危機一髪

夏目 漱一郎

第1話危機一髪

私は、イギリス諜報部MI6のエリート諜報部員…名前をジェームス・ドボン、コードネームは”007.5”『殺しのライセンスを持つ男』だ。

今、私はMI6本部のコードネーム”M”より極秘の指令を受けその遂行のため遠く離れたこの日本へと来ている。


その指令とは、『近い将来イギリス政府に著しい悪影響を与える可能性が高いある日本人を、秘密裏に暗殺せよ』との任務である。著しい悪影響とは何なのか?などという事は大した問題では無い。こういう秘密任務では、本部が明らかにしていない情報を詮索する事はNGとされている。余計な事に首を突っ込めば、

逆にこっちが仲間から命を狙われる事態にもなりかねない。


この数日で調査した情報では、ターゲットの氏名は『木村 敏明』25歳 東京都内に住むごく普通のサラリーマンである。

この時間、ターゲットは職場にいるはずだ。私は任務遂行のため、現在は留守になっている彼の部屋に潜入し、あるトラップを仕掛けようと考えている。


ターゲットの木村は独身で賃貸のアパートに住んでいる。同居の家族がいないことはこちらにとっても都合がいい。できれば殺すのは一人にしたい…ターゲットは仕方がないにしても、何の罪もない彼の関係者を道連れにするような事はあまりしたくない。


ターゲットの部屋の前に立ち、ピッキングでドアの錠を開ける。例えばこんなことも出来る…ドアノブからワイヤーを繋いで爆弾を仕掛ける。ターゲットがドアを開けた瞬間にドカン。 しかし、これはいまいちだ。万が一ターゲットが誰かと一緒に帰ってきて(例えば恋人や友人)その人間が先にドアを開けるかもしれない。


部屋の中にはいってみる。”毒殺”はどうだろうか?…冷蔵庫の飲み物に毒を仕掛ける…いや、あまりに地味すぎる。任務の完了を知るのに、テレビのニュースで流れるくらいのインパクトは欲しい。何かちょうどいいアイテムはないだろうか?


私は部屋の中をぐるりと見まわしてみた。その時、そこにあったあるものに目が留まった。


固定電話…珍しいな、一人暮らしで固定電話とは…それとは別にスマホだって持っているだろうに。いや、ちょっと待て!これは使えるかもしれない。

私はその時あるアイデアを思い付いた。


この固定電話に爆弾を仕掛けよう!それも”時限式”ではなくターゲットが電話に出た瞬間に爆発するように細工をすればいい。

それで、外から“足の付かない”プリペイド携帯でこの固定電話に掛ける。これなら、こちらの好きなタイミングで爆発を起こすことが出来る。


部屋は当然火事になるだろうから、証拠も隠滅出来る…完璧だ。


私は、手早くその固定電話を分解し、その中に起爆装置を組み込んだ。

そして、侵入した形跡を注意深く消してからドアを施錠してその場を後にした。



              ♠



その夜、午後11時頃…

いよいよ計画実行の時刻だ。私はターゲットの部屋がよく見える、とあるビルの一室にいた。ここからターゲットの部屋の明かりが見える。中にターゲットがいるのは間違いないだろう。爆弾の火薬の量から計算するに、被害はターゲット本人、ターゲットの部屋に留まるだろう。周りの人間にまで被害が及ぶことは私の本意ではない。


ターゲットの彼にしたって、別に個人的な恨みは何もない。

悪く思わないでくれ、これは”任務”なのだ。


私はスーツの内ポケットからマルボロのソフトケースとジッポを取り出しその一本をくわえて火をつけた。そして、ゆっくりと煙を吸い込むと持っていたプリペイド携帯に目をやり、あらかじめ登録しておいたターゲットの固定電話のナンバーを押した。





















『おかけになった電話番号は、お客様のご都合によりご使用になれません』


「電話代ぐらいしっかり払っとけえええええええ~~いっ!!」


FIN


 


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