危機一発!

日出詩歌

危機一発!

 深夜1時、突然インターホンが鳴る。不審に思いつつドアを開けた先で待ち構えていたのは、スーツを着た強面のサングラス男であった。彼の威圧に圧倒され、俺の顔からすっと血の気が引いていく。初めて見る顔だが、俺にはわかる。確実に社会の裏を知っている顔だ。サングラス男が何のためにきたのか。想像には難くなかった。

「す、すみません……来月は必ず……支払いますので……」

 するとサングラスの男はにやりと口角を上げ、俺の目の前で手をパーに広げた。 

「お前さんの親がこさえた借金、5000万。全部チャラにしてやってもいい」

 発せられた言葉が脳でうまく受け入れられない。ノイズ混じりに記憶され、脳からは『よく聞き取れませんでした』と出力された。

「は?」

「だから、借金チャラにしてもいいっつってんだよ」

 俺は口をぱくぱくさせる。

「本当に?」

「ただし条件がある」

 男は目の前にどん、とそれを置いた。

「これが何か、わかるよな?」

「……『黒ひげ危機一発』」

 緊迫した空気と強面の男。そこに子供のおもちゃが登場するにはあまりにも場違いな光景すぎる。

「剣一刺しにつき100万の上乗せ。だが勝てたら……借金を全部無かった事にしてやる。どうだ、乗るか?」

 俺はゆっくりと頷いた。

「そりゃ、乗るしかないよな」

 男はプラスチックの剣を床にばら撒く。

「まずは俺の番だ」

 剣を一本刺す。樽の上の黒ひげは微塵も動かない。

 男は顎で俺の番を示す。

 俺は震える手で剣を掴み、穴の一つに通した。

 何も起こらない。

 それから次々と交互に剣を刺していき、穴が残り2つになった。

 気持ち悪い手汗が止まらない。

「これで残り2つ。どちらか一方でお前の運命が決まる。さぁ、刺せよ」

 唾を飲む。俺はゆっくりと、剣を穴に差し込んだ。カチリ、と音がしてーー

 何も変わらない。

 という事は、残りの1つが外れの穴。

「いよっしゃあ!俺の勝ちだ!」

 雄叫びのように叫ぶ。緊張が一気に抜ける。

 だが、男はニヤリ、と意地悪く口元を歪ませた。

「お前、ルール知らないんだな」

 そして残る最後の穴に剣を突き刺しーー

「『黒ひげ危機一発』はな……黒ひげを逃した奴が勝ちなんだよ」

 黒ひげは天高く飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

危機一発! 日出詩歌 @Seekahide

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