君が、いい。

ゆーすでん

君が、いい。

 俺のバイトは、なかなか変わっている。

 今日の内容は、四十代の女性のお部屋で気持ちよくさせる事。

 あの人に会えるなら、何処でもいい。

 金曜の夜、明日は休みだ。

 セックスは、嫌いじゃない。

 経験は、そこそこある。

 何故か、俺に、女の人は寄ってきた。

 だから、このバイトも続けている。

 何事も無く過ぎている毎日に、ぼーっと見ていたスマホの求人アプリに登録した。

 俺自身も気持ちいいし、お客さんも笑顔になる。

 けれど、何処か足りない。

 なんだろう。

 なんで、登録したんだっけ。

 遊び慣れたお客は、しつこくないし危ない事もない。

 登録したバイト先は、意外にもしっかりしていた。

 俺の日常に、何の支障もない。

 このバイトは、適度に稼ぐには最適だ。

 刺激も無いけど、辞める理由もない。


 でも、今は違う。

 自分の衝動を抑えられない。

 これからは、この人だけ抱きたい。

 明確な理由が、ある。

 あの人に、会える。

 依頼主は、四十代の女性。

 このバイトには、珍しい依頼だと思った。

 大体が、遊び慣れたお客だから。

 煌びやかなホテルに呼ばれるのが当たり前。

 いつも、シャンパンやらが準備してある。

 けど、今回向かうのは、普通の住まい。

 何故か、それだけで足取りが軽くなる。

 建物を見上げるだけで、口角が上がる。

 ホッとする。

 俺も、こういう処の住人だから。

 階段を駆け上がり、部屋の前に立つ。

 インターフォンを押すと、『お待ちください』と綺麗な声が聞こえた。

 心地いい声。

 求めていた声。

 ドアの前が、バタバタと騒がしい。

 ゆっくりと、開かれたドア。

 目の前に現れた人。

 思わず目を見開いたけれど、目の前の人は俯いたまま。

「こ、こんにちは。宜しくお願いします。」

 小さく、掠れた声。

 玄関に入り、鍵が閉められるのを待つ。

 俯きながら、俺を迎え入れ、扉の前に立つ。

 カチャリと音がしたのに、動いてくれない。

 背中が、震えている。

『この人だ。』

 堪らずに、後ろから抱きしめた。

 事前に、お風呂に入ったんだろう。温かいし、いいにおいがする。

 本当は、今の時点で抱きしめるなんて、お客を怖がらせるから駄目だ。

 玄関を開けたこの人は、暖かな笑顔で髪が上に束ねられて、色白の肌が見えるタンクトップとロングカーディガンの組み合わせ。

『えろい』

 正直に言えば、美人でも可愛い顔でもない。

 スタイルだって、良い方じゃない。

 けど、そう思った。

 だって、ずっと会いたかった。

 柔らかい肌に触れて、味わいたい。

 今すぐ、吸い付いて、花を散りばめたい。

 目の前の、首筋に触れるだけのキスをする。

「あ、あ、あの・・・。」

 この人の声、好きだ。

 理由なんて分からない。

 抱きしめているのに、離れる気配がする。

 ぎゅっと腕の力を込め、動けなくする。

「あの、頼んでおいてあれですけど。

