絶望

凛音君に呼ばれていないのに私はお店に通っていた。

週の半分通う為に、スナックでアルバイトまでしていた。


「一葉、もう来ないでいいだろ?何してんだよ」

「だって、凛音君に会いたいから」

「俺は、一葉には普通に幸せになって欲しいんだよ!」

「何よ、それ」


この日の凛音君は何だか怒っていて、私は朝までお店にいた。


「一緒に帰る?」って凛音君が聞くから頷いて、流れのままに関係を結んだ。

最中に映りこんだ鏡の中の凛音君が嬉しそうに笑っていたのは何故だったの?


「私と付き合ってくれる?」

「一回したぐらいで、ないよ」

「だよね、わかってる」


まだ子供だって思われたくなくて大人ぶってわかったフリをする。


次の日、誰にも話せなかった胸のうちを美佐さんに話した。

結愛ちゃんは遠くにいるから聞かれてないと思ったのに……。


「一葉、何で俺達がした事、牧人まきとに話してんだよ」

「牧人君に、私話してないよ。話したのは……」

「もういい。一葉は、信じらんねーーよ」

「私、本当に牧人君に話してないから、信じてよ。ねぇ、凛音君」


プー、プー、プー。

結局、凛音君は私を信じてくれなくて何度もかけ直したけど最後には着信拒否をされてしまった。

あの日、絶望だけが支配していた。

そして……気付いたら……。


「すみません、ボール」

「あっ、はい」


小学生の男の子にボールを渡して現実に戻る。

あの後、色々あって私は優吾に出会った。

そして、優吾へプロポーズの返事を出す朝。

知らない番号からかかってきた。


「一葉、あの時はごめんな。俺、もう一度、一葉に会いたいんだけど」


私は、あの電話を拒んだ。

こんな足になった私を愛してくれるって信じられなかったから……。


「帰ろう」


だから、私は優吾を選んだんだ。

時々、その事を忘れちゃう。

だから、こうやって思い出さなきゃいけないんだよね。


この先も、私はこの想いを一生抱えていく。

時々、取り出して覗いては……。

凛音君にもう一度会えばよかったと思う。


あの日私は、凛音君に結婚する事になると思うと伝えた。

「一葉、幸せになれよ」

寂しそうな声が響いていた。


ねぇーー。凛音君。

どうして私と付き合ってくれなかったの?

私は、途中から凛音君のお客さんだったんだよね?

凛音君は、私みたいな子供を好きじゃなかったよね。

聞けなかった気持ちが、この胸に溢れている。

もっとちゃんと気持ちを伝えておけばよかった。

後悔した所で、凛音君に会う事はもうない。

私は、私の道を生きるだけ……。


「さあて、優吾にハンバーグ作ってあげよう」

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残り香♡一葉編♡【カクヨムコン応募中】 三愛紫月 @shizuki-r

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