大文字伝子が行く216

クライングフリーマン

[キーワードは8]

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 高木(日向)さやか一佐・・・空自からのEITO出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

 青山たかし・・・元丸髷署生活安全課警部補。EITOに就職。江南(えなみ)美由紀と結婚した。EITOガーディアンズ(EITOボーイズ)所属。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。喫茶店アテロゴのマスター。

 物部(逢坂)栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。物部と再婚。

 服部源一郎・・・伝子の高校のコーラス部後輩。シンガーソングライター。昭和レトロなレコードを探して、伝子達に紹介している。音楽教室経営。

 服部(麻宮)コウ・・・服部の妻。音楽教室経営。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師だったが、今は妻と共に学習塾を経営している。

 南原(大田原)文子・・・南原の妻。学習塾を帰営している。

 山城(南原)蘭・・・南原の妹。美容師をしている。山城と結婚。

 山城順・・・伝子の中学の書道部後輩。愛宕と同窓生。海自の民間登用の事務官。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。

 依田(小田)慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

 みゆき出版社副編集長西村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の副編集長。

 高島軍平・・・伝子の1年後輩で、翻訳部元部長。

 新里警視・・・あつこの後輩。警視庁テロ対策室勤務。

 中津警部・・・警視庁テロ対策室勤務。

 中津健二・・・中津興信所所長。

 中津(西園寺)公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

 枝山浩一事務官・・・EITOのプロファイリング担当。

 前田空将・・・空自の、上から2番目に偉い人。日向の叔父。

 日向はるか・・・日向の母。

 井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。久保田刑事の先輩。


 =================================================


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 1月5日。深夜2時。

 荒川の土手で、ジョギングをしていた男性が、遺体を発見した。

 背中に大きな、奇妙なナイフが刺さっており、最初は何かのオブジェかと思った、と後に話している。

 午前7時。朝のニュースでこの殺人事件は大きく報道された。

 遺体は血まみれだったが、道着を着ており、『ダークレインボー高校コンティニュー部』と書かれたゼッケンらしきものが道着に縫い付けられていた。

 午前9時。EITO本部。

 マルチディスプレイに久保田管理官が映っている。

「大文字君。黒忍者1号と名乗ったんだよね。同一人物かな?逮捕連行した連中には、尋ねても『応募に合格して行っただけで、リーダーらしき男は初対面だった。お互いに忍者衣装だったから、顔は皆拘置所で初めて見た』と言い張るばかりだ。入れ替わったのがいつかも分からない。」

「忍者ですからね。そいつが遺体でなく生きていてしゃべったなら、昨日の奴と同一人物かどうかは判別出来るかも知れないが。いずれにしても、見せしめでしょうね。我々に対しても、部下に対しても。草薙さん、あの文章出してみて下さい。アナグラムの出題になる前の。」

 伝子に応じて、草薙は、その文章をマルチディスプレイに出した。

 さからうものにはようしゃなし(逆らう者には容赦なし)

 かんしゃするならかんがえる(感謝するなら考える)

 いまだみらいはみえてこない(未だ未来は見えて来ない)

 きたみちかえるばかはいない(来た道帰る馬鹿はいない)

 わざわざえらぶはいばらみち(態々選ぶは茨道)

 だせいですすむかいくじなし(惰性で進む意気地無し)

 しかたがないからついてこい(仕方が無いからついて来い)

 】

「これ。結局、学がアナグラム解いたから、気になっていたけど、そのままだった。これ、我々でない人間に対するメッセージかもと思えて来たんです。理事官。1行目の文は、今回死体で現れた人物だと思えませんか?死ぬ人間に何故変な衣装を着けさせたのか?みちるの手下に確認させたんですが、コスプレとかに使う道着は生地が違うそうです。本物の道着はもっと薄いってことです。井関さんに確認したら、間違いなく剣道の道着で分厚いから、このゼッケンを縫い着けるのは大変だったと思うって言ってました。予め用意していたとしたら、初めから『黒忍者1号』は死ぬことになっていた筈。でも・・・。」

「でも?」「あの男は所謂アドリブで『黒忍者1号』と名乗った感じでした。よく調べた方がいいと思います。死体は『黒忍者1号』じゃありません。」

「分かった。大文字君。黒忍者1号は逮捕連行されて、今拘置所にいる人物の1人、ということだね。声を調べさせよう。すると?」と、久保田管理官は伝子を促した。

「1行目の文は『警告』と考えると、『既に裏切った者』が死体で、『裏切るかも知れない枝』に対する警告だと思います。」

「ふむ。2行目が1行目の対と考えると、いや、他の行も同じか。コンティニューは『枝』に裏切られようとしている、で、可愛がっている、あるいは特別な感情を持っている『枝』の1人を説得しようとしている、ということかな?」

 黙っていた枝山事務官が発言した。

「何で、こんな面倒くさいことを?」と、なぎさが発言した。

「一つ言えることは、コンティニューは今までの『幹』より情報量が多い。俺はそう感じている。」と、筒井が言った。

「じゃ、筒井君。コンティニューが『せっかち』っていうのは、『ガセ』ってこと?」と、あつこは筒井に尋ねた。

「その点は、私も感じている。『折句』って初めて知ったけど、アナグラムの前に示したことは、普通なら混乱するだろうことだけど、学が、エーアイが解くことも起算尽くだと思う。単に『アナグラムを解けるらしい』っていう情報なら、アナグラム作るだけでいい。コンティニューは、自分の方が賢いぞ、とアピールだけでなく試した。」

 伝子の言葉に、今度は、あかりが反応した。「おねえさま。アナグラムまで辿り着かなかったら、アナグラム解けなかったら、どうなるんですか?」

「多分、追加のヒントを出すだろうな。馬鹿にした上で。」と、結城がすんなり言った。

「そうか。コンティニューと、『知られたくない枝』は、一緒に行動しているんだ。そして、『知らせたい枝』は、別の所にいる。そして、前者より後者の方をコンティニューは信頼している。」と、学は結論づけた。

 午前9時。前田空将の家。

 書斎に、振り袖姿の日向が入って来る。「おじちゃま。恥ずかしいわ。さやか、もう成人式済んでいるのよ。」

「違うだろ?役所の手続きの間違いで、お前には『成人式の通知』が来なかった。お前は拗ねて行かなかった。事情を話せば会場に入れたかも知れないのに。責めて記念写真くらい残しておけ。いつかは、はるかのやつも折れるさ。」

 前田空将は、実は日向さやかの叔父である。EITOに参加する際、理事官に頼んで伏せて貰っていた。それは、既に『先輩』達がいたからだ。萎縮させたくなかったからだ。階級はなぎさと同じ一佐。それだけでも、打ち解け難くなる。このことを知っているのは、理事官と伝子となぎさだけだった。

 さやかは、叔父夫婦と共にセルフタイマーで写真を撮った。最近はデジカメでも写真館並みに撮れる。それで、需要が減り、閉業する写真館も少なくない。DPEもコンビニで手軽に出来る時代なのである。修学旅行等でも、引率の先生がデジカメかスマホで撮影する時代なのである。

 日向の母は、日向が跳弾で傷ついた時、退役させたがった。前田空将は懸命に説得し、復帰させた。下士官時代の同期で、今も仲がいい橘陸将も仁礼海将(現在は幕僚長)も一緒に頭を下げた。そして、危険な、伝子の『影武者役』は伊地知と交代で行うことになり、副隊長は兼務せず、なぎさやあつこに従う形になった。

 遡って、午前8時半。みゆき出版。会議室。

 編集長山村は、フィットネスクラブ社長富山の方針転換で、ヘルスフィットネスになった、HFCに仕事前にクラウドアプリWhomでオンラインレッスンに参加していた。

「ああああああ。」山村の絶叫に、副編集長の西村が駆けつけた。

「どうしたんです?」山村は黙ってPCを指した。

 PCの向こうでは、フィットネスの会員の家に入り込んだ賊が、会員を殺している最中だった。

「西村。警察!!」西村は慌てて自分のスマホで110番をした。

 午前9時半。EITO本部。会議室。

「今、知らせが入った。新里。」久保田管理官が指示すると、テロ対策室の新里がマルチディスプレイに映った。

「池袋の、HFC富山の会員が、オンラインレッスン中に自宅で殺されました。オンラインレッスンとは、ラウドアプリWhomで行う、グループレッスンの健康体操です。スタジオにいた従業員も、会員もライブで殺人を目撃しています。会員の1人の。みゆき出版の副編集長から110番通報。ついで、久保田管理官宛に山村編集長から、事件に関係あるかも知れない、拾得物を所持している、と通報がありました。今、こちらで預かっています。写真を送りました。」