 こんな、おばちゃんで、あの…。」

 声の主は、恥ずかしがり屋で逃げ上手。

 初めてだ。

 逃したくない。抱いていたい。

 首筋に顔を埋めて、抱きしめる。

 震える体と首筋の出来物、愛おしい。

 首筋を強めに吸うだけで、柔らかな体が小さく震えて、俺のシャツの袖を掴んでいる。

「ん…ぁ。」

 囁かれる声が、俺自身を掻き立てる。

 この声を、俺のものだけにしたい。

 でも、嫌われたくない。

 こんな感情を、抱いたことなんてない。

『俺だけのモノにしたい。』

 色んな人を、抱いた。

 でも、この人以外に。もう、抱きたくない。

 荒く動く首に、もう一度吸い付く。

 ピクリと跳ねる体を、抱きしめる。

「ん…、やぁ…。」

 綺麗だ。恥ずかしそうに顔を背ける仕草。

 今日の俺は、どうかしている。

 こんなに、興奮したことなんてない。

 もう、アレが立っている。

 俺自身が、この人を抱きたくて仕方ない。

 少しだけ体を離して、体の向きを変える。

 一瞬だけ、顔を見せてくれた。

 でも、また俯いて見えなくなった。

 小さな体を抱きしめる。

 震える手が、俺を抱きしめた。

 ここは、この人の部屋の玄関。

 小さく震える体を抱きしめながら、首筋から頬、瞼にキスをする。

 相変わらず震えているけれど、拒否はされずに受け入れてくれた。

 開いた瞼の奥の瞳は、綺麗すぎた。

 透き通る、綺麗な茶色の瞳。

 俺を見つめる瞳が、ゆっくりと閉じる。

 顎に手を添え、親指で唇に触れ、違わない様に合わせる。

「ん…んう…。」

 その声だけで、興奮が増幅する。

 啄む様に、微かに触れるだけ。

 それを、何度も繰り返す。

 少し隙間が開け、可愛い口が開く。

 隙をついて舌を入れると、体がうねる。

 苦しそうで、つい唇を離した。

「あ、慣れてないの。ごめんなさい。

 あの、お仕事とはいえ、ごめんなさい。」

 目を見つめると、綺麗な茶色の瞳に少し涙が滲んでいる。

「泣かないで? 綺麗だ。離したくない。」

「え?」

 両手で頬を掴んで、キスをする。

 啄む様に、食む様に、次第に激しくなるキスだけで気持ちいい。

 頑なな門が開いたから、迷わず舌を差し込んで吸い付く。

 苦しそうでも、やめられない。

「ん…ふ…あ…ん…う」

 一生懸命、俺に合わせてくれる。

 思わず笑顔になって、また愛しい体を両腕に力を込めて抱きしめる。

 うっすらと目を開けたら、彼女の一生懸命な顔が見えた。

 唇を離して、じっと見つめる。

 白い糸が、お互いの口を繋いでいる。

 ゆるく下がる唾液は、ぷつりと切れた。

 また、綺麗な瞳が見えた。

 このまま、見つめ続けていたい。

 でも、俺がそれ以上しない事に不安を覚えたらしい。

「あの、私じゃだめですね。

 こんな、おばさんじゃ。ね?

 ごめんなさい。ここまで。こんなにしてくれて。

 ありがとう。」

 そういって、俯いて離れようとする。 

 イライラした。

「俺は、あなたを抱きたい。」

「え?」

「なんで、謝るの?

