第9話:神霊の恋。

「じゃ〜手始めです」


阿加流姫はそう言うと、すばやく神羅の前に来て唇を突き出した。


「・・・・・・なに?」


そう言って神羅はアカルを見た。

それは瞬きする間のない瞬時の出来事だった。

阿加流姫は神羅の唇にキスをしたのだ。


「恋人どうしのコミュニケーションです」


「やわらか〜・・・・って」

「こ、恋人って?」


「召喚士と神霊は一心同体って言ったでしょ」

「一度、こう言うのしてみたかったんです」


「まじで?」

「これって、俺はどうとらえたらいいのかな?」


「そのままですよ、これは自然の成り行きです」

「私、神羅が好きです・・・恋してると思ってください」

「その気持ちに、うそ偽りなく従ったまでです」


「気持ちの動きが早すぎないか?」

「俺たち知り合って、そんなに経ってないだろ・・・」

「神霊って言うからもっと考え方が古風なのかって思ったけど・・・」


「そう言うもんでしょ、出会いって」

「新羅への気持ちを隠したままでいて、傀魔を倒すのに支障をきたすよう

ではいけませんからね」

「心の中はいつでもクリアじゃないと・・・」


「たしかにそれは困るよな・・・って、俺だって同じだな」

「余計な雑念があったら集中できないもんな」

「俺の場合はアカルの気持ちがプレッシャーになるかも・・・」


「プレッシャー?・・・ってなんですか?」

「神霊に愛されるなんて滅多にないことですから喜んでもらってもいいと

思いますけど・・・」


「俺もアカルのことは好きだけど・・・恋とはちょっと違うと思うし・・・

早すぎるよ・・・気持ちが追いつかない」


「受け入れてくださいね」

「私は私の召喚士が神羅で、よかったって心から思ってるんですから」

「プレッシャーだなんて思わないでください」


「なんでしたら私のパンツあげますから・・・ね」


「なんでそこでパンツが出てくるんだよ」

「最初っからほんとにそこにこだわるな〜」


「嫌いじゃないでしょ」

「神羅の心が少しでもホッコリしたほうがいいと思って・・・」


「俺はそんな不純な男じゃないよ」


「うそだあ・・・」


「うそじゃないわ」


「まあいいです、だから私の存在がいつでも神羅の心の中にあること

がベストなんです」

「今は私の一方的な恋心だったとしてもです・・・」


「そう言われると責任感じるな」

「まあ召喚士と神霊はお互いが歪みあってたらいい仕事はできないもんな」

「でも、そう言うしがらみなんかなくても俺も俺の神霊がアカルでよかった

って心から思ってるよ」


「はいっ、よかったです、嬉しいですぅ」


阿加流姫は満面の笑みを浮かべた。


「あはは、そんな嬉しそうな顔もするんだ」


「おかしいですか?」


「いや・・・いつも冷静沈着だし・・・上から目線だし・・・女の子らしい

部分もあるんだなって思って」


「神霊と言うだけで、私も人間の女の子とさほど変わんないんですよ」

「神様の世界では召喚士と神霊が結婚して子供を作った人もいます」


「うそ・・・」


「神様だって神霊だって恋もしますし子孫も残します」

「もともと人間は神様を模倣して作られてるんですからね・・・」

「本当のことですよ」


「そうなんだ・・・聞けば聞くほど驚きの連続だな・・・」

「あのさ・・・怒らないで聞いて欲しいんだけど・・・」


「なんでしょう?」


「ひいじいさんとも、こう言うことってあったの?」


「ないですよ・・・だって嘉斎様には奥様がいらっしゃいましたし、言っちゃ

なんですけど、あの方は私のタイプじゃありませんから・・・」

「それに相手に奥様がいらっしゃるのに恋したらそれって不倫でしょ・・・

それはダメでしょ・・・神霊は道に外れたことはしちゃいけないんです」


「あはは、タイプじゃないって・・・なるほどね・・・」

「それでよくキミュニケーション取れてたね」


「それは私が優秀だからです」


「そかそか・・・なるほど、そうなんだ・・ちょっと安心した」

「まあ、俺とアカルのことは身も心もってところも含めてこれから時間を

かけて育んで行くとして・・・」


「改めてよろしくねアカル・・・これから一緒にカイライと戦っていこう」


「はいっ」


「なんだか、狐につままれた気分だよ」

「それは、そうとして・・・俺は明日から学校だから」

「アカルは家にいるか、神界に帰るかしててくれる?」


「神界へは帰りませんけど・・・でも昼間は暇ですね・・・私も学校について

いこうかな・・・制服着てるし・・・」


「ひいじいさんの相手でもしておいてくれれば・・・」


「嘉幻斎様とですか?・・・いや〜それは・・・ご遠慮させていただきます、

それに今更ですよ」

「あの方と何年一緒にいたと思ってるんです?」

「それなら学校についていったほうがマシです」


「学校なんて余計退屈するよ」


「私は神羅が一人になることのほうが心配です・・・」

「だって、傀魔を操ってるやつの正体も分かんないんですよ」

「狙われでもしたら・・・」


「大丈夫だよ、気をつけるから」

「それにクラスにも生徒はいるし・・・一人にならなきゃ大丈夫だよ」

「俺よりアカルも気をつけないと・・・」


「私は大丈夫、召喚士が生きてる限り、神霊は大丈夫です」

「ってことだから私、やっぱり学校へついていきます」


「俺のあとを金魚のウンコみたいについて来ようってわけ?」


「なんですか?金魚のウンコって?」


「金魚知ってるよね」


「はい・・・赤いお魚ですよね」


「そうそう、その金魚って自分の出した長いうんこを、ひきつれて泳いでるから、

人の後ろからくっついて来ることを長いウンコにたとえて金魚のウンコって

言うんだよ」


「まあ、私金魚のウンチと同じなんですか?」

「ひどい・・・」


「だから、そう言うたとえだって・・・」

「心配いらないからね、何かあったらすぐにアカルを呼ぶよ」


「でも傀魔を操ってるやつは昼間のほうが探しやすいかもですね」

「傀魔は陽の光を嫌いますからあいつらが出てこないうちなら・・・」


「そうなんだ、じゃ〜昼間は気をぬいていても大丈夫なのかな」


「い〜え、油断はできません」

「昼間でも曇りの日や雨の日も危ないですね」

「傀魔は直射日光を浴びなければ短時間なら人間界でも動けるんですよ」


「やっぱり私、神羅と一緒に学校へ行きます」

「召喚士と神霊が離れてるってのはよくないです」

「誰にも見つからないようにしますから・・・」


「はやく傀魔を操ってる妖怪を見つけたいんです」

「いつまでもカイライと戦ってたら終わりませんからね」


「また今夜、カイライが出るのかな?」


「十中八九・・・」


つづく。

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