後日談(1)


「──知らない天井だ」



 なんだかこのセリフ天丼になりそうだしこれで最後にしよう、なんて思いながら、目を覚ました式隆はつぶやいた。



「いっ──てててて……」



 痛む身体をどうにか起こして周囲を見回し、自分がいる場所が病院らしいことを認識する。



「腹減ったなぁー」



 身体を動かすと激痛が走るので、何をするわけでもなくぼーっとしていると、戸が開いてナースらしき女性が部屋に入ってきた。



「えっ起きてる? 怖ぁ…」


「えぇ……随分なご挨拶ですね」




 その後、医者から軽い診察を受け、一週間は病室で絶対安静にしているよう申し付けられた。



「回復とんでもなく早いねぇ。キミ死にかけてたんだよ? そりゃ担当のナースだって怖がるさ」



 君のお知り合いには伝えておくからね、と言われ、式隆は再び病室へと戻された。











 その後、一時間ほど経った頃に訪ねてきたダヴィドに、事の顛末を聞かされることとなった。


 あの戦いの後、死にかけ同然の自分はレナートによって病院に担ぎ込まれ、そこから丸三日眠っていたらしい。どうりで腹が減っているわけだ。


 運ばれてきた食事をむさぼりながら、ダヴィドの話を聞く。



「今や新聞記事の紙面を飾る大ニュースになってんぜ」



 一連の件は、これまで音沙汰すらなかった賞金首同然の国際指名手配犯二人が逮捕される、という大事件となり、現在この街どころか国家規模で大々的に取り上げられているようだ。



「あの二人ってそんなヤバい連中だったんか」


「知らなかったのかよ……」


「うん。クルトって方は名前すら」



 クルトもワズガルも、十二分な戦闘能力を持つ人物だったのは戦ったのでよく知っている。だが、そこまで名を馳せる犯罪者だったとは。



「……勝てたのは奇跡だなホント」



 わざわざ戦士ギルドのギルドマスターが報告に来たのもそれが理由らしい。



「レナートやリトさんたちは?」


「あいつらも……まぁ逮捕だ。 奴隷の違法売買を主導していた立場なわけだからな。ただ一連の件の立役者ではあるわけだし、違法にしては奴隷をそこまでひどく扱っていたというわけでもないらしいし、情状酌量の余地はあるんじゃないか?」



 ダヴィドは肩をすくめてそう言い、新聞を投げてよこす。


 内容としては、大方今聞いた内容がそのまま書いてあるだけではあったが──




【稀代の犯罪者であると同時に、片やかつて名を馳せた大魔法士。片や『闇刃』と呼ばれた最凶の辻斬り。我々が調査を経て掴んだ情報によれば、なんとこの二人を打ち倒したのは一人の青年であったらしい。かの『闇夜の英雄』は────】




「……おい、なんだこのイタイ名前のやつは」


「オマエだろ」


「……………………」



 式隆は顔をしわくちゃに歪めて絶句した。


 イタ過ぎる。そして絶妙にダサい。付けたヤツは絶対センスない。



「…胃も痛くなってきた気がする」


「そうか。そりゃ災難だな」



 式隆が二人を打倒したことについては、ごく一部の者しか知らない事実だ。だが、どうやらあの夜、クルトとの戦いの際の剣戟の音がかなり響いており、少数ではあるが目撃者もいたようだ。


 おまけにダメ押しとして、一人の門番が式隆とワズガルの戦いを見ていたらしい。


 新聞記事によると、式隆が外に吹っ飛ばされたタイミングでちょうど門を閉めに来ていたようだ。巻き込まなくて良かったと思うが、黙っていてほしかったところである。



「あ、そうだ日奈美は?」


「あー、あの子は……」


「──! なんかあったのか!?」



 なぜだか言いよどむダヴィドに式隆は思わず焦るが、ダヴィドは慌てて首を振って否定する。



「いやいや違う違う。ただこの事件以降、取りつかれたみたいに魔法に打ち込んでてなぁ……」


「? なんでそんな……」



 疑問符を受かべる式隆を呆れたように見やり、ダヴィドは小声でつぶやいた。



「罪な男だねぇ」





 その後、またしばらくして。


 式隆は、病室に駆けこんできた日奈美に顔を合わせるや否や号泣され、無茶をした件について、一時間ほどたっぷりと叱られることとなったのだった。


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