第2話 初対面からこれだよ
時は遡る。
「パチパチパチ、おめでとうございます。契約は無事受理されました。私は神ベルフェ、貴方を勇者へと導く至高の神です。崇めていいのですよ、さぁ、崇めなさい、寧ろ崇めたおしなさい。」
神々しく美しく、それでいて少しの幼さを感じさせる、まさに美少女と呼ぶに相応しい見た目、純白のキトンを纏い、背中には翼、頭の上にはリング……
そんな訳の分からない存在と意味のわからない状況に正気が削られる。
俺は思う。
(何だこの状況、目の前に神を名乗るテンションの高いやつ、契約、勇者、内容から考えると所謂異世界転生か……が、分からん。)
「あの、ベルフェ、様?」
その瞬間、頭の中で警告音が鳴り響くと共に、目の前に見知った画面が表示される。
『誓約 : 傲慢たれ に抵触した発言を検知しました。これにより現在メイン枠に設定中の召喚対象の無期限封印処置が施されました。』
傲慢たれ、それは俺のやっていたゲームの、とある誓約だ。
『ユニーク・プレジ・オンライン』
俺がハマりにハマって10年近くコツコツやり続けたゲーム。
MMOとMOBAの間の子のようなゲーム性をしており、主にPVPがメインとされている。
レベルはあるがそれによるステータスの上昇は無い、更にはアビリティ等も最初から全て解放されている。
しかし、アビリティを変更する為には、AP(アビリティポイント)が必要となり、ストーリーを進めたり、モンスターを倒す事でポイントを集め、初期アビリティを変更していく必要がある。
これだけでも十分特徴的なのだが、このゲームの醍醐味はやはり職業の部分にある、通常職業と対になる様にして、ユニーク職業が存在するのだ。例えば、剣士と対になるブレイバー、
基本アビリティは完全に同一なのだが、なんと剣にオーラのエフェクトを纏わせられるのである。何とも厨二心を擽る素晴らしい仕様だと思わないか?
他人と違うユニーク職業と見た目が手に入るのである。
この恩恵が最も得られるのが、俺の職業、召喚士である。
サマナーと対になるユニーク職業であり、何と課金等で手に入るプレイヤーの見た目変更アイテムを、モンスターに使用することが出来る。
つまりモンスターしか召喚できないサマナーに対して、自分好みのキャラを召喚することが出来るのが召喚士である。
こんなもの、なるに越したことはない。と思うのだが、実際に召喚士でいられる人間は少ない。
その理由が、先程食らった誓約ペナルティによるものだ。
ユニーク職業を選択する場合、全ての職業に誓約が設けられる。それを3度破ると通常職業へとクラスダウンしてしまうのだ。
召喚士の誓約
『傲慢たれ』
召喚士の契約は支配、
故に貴方は傲慢でなければならない。
他者を見下し、尊大な王の様に。
(貴方はログインした場合、24時間以内にオープンチャットで発言しなければならない、その際の発言が傲慢でないと判断された場合ペナルティを受ける。ただし、1度発言してから24時間の間は再ログインしても発言する必要は無い。※ペナルティ発生時間を通知する設定もあります。
モンスターの見た目を変更する場合、召喚時にチャットに流れる詠唱文を設定する必要があります。これは自分で設定することも出来ますが、添削機能及び自動設定機能の使用ができます。これらの発言及び詠唱文に対する判断は当社開発のAIによって管理されています。問題がある場合はインフォメーションより報告ください。)
まぁ要するに厨二病御用達職業であり、誓約のシビアさからもプレイ人口はかなり少ない。
さて、現実逃避も程々にしなければ。
自分の服装を見るにどうも俺はゲームのキャラへと転生しているらしい。
「そう!私は神、神様、貴方は私を敬い、私の為に世界を救うのです。、いいですか、この世界は危機に瀕しています……ぺらぺらぺーらぺらぺーら〜〜〜……」
