第37話 デートの終わりのハプニング

     ※


 幻想的で夢のような時間は終わりを迎えて、暗くなった夜道を俺は莉愛と歩いている。

「思ったより、遅くなっちゃってごめんな」


「ううん。

 こうして送ってもらってるし……それに、今日は本当に楽しかったから」


 莉愛は何度も言葉にして気持ちを伝えてくれた。 

 その度に自然と胸が温かくなる。


「俺も……楽しかった」


 一歩、一歩、足を進める度に彼女の家に近付いていく。

 もう少しで莉愛の家に到着して、今日という日が終わってしまう。


「……このまま別れるのが惜しいくらいだ」


 思っていた素直な想いが、そのまま口から出ていた。

 すると俺の言葉に反応するように莉愛の足が止まった。


「それって……このまま、私と一緒にいたいって、こと?」


「ぇ……」


 もっと莉愛と一緒にいたい。

 そう思っていたのは事実だ。

 でも、莉愛の声音には微かな緊張が感じられた。

 俺を見る彼女の瞳が、『どうする?』と熱く問い掛けている。


「私は……いいよ?」


 莉愛は俺に身を寄せて、上目遣いを向け俺を見つめる。


(……い、いいって……)


 なんて、思わず聞き返しそうになってしまった口を慌てて閉じて、胸の中で反芻した。

(……このまま、一緒にいたい)


 その気持ちは本当だ。


「だけど……」


「大希なら……いいよ」


 戸惑う俺に、莉愛は俺の背中を後押しするようにもう一度自分の想いを伝えてくれた。 でも、莉愛の瞳は濡れて、身体は微かに震えている。

 緊張や不安が伝わってきた。


「……ありがとう、莉愛」


 壊れ物を扱うみたいに優しく、俺は莉愛を抱き締めた。

 莉愛を大切にしたい。

 心から俺がそう思っていることが、少しでも伝わってほしかったから。


「大希……?」


 すると彼女の身体の震えが少しずつ収まっていく。


「これからも俺は莉愛と一緒にいたい」


「うん……私も……同じ気持ち」


 莉愛も俺の身体に腕を回した。


「高校を卒業して、大学生になって、就職して……将来、莉愛のことを幸せにできるように、頑張っていきたい」


「私との未来のこと、考えてくれてるんだ」


「……ちょっと重いか?」


「そんなことない。

 私のこと……大事にしようとしてくれてるって、伝わってきたから」


 俺の胸の中で莉愛が顔を上げて、嬉しそうに微笑んでくれた。


「だから……今は、まだ……俺が将来、莉愛を必ず幸せにできるって、キミを守れるようになるまで……待ってくれるか?」


「でも……」


 俺を見つめる莉愛が、言葉を詰まらせた。


「どうしたんだ?」


「……大希は、そんなに我慢できるの?」


「ぇ……え!?」


 我慢って、それってそういうこと、か?


「私……魅力ない?」


「そ、それは違う!

 本当なら今直ぐにだって――ぁ……」


 俺が口ごもると、莉愛はニヤっと悪戯っぽく笑った。


「したいんだ?」


「っ……それは、当たり前だろ。

 莉愛のことが好きなんだから」


「ふふっ……大希がそう思ってくれて、嬉しい」


 俺を抱きしめていた莉愛の腕に、ぎゅっ――と、力が入った。

 柔らかな莉愛の身体の感触と温もりが伝わってくる。

 それだけ余計に彼女を意識してしまう。


「ねぇ……大希」


「な、なんだ?」


 背伸びをした莉愛の唇が俺の耳元にまで届いて、


「大希の気持ち……十分伝わったから、したかったら……いつでも言ってね。

 私……後悔なんてしないから」


 ドキっとするような声音で囁かれた。


「そんなこと言われたら……理性が持たないから」


「私は、本当にいいのに」


 そう言って微笑む莉愛を見て、愛おしさが溢れておtまらなくて、俺は彼女を強く抱き締めた。

 そして自然に……互いの唇が近付いて、


「――うん、莉愛かい?」


 不意に、莉愛を呼ぶ声が聞こえた。

 自然と顔が声の方向に向く。

 視線の先に立っていたのは、


「ぁ……お父さん?」


「ぇ……おとう、さん? お父さん!?」


 俺にとって、完全に予想外の人だったんだ。

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