 おれ、今、あなたを抱きたくて。抱きたくて、堪らない。」

「私、何の…」

「俺は、あなたが良い。」 

 目の前の、愛おしい体を抱き寄せる。

 固くなった自分を押し付ける様に、擦り付ける。

 抱きしめる体が、震えた。

「あ、と。あの。え?」

 大きく開いた綺麗な瞳が、俺を見上げる。

 綺麗だ。


 俺は、この人を知っている。


 大学は、正直つまらなかった。

 いや、楽しめる奴らは楽しめるんだろう。

 でも、俺は楽しめなかった。

 人と交わるのは、時折きつい。

 面倒くさくなるけど、断つことは出来ない。

 けど、あの時は違った。


 今のご時世、人脈を増やすとか、仲間やらを増やすのが良いとされている。

 けど、何となく大学に入った自分には、それの何が良いのか分からなかった。

 只、過ぎていく時間。

 ある時、急に合コンに誘われた。

 何故か、俺はイケメン認定されているらしく、呼んでくれたら行くと女子に言われたとゼミの仲間に一週間拝み倒されて、仕方なく行くことにした。

 ちょっとだけ、お洒落なイタリアン居酒屋。

 店に入るなり、騒がしい事この上なくて、正直、とんぼ返りを決めたかった。

 ふと、違和感を感じる。

 何か、キャーキャー言っている女子の端っこで『合コン』に似つかわしくない『女性』が座っていた。

 少し俯き加減でいたけれど、急にすっと上げた顔が凛々しくて、見つめてしまった。

 自己紹介の時も、

「ごめんなさいね。びっくりしたでしょ。

 本当に急遽の人数合わせで出来ているから、気にせず楽しんで。

 でも、貴重な経験出来て嬉しいわ。

 みんな、飲みすぎないでね。」

 何故か、皆が良い笑顔になった。

「かんぱーい。」

 誰かが言う声も、聞こえなくなった。

 俺はこの飲み会の間、その人が気になった。

 なのに、女子達が俺を囲む。

 あの人と、話したい。

 高い壁が俺を囲んで離さない。

 適当に返事をしながら、ちらちらとあの人の様子を伺いつつ飲んでいた。

 他の奴らも、女の子達と話して過ごしていたが、あの人だけは独りぼっち。

 今すぐ、あの人の元へ行きたい。

 もやもやした感情を抱えながら、高い壁に辟易していると、一人でいる事に気を遣った友人が女性に話しかけていた。

 次の瞬間、友人が嬉しそうにしている。

 その女性との話が盛り上がっている様だ。

 隣に居た他の男共まで、話の輪に入ろうとしている。

 急に女子たちが、俺から離れて行った。

「ちょっと、私たちは?」

 明らかに、嫉妬の声が上がる。

 今まで、他の奴らにかまってなかったくせに酷いもんだ。

「美紀ちゃん。」

 あの人が、急にリーダー格と思われる女子の手を握り中に座らせると、話の輪に入りやすい様に説明を始めた。

「あ、それ、知ってる!」

 急にリーダーの目がキラキラしだす。

 それからは、大盛り上がりだった。

 暫くすると、その人はゆっくり立ち上がりその場から抜けていった。

 気づかれぬ様、その人に付いていく。

 少し離れた場所で、水を頼んでいた。

 すかさず、『俺も』と二つ頼む。

「あなたはいいの? 人気者なのに。」

 透き通る、綺麗な瞳。心地よい声。

「俺、こういうの、苦手なんです。

 今日も、無理矢理連れてこられた。」

「あらま、そうなの?

 でも、女の子たちは、貴方を狙ってるよ?」

「貴女は、狙ってくれないの?」

 その人は、これ以上ない位に首を傾げた。

「どうしたの? 飲みすぎた? 眠い?」

 綺麗な瞳が、俺を子供の様に見ている。

 俺の頭に手を添えて、心配している。

『違う、そう見られたいんじゃないよ。』

 頭に添えられた手を握りたかったのに、水が届いて叶わなかった。

 離れて行く手を握りたいのに、同期たちの笑い声で、その人が振り向く。

 二人で水を飲み、何も話せないまま、あの場に戻った。

 途端に、女どもに腕を掴まれ、輪に引きずり込まれる。

 あの人は、それを見て微笑んでいる。

 違う。俺は、あなたと話したいのに。

 何を聞かれても、最小限で答えた。

 なのに、何でこいつら、俺が不機嫌だって分かんないんだよ。

 何に、どう答えたかも覚えていない。

 質問攻めは、いつ終わるんだ。

 

 質問攻めが収まった頃、辺りを見回す。

 いつの間にか、あの人の姿がない。

 勢いで立ち上がると、財布を手にしたあの人が戻ってきた。

「さてと、皆さん。私は、帰るよ。

 おやすみなさい。」

「おやすみなさーい。」

 何となくの相手も出来始めていた他の奴らは、彼女の存在すら忘れる勢いで返事をした。

 待って、行かないで。

 そう言いたくても、皆の声に遮られて届かない。

 いつの間にか、誰かに動きを止められた。

 振り払うも、あの人は居ない。

 ため息をついて、騒がしい空間に戻る。

 座りながら、あの人を想った。

 あの人を、知りたい。

 その後、頑張っていた奴もいたが、妙に白けていた。

 結局、その場は直ぐにお開きとなった。

 店を出る時、誰かが俺の腕を掴んだけど、振り払って自分の部屋に帰った。


 翌朝、目が覚めても、忘れられない。

 なんで、あんな年上の人。

 思えば思うほど、苦しくなる。

 でも、あの人の事が頭から離れない。

 昨日のあの人が誰なのか、聞きたくて同期に聞いて回った。

 別の大学の学生だったらしく、ほぼ連絡先も知らないとか、あれから連絡が付かないとか言ってお話にならなかった。

 あの人に、会いたい。

 そう思って、相手の大学に行ったり、SNSを調べてみたけれど情報は無かった。

 

