奈はその理由に気づいていない。


「そうなんだ、って、えっ!?」


 と、加奈は貴生のズボンから尻尾が見えているのに気が付いた。だが、周りの子供は全く気付いていない。どうしてだろう。加奈にしか見えないんだろうか?


「どうしたの?」

「い、いや、尻尾が見えて」


 加奈は焦っている。そんなの、ありえない。まさか、妖怪なんてありえない。空想上のものだよね。


「ふーん・・・」


 貴生は不敵な笑みを浮かべている。あの時、突然できた壁の正体が、化け狸の貴生だという事を。

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