ハッピーエンド『一輪の輝き』

 長い間続いていた猛吹雪が嘘のように止み、地平線の雲間から輝かしい朝日が差し込んでいた。

 屋敷の前に停まったいくつもの雪上車とパトランプの灯りが、足跡まみれになった雪上をきらきらと彩っていた。


『いやー、なるほどねぇ。本来死んでしまう犯人役を、シナリオ上絶対死なないユキゴンに役目を押し付けるなんて。バグにバグを重ねまくったワケだ』


 少し離れた雪の丘から、雪上車に乗り込んでいく晴れ晴れとした表情の登場人物たちを、私は感無量な心地で眺めていた。


「今回は奏人っていうお助けキャラもいてくれたことだし、他の登場人物たちも私を信用して動いてくれたしね」


『……周回で手に入れた彼らの秘密を羅列し、言う事聞かないとバラすって、それは手紙ではなく脅迫状というのでは?』


 私はわざとらしく空咳を挟む。


『じゃあ、ハッピーエンドも迎えたし、そろそろ引き上げるね』


 すると、朝日の輝きと共に、私の身体がさらさらと光の粒に変わっていく。

 その時、背後からゆっくりと、雪を踏み越える小さな足音が聞こえた。


「ありがとうメイドさん。僕たちのために、この世界のために、力を尽くしてくれて」


 振り返れば、一輪のスノードロップを手にした奏人が、穏やかに微笑みながら立っていた。


「本意じゃなかったかもしれない。それでも君のおかげで、僕たちは真の意味で完成したんだ」


 視界が朝日の眩しさと同化し始め、彼の姿が見えなくなっていく。


「さようなら、別の世界の  さん。機会があれば、また遊んでね」


 雪上に顔を出した儚くも逞しい花弁が、冷たくもどこか心地の良い風に揺られていた。





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