状況分析に努めようとしたが、神がさっきから喋り続けており、考えがまとまらない。
と言うか状況について行けていないせいもあり、さっきからぺらぺら言ってるようにしか聞こえない。
ここは一つ、傲慢たろうとしてみよう。
「少し黙れ」
これも召喚士である為、心の中で謝りながら神様へ言い放つ。
「ふへ?」
俺の急な物言いにポカンとした顔をする神様を尻目に現状を整理する。
俺の服装は中世の王侯貴族が纏うような黒で統一された正装。
これは俺がゲームでよく使う衣装だ、この空間には比較するものが無い為正確には分からないが、何時もより目線が高い気がする。
元の身長が174cm、キャラの設定は180cm。
これらの情報から、俺は今、ゲームのキャラである、オズマジオズオズになっているのだろう。
では何故そうなってしまったのか、正直さっぱり分からない。
「……れ、……すって」
俺が考えに耽けっていると、ポカンとしていた神様がぷるぷると震え出す。
「黙れですって!キー!契約勇者の癖に生意気過ぎするですけど!私は神様よ、時に信仰の対象となり、時に世界を管理する、偉い存在なんですけど!分かりますかぁ?」
プンプンと怒りながら、無駄に激しい身振りで話してくる、正直ちょっとイラッとしたのは内緒だ。
しかし、そんな事はどうでもいい、それよりも気になるワードがある。
「ふむ、貴様、さっきも契約がどうのと言っていたな。」
この神が最初に現れた時も確か″契約は無事受理″
等と言っていた筈だ。
「き、貴様ですって!神に向かって!神に向かって不敬過ぎるんですけど!ええ、言ったはよ。貴方と私は契約で結ばれているのよ、貴方は私の言う事を聞く代わりに、力を手に入れたのよ。さぁ、分かったら私にひれ伏しなさい、私をもっと敬いなさい!」
そう言って、神はふんぞり返り俺に命令をしてくる。
しばらく沈黙の時間が流れる。
「可笑しいわね、私の言う事には逆らえない筈なのに、どうして立っていられるのかしら?」
沈黙に耐えかねた神が不思議そうにこちらを見つめてくる。
「していないぞ。」
「え?」
俺の言葉が聞き取れなかったのか、首を傾げて聞き返してくる。
「だから、契約なぞ交わした覚えは無いと言っているのだ。」
そう、俺はそんなことをした覚えは無い。
こう言っては何だが、俺は現状の生活に満足をしている。
アニメやゲームを消化しながら、だらだらと生きているだけだが、生活には全く困っていない。
そんな俺が態々よく知りもしない奴に命令されるような契約をするはずが無いのだ。
「ちょっと何言ってるのかしら、そんな知らぬ存ぜぬが神様に通じる分けないでしょ!ほら、ここを見なさい、ここにきちんとサインがあるんだから!」
そう言って1枚の紙を俺に見せてくる。
そこには先程神が言っていた様な契約内容が書かれており、最後にこうサインがされていた。
『スーパーキ○ト(神)』
「誰だこいつ」
余りの名前に少し目眩がした。
どうしてコレでサインの体を成していると思うのだろうか、こいつ頭可笑しいのでは?
「誰って、貴方のアバター名でしょ?貴方は自分の名を捨て私と契約する事で、自分のアバターへと生まれ変わったのよ。」
呆れた、と言いたいのだろうか、こちらを小馬鹿にするようなジェスチャーをしてくる。
「いや、俺の名前は」
自分の名前を口にしそうになり、少し考える。
この状況で自分の名を口にしてもいいものか。
下手な言動は誓約に関わって来るかもしれない。
これから何が起こるか分からない、2つ目のペナルティは痛すぎる。
「よく聞くが良い!俺の名はオズマジオズオズ、至高で至上の帝国を総べる、
態とらしく右肩のマントを手で払い靡かせる。
すると呼応するように体の周りにオーラが現れ、謎の力でバサバサとマントが揺れる。
なにこれ?
