討伐不可の魔王様
赤ひげ
第1話 魔王討伐失敗
甲高い音と共に剣が宙を舞った。
くるくると風を切り裂く音と共に地に突き刺さる。
「危機一髪……――ってとこか……礼はいらねーぜ?」
と、告げる男は『剣聖』の称号を持つ大剣士『ベケス』。
「ああ。勇者だけを先に行かせたのは俺たちの失敗だったようだ」
剣聖の隣に佇む『武神』の称号を持つ武闘家『ノモダケ』が一息と共に吐き出した。
ちなみにベケスが弾いた剣は魔王の剣じゃない。
『
魔王も目を丸くして、どういうこと? と若干混乱気味だ。
「え……いや、
二人の意図が見えない以上、ここは確認しなければならない。
もしかしたら魔王を倒すことで意図しない均衡が崩れてしまうことを危惧しているのかもしれない。
「ああ。その通りだ……」
ベケスは真っすぐに
魔王が首を傾げてるのが気になるけど。
「くっ……――それはどんなことが起きるんだ……?
ベケスが悔しそうに歯を軋ませている。
単独で竜を撃破できる実力を持つ男が、苦汁を飲み干したような表情を見せる。
それだけで
「魔王を倒すと……――くそっ!!」
「何か分からないけどはっきりと言ってくれ!
二人が気が付いてるのに
そして……そんな重荷を二人だけに背負わせてしまっていたんだ……
「その覚悟を疑うわけではないが……」
ノモダケの目はブレることなく、
神をもねじ伏せると言われた男が、ここまで思い詰めた表情を見せるなんて……
「いや――
ちなみに魔王は座ったまま、
「ならば教えよう……」
ノモダケが促すようにベケスに視線を送ると、こくりと頷き額の汗を拭いながら呟いた。
「魔王を倒すと……」
「テンカ。お前にかけられた呪いが解けてしまうんだ……」
「え……? それは別に……だって
二人の言葉に乗せられた思いをしっかり咀嚼しなければいけないんじゃないか。
そう思った時、
「問題大ありに決まってるだろぉぉぉぉぉぉっ!! お前のふわふわおっぱいが拝めなくなるってことなんだぞっ!」
「バカなことを言うなよぉぉぉぉ! 男だけのむっさいパーティに戻りたくないんだよぉぉぉぉっ!!」
違うわ。間違えてるのはこいつらだわ。
「何を力説してるんだよっ! そもそも魔王倒したらパーティ解散して元の生活に――」
「いーやーでーすー! 絶対解散しませぇ~~~ん! セクハラしすぎて俺と組んでくれる女の子冒険者がもういないので~~~す!」
こいつ
「もう母ちゃんに俺の嫁だって言っちゃったから一緒に村に帰ってくれよぉぉぉぉ!!」
こいつはこいつで全身を舐めるように見てたわ。せめて目を見ろや。
あとお母さんにナチュラルに嘘を吐くな。
そんなやりとりを気まずそうに魔王は見てるんだけど、おろおろするのは止めてほしい。もっと堂々としよ?
「あ……あの我のせいで喧嘩は……よく……ない」
魔王が止めに入っちゃったよ。
「そ……そもそもお前が
「ゆ……勇者に選ばれるのは血筋の要素も大きいから……それで幼い頃から苦悩してるのを見てて……それで女になれば、他の男が変わりになって、その責務から解放されるんじゃないかって……」
優しいかよ。
その兜の下は純真な瞳が隠されてるんじゃないか――ってくらい、優しさ溢れてない?
でも、出発のきっかけは世界平和よりも
むしろ
「な、なら
「我の魔力の大半を注ぎ込んだから解除する魔力はもう我には……ない。でも……我を殺せばちゃんと……もとに……戻れる。良かれと思ってたのにそんなに嫌だったなんて……ごめんなさい……」
めちゃくちゃ倒しづらくなっちゃったよ。
そんなこと言われて、おっけー! ギロチンだ~! なんて首跳ねるなんてできないじゃん! やったら魔王テンカ誕生じゃん?
「ま~ま~……ひと様に迷惑をかける魔物を世界中駆除なんて無理だ。だが……魔王がいれば……統率はできるだろぉ~? ま~俺は自分の身は守れるから別にいいけどねぇ~?」
ベケスが魔王よりも悪い顔をしてる。魔王の顔見えないけど。
というか、むしろこいつを討伐したほうが世界が平和になるんじゃないか?
「ベケスの言う通りだ。魔物を統治して平和を迎えれば俺の子供を育てる時も安心じゃないか!」
死ね。
「悪いことした魔物はちゃんと躾けるように……する!」
解決しちゃったよ。魔王が一番平和のこと考えてるよ。
「もぉぉぉぉぉ! なんで
こうして
ちなみにベケスとノモダケは魔王と一緒に国へ帰る際、裸で簀巻きにして滝から流して以降、その姿を見ることはなかった。
討伐不可の魔王様
完
討伐不可の魔王様 赤ひげ @zeon4992
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