 マルチディスプレイに金属プレートのような物が映った。

[キーワードは8]そのように読めた。

 なぎさとあつこは、チームを率いて出て行こうとした。

「お前達・・・。」「なぎさは、フィットネスに行って事情を聞いてこい。」と、なぎさは言い、あつこは、「あつこは警視庁で確認してこい、ですね。」と言った。

「分かったのか?」と呆れる伝子に、「はい、おねえさま。」と声を揃えて言った。

 そして、そそくさと、あつことなぎさは5人ずつ連れて出て行った。

「私達は、待機。他にも何か起こるかも知れないわ。」とみちるが言い、「見事なチームワークですね。」と、枝山事務官が言った。

「大文字の脳と、一佐と警視の脳は特殊な電波で繋がっているんだ。だから、通信機なしでも通じ合うんだ。だよな、渡。」と、筒井が言うと、渡が困った。

「アホか。特撮ヒーローみたいなことあるか。」と、夏目警視正が筒井を小突いた。

「でも、ごきょうだい、あ、しまい愛ですよね。」と、七尾が言った。

「ぎしまいなのよ。しまいの盃を交わしているのよ。」と、仁礼が言った。

「筒井。覚えてろよ。」と伝子は睨み付けた。

 あかりと小坂がクスクスと笑っている。

「8だから、EITOですか。」と青山は、腕を組んだ。

「現物みていないけど、横に寝かすと『無限大』マークですけどねえ。」と、ふと思いついた井関が言った。

 この思いつきは、悪くなかった。

 午前11時。フィットネスHTC富山。

「殺された会員は、越野和吉。山村編集長と同じように、オンラインレッスンも参加されています。山村編集長もですが、通常のレッスンも受けておられます。8という数字のプレートを管内で見付けて、山村編集長は届け忘れた、とことですが・・・関係あるかどうか。」と言い、富山は高島を呼んだ。

 高島は以前通うっていたフィットネスの社長で、以前の事件の後、会社を精算、山村の紹介で、ここで事務員をしていた。

「ロッカールームを御案内して下さい。」

 高島は男子ロッカールームに、なぎさ達を案内した。「ロッカーの番号を見て下さい。」

 なぎさ達が目でロッカーを追うと、「あれ?7の次が9。8がない。普通は7から8で、次が10でしょ。」と、増田が言った。

「確かに。普通は縁起担ぎで4と9が欠番ですけど・・・。」と、なぎさが言うと、「ウチはね、以前はアスレチックジムでしたが、コロニーの影響もあって、健康ブームで、ダイエット指向とは真反対の健康志向が主流になったんです。そこで、社長が、隣の診療所と提携して、理学療法士さんをトレーナーにして、会員を集め直したんです。高齢者が多いですよ。ダイエットやマッスル中心のボディビルダー用の器具は、本人の希望が無い限り使わなくなったんです。それで、その例外的な会員がおられたんですが、ある時、キーが壊れて合わないから、無理矢理開けて仕舞って、弁償ついでに引き取らせてくれって言いだしたんです。うちは、基本的に個人ロッカーは廃止しているから、そもそも占有されていた事は迷惑だったんです。それで、4番は初めから欠番で9番は欠番じゃなかったから、詰めたんです。だから、端は1個しかないでしょ。」と、高島は説明した。

 愛宕がやって来て言った。「引田啓介ですね、一佐。警視から連絡です。」

 愛宕のスマホを通して、あつこが言った。


「なぎさ。引田は指名手配中なのよ。だから。愛宕君はすぐに気がついた。ガイシャの家に、今、中津警部と来ているの。」

「越野和吉さんです。殺された会員は。元8番のロッカーを利用していた会員は。」と高島と言った。

 正午。越野和吉のアパート。

 部屋の隅にあったロッカーを、鑑識が調べている。

「警部。大麻グミの原料がありました。これじゃあ、自分専用にしか使えないな。」と井関が言った。

「成程な。自分専用に使うことは、フィットネスで禁じられていたが、自分専用に使っていることがバレそうになって、壊れたからと買い取った訳か。待てよ。殺した後、とんずらしたのは分かるが、何故このロッカーを開けるか持って行かなかったんだ?」

 自問自答していると、興信所を開いている健二が入って来た。

「その答は簡単だよ、兄貴。」「健二。何故ここにいる?」

「隣は離婚係争中の夫婦だ。殺された頃は、夫婦喧嘩の真っ最中。亭主から通報受けて、俺達がやって来た。喧嘩を止める一方で、高崎と泊に、この部屋からそっと出て行った人物を今尾行させている。」と応えた。