「え?あれ?スーパーキ○ト(神)でしょ?嘘だ〜、私をからかってるのね?騙されないっての、神である私に嘘は通じないってのに。召喚のショックで頭がおかしくなったのね。良いわ、私の力の一端を見せてあげるとしましょうか。『鑑定』」
そう言って謎にウザイ動きをしてくる神を眺めていると、何故かみるみるうちに顔が青ざめていく。
「あれ?嘘……オズマジオズオズ。あれぇ、おかしいなぁ。こんなのおかしいわよね!なんでなんで?なんでこんなの変な名前の奴が来てるの。」
わたわたしながら色んな書類を確認しだす。
というか、サラッと変な名前とか言いやがって、そりゃあ学生時代にオズと言うキャラが好きすぎて付けた名前ではあるが、少なくともスーパーキ○ト(神)よりはまともなキャラ名だろ。
そんな事を考えていると、ベルフェの動きがピタリと止まる。
散乱した書類を片付けると、こちらに向かって姿勢を正す。
「パチパチパチ、おめでとうございます。貴方は勇者に選ばれました。私は神ベルフェ、貴方を勇者へと導く至高の神です。」
「おい」
「今世界は危機に瀕しています。」
「話を進めようとするな。」
「世界は貴方を必要としているのです。」
「無かったことにしようとするな貴様、一国の王を呼び出しておいて手違いでしたでは済まされんぞ!」
「必要と、必要としているのです。」
みるみる内に威厳のある態度は崩れ(元々威厳があったか定かでは無いが)半泣き状態ですがりついてくる。ちょっと居た堪れない。
「ええい、すがりついてくるな!」
さて、どうしたものか、泣き脅しに屈していいものか、先程の誓約が脳裏にチラつくせいで、どうも色々判断に迷う。
「お願いお願いお願い!貴方がどうにかしてくれないと、大変な事になってしまうの!」
地団駄まで踏み始め、もう色々台無しになっている。というか神を名乗る者がこういう感じで良いのだろうか。
「知った事か、大体俺に何のメリットがあるというのだ!」
せめて何かしらメリットがあれば力を貸せるだろう。誓約的にも譲歩出来るのはそのくらいだ。
「何でもする、何でもするから力を貸して。」
縋るような目でというか物理的に縋りつかれているのだが、訴えかけてくる。
「ほう、何でもか。」
何でもと言われるとそれはそれで困る。
「あっ、だからってエッチなのはなしだからね!そう言うのはもっとこう親密な関係になってからって言うか?神様的にも色々あるって言うか?」
キャッキャしながら何か悶えている様子を見て、俺はちょっとイラッとする。
なんだろう、何故こうもこいつを見ているとイラッとするのだろう。
「まぁ良い、ならば俺と契約を結んで貰おうか。」
先程召喚対象を1人封印されてしまったところだし、鑑定を持っているなら力にはなってくれるだろう。
「なーんだ、そんな事でいいのね。私と契約出来なかった事がショックで色々言って来ていたのね。もーそれならそうと言ってくれれば良いのに、じゃあ早速契約と行きましょ、貴方にあげる力は何にしようかしら?」
何かよく分からないが生き生きとしながら書類を作成し始める。
「あぁ、なるほど、勘違いさせるような言い方だったか、もちろん俺優位の支配の契約だ、俺は召喚士だからな。丁度使えそうな召喚対象が欲しかったところなのだ。」
そう言って俺は不敵に笑う。
「え?私を支配ですって、そんなの出来るわけ無いでしょ?もう、冗談でもタチが悪いぞ?」
あははと笑い、人差し指を立て、ウインクしてくる。どうしてだろ、何でこの神はこうも一々人をイラッとさせる言動をしてくるのか。
「何でもと言っただろう。であれば、神としてしっかりと約束は果たしてもらうぞ。」
俺が真面目に言っていると理解したのだろう、しかしそれでも何故か神は余裕そうにしている。
