キノコ狩り

荒川 長石

キノコ狩り

森へキノコ狩りに出かけた。赤い地に黄色の斑点が良いキノコ、黄色い地に赤い斑点が毒キノコだ。

ところが、この日に限ってキノコが一本も見つからない。沢をわたり、苔に覆われた岩の隙間を夢中になって登っていくうちに、私はいつのまにか、見覚えのない深い森の中に足を踏み入れていた。高く聳え立つ木々に光をさえぎられた、色のない森を私はめぐった。そして気がつくと私は、なぜかそこだけ樹木が一本もない、小さな丸い広場のような場所の入り口に立っていた。広場の中心に、一本のキノコが生えているのを私は見た。

ようやくひとつか……

そのとき、私はよほど疲れていたのだろう、キノコの前へと歩み出ると、その場にへたり込んでしまった。急に座ったせいか、頭にのぼってきた血液が耳元でドクドクと脈打つのが聞こえた。落ち着くのをじっと待つ。すると、今度は貧血だろうか、森の中の、わずかな明るい部分と暗い部分がソラリゼーションのように反転して、キノコの良し悪しの判別がさっぱりつかない……

ようやく良いキノコだと分かり、持ってきたスコップで慎重に根元から掘り起こす。袋に入れる前に、ちょっと傘の部分を三分の一ほどかじってみた。しっとりとした歯ごたえ、こうばしい新鮮な菌糸の香り……

突然、ワライカワセミのようなけたたましい笑い声が森の中にこだました。それが自分の声だと気づくまでに長くはかからなかった。まるで他人が笑っているみたいだった。手に持ったキノコの残りを見ると、案の定、黄色に赤の点々だ……

すると、今までどこに隠れていたのだろう、森の動物たちがぞくぞくと広場に集まってきた。私は必死に両手で口を押さえたが、声は頭頂のチャクラから出ているのだろうか、ますますかん高く、ますます豊かに鳴りわたった。

動物たちが私のまわりを完全に取り囲むと、やっと声がやんだ。静寂が訪れ、気まずい雰囲気が辺りを覆った。私はいったい動物たちに何を期待されているのだろうか。動物たちの透き通ったガラスのような目がじっと私を見つめていた。まるで博物館の剥製たちに取り囲まれているようだった。こうぎっしりと取り囲まれていては、こっそりと逃げ出すこともできやしない……

そのまま数分がすぎた。案の定、動物たちの間にも、微妙な空気とともに不穏なざわめきが広がり始めた。得体のしれない凶暴さが広場にはみなぎっていた。いちばん前のメガネザルは明らかに興奮し始めていて、さっきから苛立たしげに足で地面をパタパタと叩いている。それに、動物どもは私との間合いを、いつの間にかじりじりと詰めつつあるようでもあった。噎せ返りそうになるほど密度の高い動物たちの体臭がより間近に感じられるのがその証拠だ。そのことが私を限りなく不安にさせた……

私はとっさに袋に手を突っ込んでキノコを取り出すと、そのカサの半分をかじり取った。ワライカワセミのようなけたたましい笑い声が再び森の中にこだまし始めるやいなや、動物どもは催眠術にかかったように再び動かなくなった。淫靡な秩序がその場を支配した。ひと所にかたまった一群の鹿たちが、みな同じようにうっとりと半目を開けている……。するとそのとき、一匹のメガネザルの子供が大量の毒キノコを腕一杯に抱えて、酒に酔ったような足取りでヨタヨタと近づいてきた。そいつは私のキノコ袋をゆっくりとした手つきで勝手に広げると、腕に抱えていたキノコをその中に放り込んだ。その仕草を見て私は、ようやく動物どもの意図を理解したような気がして、袋一杯の毒キノコに見入りながら、絶望に通じる自分の理解を帳消しにするかのように、ますますかん高い声をあげて笑い続けた……

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