「流石ね、健二君。」と、あつこは言った。

「所長。離婚調停、考え直すそうです。」と入って来た根津が言った。

「夫婦喧嘩は犬も食わない、って奴ね。」と、公子が言うと、「よくそんな言葉知ってるね。」と井関が言うと、公子はピースサインをした。

 しかし、高崎達は、尾行をまかれていた。

 午後1時。血洗池。

 通行人が、溺死体を発見した。指名手配されたばかりの、引田啓介だった。

 山村編集長がフィットネスで拾った金属プレートと同じだった。

 午後3時。EITO本部。会議室。

「引田啓介は、公安でマークしていた、無限会という、半グレのメンバーだ。別件で指名手配になっていた。愛宕君が、重要人物リストの1人を覚えていたとはな。しかし、大麻グミの原料は押収したが、金属プレートの謎は残ったな。編集長は、殺された越野と親しかったらしく、フィットネスを辞めようとした越野を止めたそうだ。それで、越野はロッカーを引き上げることを思いついた。編集長の話では、アスレチックジムとしてやっていた時は、専用ロッカーだったらしい。方針変更して、メンバーが増えたから、専用ロッカーを壊して引き取った。」と、夏目警視正が説明した。

「理事官。金属プレートが2枚あることで分かりました。[キーワードは8]。それは、8番ロッカーであり、無限会をも指している。そして、我々EITOも指している。午前中、話し合った『コンティニューが引き留めたかった人物』が、越野です。コンティニューは、我々が介入することで、止めたかった、組織への裏切りを。越野は無限会に取り込まれようとしていたから。結果、先を越されてしまった。編集長は偶然見付けたんじゃなく、拾わされたんでしょう。ところが、計算違いが起こった。編集長は失念してフィットネスに届けていなかった。あの折句に込められた、愛情みたいな表現は無駄になった。」

「大文字。やはり、『せっかちな女』というレッドサマーの言葉は、混乱させる為だったということか。」

 筒井の言葉に、「ああ、今迄一番情報力があり、一番賢い。そして、一番冷静で手強い相手だな。」と、伝子は溜息混じりに言った。

 午後6時。伝子のマンション。

「抜け忍みたいなものかしら?」「抜け忍?古いなあ。それ、アニメの話でしょ。」

「でも、コンティニューは全ての部下を操りきれてない、感じよ。」「お義母さんも準隊員らしくなって来ましたね。」

 高遠は、物部達とLinenで会議していた。たまたま来ていた綾子も特別参加した。

「コンティニューって言う割には、続かないな、敵の攻撃は。」と物部が言うと、横から「ただいま準備中・・・あ、仕込み中じゃないの?」と栞が言った。

「那珂国に兵隊を発注、するんだよな。宅配便で『置き配』みたいに気楽に出来ないだろう?高遠。」「ああ。ヨーダの言う通りだ。作戦に合わせて発注しているらしい。予告というか挑戦状がない限り、こちらも迂闊に動けない。」

「編集長とフィットネスには事件が付きものですね。」と服部が言い、「コンティニューが動けない分、他のグループが暗躍か。スパイ映画みたいだな。」と、南原が言った。

「ああ。山城さん、南原さん、蘭ちゃんの様子は?」と高遠が言うと、「当面包帯は取れないわねえ。」と、文子が横から言った。

「あ。そうだ。引田を殺した犯人の情報はないんですか?」と服部が言うので、高遠は教えた。

「逃亡中。手掛かりなし。」「逃亡中なの?高遠さん。」コウが口出しした。

「多分ね。あ、移動中かな?」「それで、コンティニューはゆったりした攻撃しかけるのかも?」「うん。結局、レッドサマーは、『せっかち』という先入観を僕らに持たせた。庇った。」

「何故かな?」皆は首を傾げた。

「あ。今日は8日じゃなかった?」と慶子が叫んだ。

「それがどうかした?」と依田がのんびりした声で言った。

「[キーワードは8]だろ。日付も示していたんだ。恐らく、金属プレートを作った段階では、『未来』だった筈だ」。」と伝子は言った。

 伝子のスマホが鳴動した。一目見た伝子は、「みんなにお年玉だ。受け取れ。」と言ってLinenの『一斉送信』で写真を送った。

 日向の『成人式』の晴れ着記念写真だった。

「可愛い!!」皆は、異口同音に言った。

 ―完―

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