King of the invisible world

五三竜

危機一髪な見えない世界の王

 彼が住む世界には2つの世界があった。それは、見える世界と見えない世界だ。これは、比喩とかそういうのではなく、そのままの意味である。


 人はこの言葉を聞いた時に、この言葉を発した者を異端者として認定する。なんせ、この世界では見えない世界なんて存在しないと思う人が大半だから。


 そして、彼はそれがわかっていた。これまで見えない世界の王として生きてきた彼にはそれが分かっていた。だからこそ見える世界に来た時、見えない世界の存在を知らせようとこの話をした。


 そして彼は、誰からも見られなくなった。


「……」


 彼は空を見上げてあの時のことを後悔する。一体何をすればあの時のことをやり直せるのか、その答えが出てくることは無い。


 彼のいた世界には時の魔術師と呼ばれる男がいた。だが、それもこの世界には存在しないし、前の世界に本当に居たのかは分からない。


 だが、時の魔術師が現れた。そんな噂は聞いていた。もしかしたらその人なら彼の過去をやり直せるかもしれない。そんな思いが彼の胸には詰まっていた。


「全て失敗した。今こうして生きているのが不思議なくらいだ。この世界に来て直ぐに冒険者と呼ばれる男に殺されかけた。その男から何とか逃げ切れば、その後に待っていたのは逃亡生活。今もいつ殺されるか分からない……か」


 彼は自分で言った言葉で笑う。そして、周りを見渡した。


「確かこの世界には1年前に召喚されたと言う勇者達がいたな。そして、その男の中に俺と似たやつを見つけた。名は確か……そうだ、月城真耶だったな。今度会いに行くか」


 彼はそう言って振り返る。その刹那、彼の頭に向けて巨大な針が飛んでくる。彼はそれをギリギリで避ける。


「っ!?クッ……!」


 これぞまさしく危機一髪というものだ。というか、彼の人生はほとんどが危機一髪だ。殺されかけた時も危機一髪で逃げ切れたし、逃げ場をなくした時も危機一髪で何故か逃げきれた。


 こんな危機一髪な人生は嫌だなと彼は思う。しかし、そんなことをゆっくり思っている訳にも行かない。急いでここから逃げなければ殺される可能性が高い。


 そして今回も危機一髪で逃げ切る。今回は何故か追ってきた人の悲鳴が途中で聞こえてきたが、そんなことを気にしてはいられない。彼は急いでそこから逃げた。


 そして、彼がいた場所に誰かがやってくる。それは、男だった。その男はいかにもモブと言わんばかりの髪型をしている。しかし、その右目には黄色い光を浮かべていた。


「ここに誰かいたようだが、もう居ないか……。本当にそいつが必要なのか?」


「あぁ。あいつのあの運の強さは我々を強くする。それに、お前も知りたいんだろ?その『見えない世界』とやらを」


「……そうだな。面白そうだからな」


 その男はそう言って楽しそうに微笑む。そして、彼が逃げた方向を見てニヤリと笑った。


「さて、追いかけるか」


「そうだな。探してくれ……真耶」


 その男はそう言って真耶と呼ばれた男になにか魔法を使わせる。しかし、彼はそんなことを知らないし気づかない。


 彼は、そんな危険な世界で常に危機一髪な生活を続けていたのだ。


「早く元の世界に帰してくれ!」


 彼はそう叫んで全力でその場を駆け抜けた。どうやら危機一髪な生活はまだ続くようだった。

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