千年雪

金星タヌキ

千年雪



「――俺 ユキのこと全部 好きだけど 名前は嫌いだ……」



 ボソッと呟くように大ちゃんが言う。

 夜 たっぷり愛してくれた後の深夜の時間帯。

 最後 抱き寄せてくれながら いつも大抵 ボソボソと暗いことを言う。

 いつも無口で努力家で背中で語るタイプの大ちゃんが 私にだけ見せる弱い貌。

 けっこう好きな時間かも。

 ……言わないけど。



「……どうして?」



 厚い胸板に顔を埋めながら 聞いてあげる。

 太い腕で私の肩をかき寄せ 大ちゃんが答える。



けて 居なくなりそうだから……」



 そう言いながら ぎゅっと腕に力を込める。

 暖かくて優しくて そして ちょっと苦しくて。

 大ちゃんの愛が伝わって来る。



「……どう。居なくなった?」



 大ちゃんが 小さくかぶりを振る。



「雪は……ぎゅってしてくれたらね 融けたりせずに 固まって千年雪になるんだよ。だから 大丈夫。ずっと そばにいるから……だから いつも ぎゅってしてて」


「……うん。好きだ ユキ……」



 言葉と一緒に ぎゅって抱き締めてくれる。

 普段の姿からは想像もできない 本当に素直で可愛い幼児さんみたいな 私だけの大ちゃん。


 大好きだよ……大吾。

 でも 私の名前【雪】じゃなくて【幸紀】なんだけどな。

 ······言わないけど。

 


 

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千年雪 金星タヌキ @VenusRacoon

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