 あれから、三か月。

 あの人には、一ミリも近づけなかった。

 ぼーっとバイトの『求人』を眺めていたら、あの人らしき人がいた。

 速攻で、タップした。

 他の誰かに、抱かせるなんて有り得ない。

 そうして、今、本当に目の前に居る。

 

 俺のアレを感じた可愛い人は、体を強張らせて動かない。

「お風呂、入って準備してくれたんですね。

 可愛い。」

「可愛くないです。

 だって…、おばさんを抱いて貰うから。」

「俺、貴女が可愛くて。抱きたくて、仕方がない。」

「どうして?」

 不安そうな瞳。どうして、そんな。

「貴女が、欲しい。」

 瞳が大きく開いたのを確認して、右の頬に手を触れ、キスをする。

 何度も、何度も啄み、呼吸が苦しくなって開いた可愛い人に舌を差し込む。

「ふ…う、んんう。」

 漏れる声が、俺をまた大きくする。

 背中を抱く手が、強くなって喜びが増す。

「…私、あの…かなえ…といいます。」

「俺は、つばさです。」

「つばさ・・・。」

「俺を、貴女の恋人にしてください。」

「え? えぇ?」

「かなえさん。貴女がしたい事、教えて。」

「あの、私。ほぼ、初めてで。」

 そう言うと、俯いてしまった。

 なに? 最高。

「痛い事、しないよ。 嬉しい。」

 ちらと、上げた顔を俯かない様、顎に手を添える。

 まだ、不安そうな顔。

「俺は、貴女が欲しい。抱きたい。」

 ここは、まだ玄関だ。

 『かなえ』さんが、泣いた。

 頬に、涙が流れていく。

 思わず、手を離した。

「どうして、泣くの? 嫌?」

 俯きながら、ふるふると頭を振っている。

 ぎゅっと抱きしめて、言葉を待つ。

「つばささん。」

それだけ呟いて、固まってしまった。

今は、かなえさんの言葉をゆっくり待つ。

暫くして、深呼吸を一つした。

そうして、俺をしっかりと見つめてくれる。

「私、あなたに会いたかった。合コンの夜、心がときめいた。

でも、二度と会えないと分かっていたから諦めてた。

一緒にお水を飲んだこととか、何故か忘れられなくて。

玄関で、あなたの顔を見た時、嬉しかった。

ずっと、会いたかった。

ちゃんと見つけてくれたって思った。

私は、あなたよりずっと年上。

恰好いいあなたと、釣り合いも取れない。

忘れようって、思ったの。

だから、した事無い事してみようって。

思い付きで登録したアプリに、あなたが居て、見つけて欲しいって思った。

私、こんなに強欲とは思わなかった。」

 真っ赤な顔と耳で話すこの人を、強く抱きしめた。


 可愛い、兎に角、可愛い。

「かなえさん。他の誰にも抱かせないから。」

 小さな体が震えている。

 無視するように、顔を上に向け、唇を塞いで、音を立てながらキスをする。

「ん…ふあ…ん…」

 夢中で、キスをしていた。

 背中にまわる手が、苦しそうに俺を掴む。

 キスが、不意に途切れた。

 少し赤みを帯びた頬が、可愛い。

 官能的な声を上げる小さな体を抱きあげて、扉を開け、兎に角前に進む。

 扉の先に、ソファーが見えたが、もっと奥にベッドが見えた。

「ひゃぁ、あ。」

 急ぎ、ベッドに押し倒す。

 綺麗な瞳を見つめると、恥ずかしそうにしながら、

「抱いてくれますか?」

 なんて、呟く。

「当たり前です。」

 それしか、言えなかった。

 笑顔を確認して、理性が消えた。

 

