危機一髪を回避した先に

須戸

危機一髪を回避した先に

 スマホで時刻を見ると、七時三十二分だった。


「えいやはあ」

 ビックリしすぎて変な声が出た。

 やべえ。このままだと完全に遅刻する。朝のホームルームが始まるまで、あと三十八分しかない。

 布団を蹴飛ばし、パジャマを脱ぎ捨て、学ランを身に付け、鞄を持った。

 鞄の中、今日必要なもの全部入っているんだろうか。まあいっか。なかったら誰かに借りよう。

 階段を駆け下り、リビングへと向かう。


 母さんは……先に仕事に出たのか。起こしてくれなかったんだろうか。それとも、起こしたけれど俺が起きなかったんだろうか。

 テーブルの上には、トーストと目玉焼きと冷めたコーンスープが置いてある。

 食べてる時間なんかねえ。仕方ない。諦めるか。


 チャリ通で良かった。飛ばせばなんとか間に合うかも。

 ん? 家の鍵閉めたっけ?

 クッソー、戻る時間がない。きちんと閉まっていることを祈る。


 信号は赤。でも今、右からも左からも車は来てないよな。

 悪いことなのは知ってる。だから今日だけは許して欲しい。誰に許してもらうのかは知らん。

 全力でペダルを踏む。渡り切る直前になって、信号が青に変わるのが見えた。


 あ。

 さっき近くを歩いていた人、何か落としたような。黒くて四角いヤツ。

 もしかしたら財布とかスマホとか、なかったら困るものかも。

 だけど振り返って確認する時間なんかない。誰か拾ってあげといてくれ。


 ヒィー、到着。

 でも、自転車を停められる場所探すの面倒だな。急いでんのに。

 自転車に鍵を掛けるのも面倒。

 上履きに履き替えるのも面倒。

 教室まで階段を登るのも面倒。


「走ると危ないぞーって、うわあ」

 階段を一段飛ばしで登っていたら、上から歩いて降りてきた生徒指導の先公が段差を踏み外して落ちた。

 何でだよ。俺、一切ぶつかってないからな。マジで。

 助けてはやらんぞ。大人だし、自分でなんとかできるだろう。


 キーンコーンカーンコーン。

 ふぅー。ギリギリセーフ。

 自分の席に着き、額の汗を拭う。


 危機一髪、遅刻を回避することができた。

 でも、何だろう。いろいろなものが犠牲になった気がする。



※作者注:この物語はフィクションです。主人公の行為は危険なので、真似をしないようご注意ください。

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危機一髪を回避した先に 須戸 @su-do

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