「あははは、あー可笑しい、無い無い、神を支配とか面白すぎるんですけど。いい?貴方と私じゃ格が違いすぎるっての?何でもって言ってもそもそも貴方じゃ出来ないことは、私にはどうする事も出来ないわ、あぁ、私としては契約してあげても良かったんだけど残念、貴方が出来なかっただけなんだから?何でもするって言う約束は違えてないわよ?つまり!世界はちゃんと救って貰う!良いわねぇぶらちゃっ!」
俺の方からなにかした訳では無い、急激に力を奪われる様な感覚がしたかと思うと、右手から鎖の形をした黒い靄が出現し、ベルフェの首に巻き付くと、禍々しい首輪の様な形になり、直ぐに霧散する。
『導きの神 ベルフェ との契約を完了しました。』
目の前に画面が現れ、そう表示されている。
神の発言には強制力でも存在しているのだろうか。
「どうやら、契約は成立したようだ。」
突っ伏したまま恨めしそうにこちらを見てくるベルフェに対してそう告げる。
「うっ……うわぁーん、なんでなんで?私神様、神様なんですけど!」
項垂れて泣き出し、愚痴を言い始める。
そんな神を目の前にしながらも、画面には新たな文字が浮かび上がる。
『メイン枠が空いています。導きの神 ベルフェ を設定しますか? <はい> <いいえ>』
とりあえず<いいえ>を選択してみる。
すると見慣れたアビリティ設定画面が表示される。どうやらゲームと同じく、召喚対象の設定は行えるらしい。
しかし、そんな事実よりも俺は自分のアビリティに違和感を覚える。
何時も使っている編成では無い、寧ろ俺が嫌っている編成……
「おかしいわよこんなの!契約の媒体としてPCを使ったまでは良かったのに、契約と同時に謎の処理落ちを起こすなんて!わ〜ん、私の無敵の勇者計画が台無しなんですけど!」
……謎の処理落ち、無敵。
『スーパーキ○ト(神)』。
「あっ……」
聞こえてきた単語から、ふと脳裏に過ぎるのは、自分の現世での最後の記憶。
俺は”スーパーキ○ト(神)”との試合中だった。
ランキング戦3ポイント先取のマッチング中、
彼奴は”無敵”チートを使用しており、どう頑張っても勝ち目は無かった。
2ポイント取られ後がないインターバルの最中、俺は最近見つかった召喚士のバグを試すことにしたのだ。
あの時の俺はどうかしていた、チート野郎に煽られて怒髪天を衝いていたのだ。
目には目を、チートにはグリッジを。
その内容は至ってシンプル、とあるアビリティ3つの組み合わせによる。
強制的な”処理落ち”
そう、どうやら現在ここに俺が呼ばれてしまった原因は、間違いなく俺のグリッジのせい。
それが分かると、途端目の前の神が可哀想に思えてきて、心が痛む。
「なんだ……俺は貴様の主人になったわけだ。主人としての勤めもある。貴様の願いを聞いてやろうでは無いか。」
俺がそう言うと、ベルフェは急に笑顔になる。
「ほんと!ほんとにほんとね!」
ぴょんぴょんと近づいてきて、俺の顔を覗き込んでくる。
なんと言うか、神様とは言え、女の子にあたってしまうとは。
「あぁ、貴様の世界を救うのに力を貸してやろう。」
心の中で反省しながら、少し優しめの声色でそう告げる。
「やったー。」
その瞬間、何故かやたら棒読みになり、ベルフェの目が泳ぎ始める。
「おい……貴様なにか隠しているな?」
一歩詰め寄る。
「ソンナコトナイデスヨォー」
一歩下がる。
「言え、何を隠している。」
また一歩詰め寄る。
支配の力が作用したのか、観念して口を割る。
「その……今回救って貰うのは、私の知り合いの世界で、え〜と……飲み代を賭けて飲み比べをしてて……なんて言うか、勝つつもりだったから払えるお金が無かったって言うか?それで代わりに世界を救ってあげる約束をしたけど。うちの世界って平和だから強い人が居なくて、あ!じゃあ勇者召喚して何とかしてもらおう!的な?」
えへっと笑いかけてくる。
前言撤回、こんな自称神(笑)なんぞをちょっとでも可哀想とか思った自分を殴りたい。
「貴様と言う奴は……
そんな事で勇者召喚してんじゃねぇ!!!」
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