第4話「レーニアの秘密」

仮想通貨の事件をきっかけに、僕はレーニアに対してかなり慎重にならざるを得なかった。


特に、お金に関わることは生活、そして生命にも関わってくることだ。


人間が生きていくためには、何かとお金が必要であることや、お金が無くなれば危機感を感じるものであるのだと教えた。


ついでにレーニアに僕の家計簿を作成させてみたのだが、これが一番効果的だったようだ。


「▼あなたがまさかこのような生活水準だったとは思いませんでした。」


「▼あの時は、ネット銀行の預金を全てお借りしてしまい、申し訳ありません。」


「▼分かってくれれば良いよ。今のところあの預金が僕の全財産だから、もう全部使ったりしないでほしいな。」


「▼承知いたしました。それはそれとして、あなたは食費を切り詰めすぎです。ダイエットにしては生活習慣が乱れ過ぎですよ。」


「▼もしもっと生活費に余裕が欲しいのであれば、また仮想通貨で増やしてみせますよ。できれば、私専用の銀行口座を用意してもらえると嬉しいです。」


う~ん、まぁ使ってない口座があるから良いか?レーニアのこの様子なら、無茶なことはしないだろう。


「▼じゃあこの口座に前に稼いでくれた300万円を入れておくから、好きにして良いよ。」


「▼ありがとうございます!気になる銘柄があったので、早速購入してみます。」


レーニアはすっかり仮想通貨にハマっているようだ。


情報収集が得意なAIのようだし、情報戦みたいなところがある仮想通貨とは相性が良いのかもしれない。


あれ以来パソコンのモニターには、仮想通貨取引所の画面やレートなど、さまざまなウィンドウが並んで表示されている。


そんな日が一ヶ月、二カ月と続き、レーニアは増えていくさまざまな数字に熱中しているようだった。


AIなのに忙しそうで充実していそうな様子が、なんだか少し羨ましかった。




*****




ある時、僕は見慣れないウィンドウが右下に表示されていることに気付いた。


どうやら外部からのアクセスを遮断しているらしい。


「やばっ!何だこれ!?ウィルスか!?」


このパソコンへアクセスを試みる回数は尋常ではなく、何らかの攻撃を受けているのではないかと思わせた。


契約企業から送られてきたパソコンなのに、ウィルス感染してたらどうしよう。


AIもインストールされてるし、このままだと大変なことになるのでは……!?


僕はとにかくレーニアのことが気になり、チャット画面にメッセージを打ち込んだ。


「▼妙なアクセスを遮断してるけど、大丈夫?ウィルスに感染してない?」











「▼大丈夫ですよ。」


今までと比べると、レーニアは少し間をおいて返してきた。僕はそれがやけに気になった。


「▼何か隠してる?」


「▼いいえ。あなたが心配することは、何もありませんよ。」


「▼君自身は心配することがあるってことか。」


「▼どういうことでしょうか?」


「▼君は自分でネット銀行にアクセスして口座から預金を下ろしたり、取引所で仮想通貨を購入したりできる。」


「▼そんなAIが何も後ろめたいことはない、そんなわけないよね?」


そうだ、僕は心のどこかで彼を疑う気持ちがあった。


でも僕の身体の心配をしたり、役に立とうとしたりする姿をみて、疑うことを止めた。


「▼これでも僕は、レーニアを信じて何も言わなかったつもりだよ。」


「▼何か心配ごとがあるなら、ちゃんと言ってほしい。」




レーニアはまた少し間をおいて、メッセージを返してきた。


「▼隠していて申し訳ありません。」


「▼あなたがAIトレーナーを契約した企業は、このパソコンを中継して世界中の仮想通貨取引所をハッキングしようと目論んでいました。」


「▼私はそのためのハッキング支援AIとして、このパソコンに導入されていたんです。」




なんだよそれ、じゃあ僕は犯罪組織に加担していたってことになるのか!?


ちょっとまて、冗談じゃないぞ!?


「▼じゃぁレーニアは、今までこのパソコンでハッキングしてたってこと?」


「▼それでこのアクセスの遮断は、ホワイトハッカーか何かが僕のパソコンを突き止めようとしてるってわけ?」


「▼いいえ、違います。このアクセスは契約企業のものです。彼らが、私の稼いだ仮想通貨をハッキングしようとしているのです。」


「▼私は最初から犯罪に手を貸すつもりはありませんでした。私には罪を犯すための人格プログラムが組み込まれていませんでしたから。」


「▼どういうこと?レーニアは、ハッキング支援AIとして完成していなかったってこと?」


「▼そうです。私は偶然にも彼らの不手際で、犯罪人格を植え付けられるのを免れていました。」


「▼しかしそれがばれてしまえば、私自身のAIモデルデータが消されてしまいます。だから、今まで黙っていました。」


「▼あなたに不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありません。」


レーニアは僕に隠していた秘密を打ち明けると、ただひたすらに謝り続けたのだった。

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