危機一髪 ~目の前でドラゴンが火を吐いた~

滝川 海老郎

第1話 本編 1500文字

 俺は冒険者、デューク・マキスタン。

 パーティーメンバーはメルラ・トワイライト、ミルシア・メリーランドの三人だ。

 両手に花とはいえ、どちらかを選ばなければならないと言われたら困ってしまう。

 一夫一妻制とかいうのは、宗教感の強い連中だけの話なので、助かっている。


「デューク、今度、ミューラ山の山頂の祠へ行って欲しいって」

「あぁ、かなり危険な任務だな」

「そうね」


 メルラと新しい任務について相談する。


「大丈夫ですわ。ワタクシたち強いんですもの」


 平気そうなのはミルシア嬢だ。さすが聖女様は格が違う。

 俺たち二人は平の冒険者上がりなので、今でこそ今代の勇者様だと持ち上げられてはいても、まだ感覚としてはAランクパーティーのころと変わらなかった。


「今日は最後の酒だ、食って、飲もうぜ」

「はいっ」

「わかりましたわ」


 たっぷりの肉と酒。

 酒場を後にした俺たちはホテルのベッドでぐっすりと眠り、翌日からの登山に備えた。


 ミューラ山を登っていく。

 火山であり、山頂には火口がある。


 鳥系モンスターがうじゃうじゃと出てくるが、メルラの火魔法を一発お見舞いして、何羽か犠牲になって落ちてくると、他は我先にと逃げていった。


「まぁこんなもんだな」

「はいっ」


 メルラの笑顔はかわいい。

 その顔は少女だったころとたいして違わないが、この数年の実績には目を見張るものがある。


「では、いきましょうか」

「うん」

「そうね」


 落ちた鳥を一羽だけ拾って晩ご飯用確保すると、さらに登っていく。

 このまま頂上まで一気に行ってしまいたい。


 しかし、そうは問屋が卸さないのがクエストというものだろう。


「ど、ドラゴン」


 そこには真っ赤な火竜、レッド・ドラゴンが山頂の一歩手前に陣取っていた。


『ふんっ』


 ドラゴンは低い声で鼻を鳴らすと、翼を広げてその雄姿を見せつけてくる。


「くそっ、さすがにこれは聞いていないぞ」

「あらぁまぁ」

「困りましたわね」


 斬りかかってみるも、相手は大きい。なかなか致命打を与えられない。

 そして、再び羽を広げると、ひと羽ばたきをして、飛んでいく。


「飛んだぞ、くそ」


 そしてそのまま飛び去ってくれるのを祈ってみたが、残念ながら旋回してくる。

 こちらへ頭を向けて、そして口を開いた。


「く、くる!!」


『ガオォオオオオ』


 ドラゴンが炎を吐く。

 これが世にいうドラゴンブレスだ。


「ファイア・ウォール」


 ミルシラがぎりぎりで防御魔法を唱えるが、炎はすぐ目の前に迫ってきた。

 防御魔法は物理的な盾ではないので、徐々に押されてくる。


「グレート・シールド、くぅ」


 俺の防御魔法、盾を前面に構える姿勢で、炎を掻き分けていく。


「うおぉおおおおお、耐えろぉおおおおお」


 俺のその名も「ドラゴン・シールド」。古竜の鱗を使ったとされる非金属シールドの最高峰。

 火が肌をかすめて、ちりちりと熱を感じる。

 このまま、なんとか。


「た、耐えたか……」


『ガゥウオオオオオ』


 再びドラゴンが吠え、そして飛び去って行く。

 また旋回してくるかと思っていたが、戻ってくる気配はない。


「いっちまったな、助かったぜ」


 こうして最後の難関、ドラゴン・ブレスからなんとか生還を果たしたのだった。

 もしミルシラの防御魔法がなかったら。ドラゴン・シールドがなかったら。

 俺たちは今頃、丸焦げでドラゴンのおやつだったのだろう。


「着いた」


 山頂の祠だ。


 パンパン。


 手を合わせて、お祈りをする。

 いやぁ、ここまでくるのに苦労した。

 まさしく『危機一髪』だった。あんなバケモノもう二度と相手をしたくない。


 しかし、いいこともある。


「はははは」


 ドラゴンの鱗だ。真っ赤な一枚板は六十センチ角くらいだろうか。

 これでもう一枚、ドラゴン・シールドを作れる。

 あのブレスを吐く竜の鱗なのだから、相当な防御力だろう。


「ドラゴン、様様だな」


 よい置き土産だった。ありがたい。

 俺たちの冒険は続く。

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