 キスは、さっきから続いている。

 苦しそうにしている顔をちらと見る。

 それでも、止められなくて抱きしめ続ける。

 次は、首筋から胸元へ。

 顔を埋めながら、タンクトップの裾から手を差し入れるだけで、動く体に心が躍る。

「あぁ…ん…」

 ゆっくりと布を上に寄せると、柔らかそうな胸の谷間が見えて、思わず顔を寄せた。

 俺の頭を、きゅっと抱く両手。

 暫く柔らかさを堪能し、口づける。

 また、その度に白い体が反応する。

 下着から覗く乳首を無視できずに顔を寄せ、口に含む。

 微かな声を上げて、胸に抱きしめてくれた。

 舌で右の先端をチロチロといじりながら、左の先端も指で触れる。

 でも、このままじゃこの人は、赤の他人。

 どうしても、俺の恋人にしたい。

 目の前には、抱きたい人。

 何度目かのキスをして、見つめる。

 その下に広がる美しい体に、耐えることが出来なかった。


 時に優しく、時に強く唇に力を入れると、淡い、濃い花が胸元全体に、沢山咲いていく。

 こんなに、綺麗な花畑見た事無い。

 そう思っていたら、小さな体が動き出した。

「あ、かなえさんの腰、動いてる。」

「や…」

 嬉しくて、言わずにいられなかった。

 恥ずかしそうに、顔が歪む。

 堪らない。欲求に抗えず、次の行動へ。

 滑らかなお腹から、ゆっくりと手を下に滑り込ませて、コリっとした先端とその先のぬめりに指を添わせる。

「ん…あぁ…ふ…う…」

「可愛い。」

 触れる感じでも、少し強めに先端と奥へ指を確かめる様に、ゆっくり進める。

「かわいく…な…あ…んう…」

「かなえさん、可愛い。もっと、いっぱい、感じて。」

「や…あ…。はう、あ、や。」

 指を動かす度に、可愛い体が動く。

 クリクリと滑る所の先。

 指先が、どんどん奥へ進んでいく。

「はぁ…ん…ふん。」

 背中を、弓なりにするのが愛おしい。

 指を増やして、抜き差しを繰り返す。

 彼女の体が、びくびくと反応を見せる。

 ぐちゅぐちゅと、音が響く。

 こんな官能的な響きを、聞いた事が無い。

 お互いの呼吸が、どんどん荒くなる。

 ぬめる手に掛るパジャマのゴムに力を掛けて、ゆっくりと下げ丸い腰と白い太ももが見えてくる。

 両足が、閉じられる。

 両足をふいに開き、ぬめりの元へ顔を埋め、てらりと光る所を舌で舐め上げた。

「や…」

 隠そうとする手を掴んで、少し開いた両足の奥に顔を埋める。

「あ…そん…な、あ…」

 ぬめりを一気に舐め取り、吸い付く。

 暴れる腰を抱きとめて、舐めて吸い付くのを繰り返す。

「や、ああああ。あう、らめ。」

 腰が、暴れるのを無視して、舐める。

 どんどん、溢れるのを吸い続ける。

 いつしか、俺の頭を撫で続ける手を、ずっと掴んでいた。

 びくびくと波打つ体。

 かなえさんの体が、大きく震える。

 お腹から徐々に上へキスしながら、可愛いお顔に辿り着く。

 キスをすると、刺激的な言葉が聞けた。

「つばささん、突いて。」

 やばい声。

 小さな掠れた声が、聞こえた。

「いいんですか?」

 思わず、聞いてしまった。

 本当に、抱きたい人に確認したくて。

「あなたに、突かれたい。」

「嬉しいです。さなえさんが、欲しい。」

 

 慌てて準備していたコンドームを自身に付けると、さなえさんと目が合った。

 右の頬に手が添えられて、ほほ笑む。

 さなえさんのナカへ、進む。

 やっぱ、最高だ。

 ゆっくりと中に進むだけで、気持ちいい。

 時折、ぎゅんと絞められる。

 温かくて、俺の全てを受け入れてくれた。

 やっぱり、この人だけ抱きたい。

 いつの間にかイってしまって、今は何回目だろう。

 コンドームの袋が、そろそろ無くなる。

 

