ワイヤージレンマ

夏目咲良(なつめさくら)

第1話

※何色のワイヤーを切るか。映画に出て来る爆発物処理の

お約束の展開を『ワイヤージレンマ』と呼ぶ。


 俺は、警察の爆発物処理班として働いている。

 今までに解体した爆弾は5つ。もちろん成功率100%。

 じゃないと、とっくにあの世に行ってる。

 これはそんな俺がプライベートで人生最大の爆弾に遭遇した話。


 マジかよ。

 その光景を見た瞬間、俺は悟った。

 ヤバいタイミングで来てしまったと。

 場所はオシャレなレストラン。

 周囲の人間は爆発物の存在に気付いておらず、食事を楽しみ、

談笑している。

 捨て身で飛び込み、ワイヤーを切断すれば、停まるかも知れない。

 どうする?どうすればいい?

 もう迷ってる時間は無い。

 赤いワイヤーが鈍く輝いて見える。

 だが、俺は動けなかった。

――そして。


「俺と、結婚してください!」

「……はい♡」

 箱から指環を取り出す爆発物Aと

それを受け取る爆発物B。

 爆発しやがった。


「二人とも、おめでとう!」

 しばらく待ってから、二人の元へ行った俺は

満面の笑みを浮かべ、祝福した。

「ありがとう、親友のお前に一番に祝福してもらいたかったんだ!」

 涙ながらに語る爆発物A、もとい俺の親友。

 良いヤツだけど、プロポーズの現場に呼びつけるのはどうかと思うぞ。

 爆発物Bの方も微妙に気まずそうな顔をしてるし。

 ……内緒だけど、数年前まで付き合ってたんだよな。俺達。

 だから、二人の仲睦まじそうな様子を見た時、一瞬迷った。

――飛び込んで、プロポーズの邪魔をすれば、二人を繋ぐ

赤いワイヤーを切ってしまえば――って。

 でも、できなかった。

「じゃあ、俺帰るわ」

 話をそこそこで切り上げ、踵を返す。

「またな。今度はゆっくり飲もうぜ」

 だから空気読めって、親友。爆発物Bの目が怖いんだって。

 適当に返事をして、店を出る直前。小さく呟いた。

「……末永く爆発しやがれ」 

 


 

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ワイヤージレンマ 夏目咲良(なつめさくら) @natsumesakura

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