弓道部の僕、矢取りで涼しくなる。
もっこす
矢取り、射った矢を回収すること。
今日はポカポカと暖かい気候。気持ちが浮かれてしまうかのような、そんな心地よい風も吹いていた。
通っている高校は春休み中で、毎日のように僕は部活の練習をする日々だ。
顧問の先生は用事があるからと、いったん職員室へと戻っているし。なんだか気が抜けてしまったかのような感じだ。
もうすぐで矢取りだから、看的小屋と呼ばれる小さな小屋の中で、僕は右手にボロボロのタオルを持って、待機していた。ここから右手側にある矢を射る場所、弓道場の射場から大勢の部員達が、白い弓道衣に黒い袴姿で、目の前にある的に向かって矢を射る稽古中だ。
僕はもう3年生だけど、稽古で射った矢を回収するのは部員みんなでローテーションを組みながらやるのだ。
カシュン―――カシュン―――パスッパス。
弦音の音がいくつも響いて、弓道場の射場から放たれた矢は、目の前にある
安土には、等間隔に5つの的が設置してあるけど、全然的に
「おう、弓太郎。矢取りくるのはえぇな!」
「そんな事ないよ。いつも通りさ」
看的小屋から的を眺めていると、後ろから声がしたので振り向いた。そこにはニックネーム、ヘタレ野郎が矢取りへと来ていた。
「また4本目だけ外したでしょ? 相変わらずヘタレだな~」
「うるせぇやい! 弓太郎なんかさっきは残念だろ?」
「ははは、そうだね。今日は調子悪いんだよ」
「そっかー。気が抜けてると、怪我するぜ?」
「うん。気をつけるよ」
看的小屋の中は狭くて、3人でギュウギュウ詰め。だから1列に並んで、前から順番に自分が矢を射っていた的へと進んでいく。
矢取りへと来た他の部員達も、みんなこっちに来たようだ。あとは矢取りの合図を待つだけだ。合図は、「お願いします」と射場から声がしたら、僕はパンパンッと手を2回叩き、「入ります」と言ってから矢取りに入るんだ。
カシュン―――ポス。手前から2番目の的、安土に矢が刺さって、矢取りの合図が射場から聞こえた。
「お願いします!」
すぐに僕は手を2回叩き、「はいります」と言いながら、看的小屋から前を向いたまま、数歩進んだ―――『まだだよ!!』
射場から聞こえた、とてつもなく大きな声に、ハッとなった僕は進めた足をとめ、咄嗟につま先立ちとなった―――パァン!!
風船が割れるような破裂音が響いて。同時に、飛び跳ねそうになるくらい、ドキッとした。
「うわっ!」
一番手前、目の前の的に勢いよく矢が刺さった。あと一歩進んでいたら………。看的小屋の外、矢取り道へと並んでいた、部活の主将から、怒号がとんできた。
「おい弓太郎!! ちゃんと合図があっても射場を見てから入れやぁ! たるんどるぞぉ!」
「ご、ごめんなさい!!」
ニックネーム、モアイから怒られた。そのあと、気を取り直して矢取りをし始めた。
*
矢取りを終えて射場へと戻るため、左手に持っている矢の先を、右手で持っているタオルで拭きながら、ブロックが敷かれた矢取り道を歩いている途中のこと。隣を歩くヘタレ野郎が、こんな事を言い始めた。
「さっきのは仕方ないな、射場の子が周りを見ずに合図するからだ」
「それはそうだけど、確認しなかった僕が悪いよ」
「そうだな! じゃあ弓太郎、宝くじ買ってみたら?」
「うーん。あたるかな?」
弓道の稽古中において、今回の出来事はホントに危険な出来事。だから安全確認は徹底しないと、大きな事故になってしまう。そうなると弓道部が、休部か廃部になるから、危ないとこだった。
「ふぅ。良かった」
「ん、なにがだよ?」
ふと風が吹いたとき、やけに涼しく感じたのは、やっぱり気のせいじゃなかった。
弓道部の僕、矢取りで涼しくなる。 もっこす @gasuya02
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