「つばさ、もっと、もっと、奥…。」

 今は、さなえさんを膝の上に抱いている。

 向かい合って、ゆっくり腰を動かす。

 『くんっ』と突き上げる度に、首を仰け反る扇情的な動きに見惚れる。

「きもちい。」

「うん」

「きもちいい?」

「すごくいい。」

 そう、俺が言うと、嬉しそうに笑った。

 お互いの腰が、動き出す。

「らめ、ら…、あ、いく。いっちゃ…。」

「かなえ。」 

 大好きな人の名を呼んで、抱きしめながら果てた。


 眩しさに、思わず目を開いた。

 窓から、光が差し込んでいる。

 温かいのに、何故か寂しい。

 横を見てみたが、居て欲しい人が居ない。

 周りを見渡しても、昨日の部屋なのに別の部屋に思えた。

 昨日の情事の後が、何もない。

 あんなに、愛し合ったのに。

 裸の体からも、何も見つけられない。

 ゴミ箱すら、空だ。

 ここは、自分の部屋じゃない。

 絶対に、かなえさんを抱いたのに。

 

『カタン』

 扉の先で物音がして、慌てて飛び出す。

 目の前には、目を見開いて固まる人。

「あ、おはようございます。

 起こしちゃいました?」

 その人が居る事実が嬉しくて、駆け寄って抱きしめる。

「隣に居ないから、悲しかった。」

「え?」

 目を大きく見開いて、その人は言った。

「私は、ここに居ますよ。

 むしろ、あなたがここに居るのが、変。」

「変じゃない。俺は、貴女のそばに居ます。これから、ずっと。」

「そんな約束は、やめましょう。

 朝ご飯、作りました。食べますか?」

 抱きしめた体に、もう一度力を込める。

「朝ご飯、食べます。

 それから、俺は貴女から絶対に離れません。

 かなえから、一生離れません。」

 ぽかんとしている愛しい人。

「それは、誰にも許されないです。」

「そんな事、無いです。俺が、決めたから。」

 テーブルには、俺の好きなタラの粕漬を焼いたの。

 炊飯器が炊き上がりを告げ、コンロにはおそらく味噌汁が入っている小鍋。

 朝飯が無くたって、この人を離さない。

「朝飯を食べながら、話しませんか。合コンの日から、気になってました。」

「え?」

「玄関で、びっくりしました。あの時の人がいるって。」

「覚えていて、くれたんですね。

 あの…。」

 かなえさんは、俯いてしまった。

「どうしたんですか? 大丈夫?」

「大丈夫です。 

 あの時、本当は、あなたと話したかった。

 凄く、綺麗だった。」

「綺麗なだけ?」

「いえ、何故か分からない。

 けど、あなたを欲しいと思った。

 抱いて欲しいし、抱きしめたかった。」

 かなえさんが、色っぽく見つめる。


 そんな言葉、そんな瞳。

 抱きたいとしか、考えられなくなるだろ。

 体を抱きあげて、ベッドへ押し倒す。

「あの、ご飯…。」

「貴女のご飯は、冷めても美味い。

 でも、貴女を、今抱きたい。」

「ご飯は、冷めたら…んん…。」

 唇を塞ぐ。

 正面向きでお尻に手を添え抱きあげる。

 この体は、俺のもの。

 ベッドに座る。

 膝の上に、愛おしい体を乗せてキスする。

 柔らかな肌に、ゆっくりと手を這わせつつ、喘ぐ体を確認しながら愛していく。

「つばさ、大好き。」

 こんな言葉を聞いたら。

「かなえ、離さないから。」

 絶対に、離さない。

 腕の中から、愛おしくて、くすぐったくて、俺の中を掻き立てるやらしい声が聞こえる。

「つばさ。ほしい。」

「このまま、いい?」

 頷かれて、お許しを貰えた。

 瞳を見つめ、下を脱がせた。

 急にキスされて、次の動きを封じられた。

 抱きつかれた重みで、体を倒す。

 綺麗な瞳が、急に色っぽくなる。

 かなえさんは、自ら俺の肩に両足を乗せると、先端に当てていた俺を掴み震える手で温かいところに導いて、引き入れる。

「あ…は…う…。」

 動かずに、居られるかよ。

 そこから、我を忘れた。

 愛おしい声が、部屋に響く。

 

 この先は、俺達のモノ。

 絶対に、誰にも教えないよ。

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