第2話 朝から目を疑う事実に遭遇した。


 俺、こと黒川誠也は困惑していた。


 そう、それは目を疑う奇妙で不思議な光景に遭遇していたからだ。

 初めは幻覚でも見ているのか!? とも思ったがどうやら現実のようだから余計に戸惑う。

 それと言うのも今、目の前に空き教室にて”赤子のコスプレをしたクラスメイト”が居るからであった。


 何を言っているのかと思われるだろうが、これが事実なのだからこれ以上の説明のしようが無い。

 そして事実、俺は今死ぬほど驚いてるし、今日はもう学校から帰りたい気持ちになっている。

 

 というのも、俺は朝から頼まれていたものを運びに、空き教室に向かっていた。

 そして、普段誰も寄り付かない教室まで来ると、教室から何かうめき声のようなものが聞こえてきた。

 それを不思議に思い、ドアの前で立ち止まり、その中の様子を見ようとする。


 するとなんと、おしゃぶりを加えた全身モコモコパジャマに身を包む同級生がマラカスを両手に持ち、シャンシャンしながらハイハイでこちらに来て笑顔を向けるのだ! それも屈託のない満面の笑みで。


 こんなこと、誰が想像出来ようか。

 しかもクラスでもトップ2に入る美少女の白浜 綾香がである。


 (ちょ、え、これどうすれば、ええ?)


 そしてこの事態に陥って2分。俺はこの場で一声も発さずにただその場で固まっていた。

 目の前の少女を凝視しながら。


 信じ難い光景の為、もう一度確認するが、クラスメイトが空き教室にて赤子のコスプレ、しかもおしゃぶりからマラカスまで装備済み。そしてハイハイしながら唸っている……。

 人によっては性癖をぶっ壊されかねないこの目の前の状況……。

 まるで理解が出来ない。

 しかも1分ぐらい前から白浜さん、泣き目になりながらプルプル震えてるし、俺みた後から一言も声発さないし……もうどうしたらいいの。

 声かけるのも不味い気がするし、このまま去るのも多分良くないだろうし……。マジでどうしよう。


 てか、朝たまたま先生に頼まれて、この教室に荷物運んできた俺が、どうしてこんな状況に遭遇しなきゃいけないんだよ……。流石にこれはどうすることも出来ないぞ、マジで。高校生には度し難すぎる。

 それに、「何でそんな格好をしてるの?」とか聞けるわけがないし、こんな時になんて声かけたらいいかなんて一ミリも知らないし……。少なくとも俺の中の人生を生きる為のマニュアルには載ってない……。

 というか本当にどうしよう。白浜さんとうとう涙で顔ぐちゃぐちゃなんだけど、、。マジでヤバいし冷や汗が止まらない……。

 てか!! 今この状況を誰かに見られる方がