君の勝ち。

雲母なれる

彼女の嘘。

彼女は僕に嘘を付けない。なぜか?彼女は嘘を付くと目を逸らすからだ。

すぐに見破ることができる。

だからいつも、嘘を見破る時にこう言うんだ。

「僕の勝ち。」

このやりとりが好きで好きでたまらなかった。とっても愛おしく感じた。

そんな君が、体調を崩し出したのは2020年4月。緊急事態宣言が発表された時期だった。高校二年生の僕は毎日自宅で高校の課題をする日々が続いていた

。新型コロナウイルスの影響で学校の対面授業がなくなり友達と関わる機会が

急激に減った。それよりも僕が嫌だったことは、

同級生の彼女に会えないことだ。これが本当に辛かった。

毎日学校で会っていたという事もあり

こんなに会ってない日が続くのは初めてだった。

毎日LINEはしていたため仲は良いものの最近彼女の体調が優れないようだった。

一年生の時から付き合っているため体が弱いのはわかっていた。

しかしその崩す頻度がどんどん増えているのだ。さすがに心配だ。

体調のことを聞いても彼女は

「大丈夫。」

この一言の一点張りで何も話そうとしてくれなかった。

家に遊びに行く事も電話もできず、

僕はこの言葉を信じる事しかできなかった。

そんなある日、母の通院の付き添いで病院に行く機会があった。

県立の総合病院だ。

とても大きくて来る度に圧巻する。そこで僕は見かけてしまったのだ。

患者衣をを着て車椅子に押されている彼女を。

信じられなかった。僕が知っている彼女じゃなかった。

青白い顔に痩せ細った体。

彼女の顔からは笑顔が消えていた。思わず僕は声をかけてしまった。

びっくりしていた彼女は、

少し戸惑いを見せ、僕の顔をじっと見た後こう言った。

「307。後で来て欲しい。」

その言葉を残して検査室に入っていった。

彼女の病室。僕は聞きたいことがたくさんあった。

何も言ってくれてなかったことに怒りさえも感じたほどだ。

一刻も早く話を聞きたい。重かった足取りを僕は無理にでも前に進めた。

気が付くと僕は部屋の前にいた。手の震えをグッと抑え、

ノックして病室に入った。

久々に会う場所がまさか病院とは思ってもいなかった。

目の前にいる彼女はいつものように

笑顔で名前を呼んでくれた。少し安心した僕は隣に座った。

隣に座るのを確認した彼女は話をしてくれた。

「大したことないの!風邪をこじらせちゃって。大丈夫。来週には退院できるんだよ。夏は旅行に行くんだから早く治さないとね。」

「思ってたより元気そうで心配して損したよ」

「そうでしょ? ほらほら、課題あるんでしょ? 帰った帰った!」

そう言って追い出されてしまった。これが最後の会話になった。

5月。桜が散り緑で覆われた空。彼女は突然旅だった。急な連絡だった

。彼女のお母さんから連絡があり、

全てを知った。彼女は初めて僕に嘘を貫き通した。嘘をつくと彼女は目を逸らす。見破ることが出来なかった。

「私の勝ち。」

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君の勝ち。 雲母なれる @s2_nareru

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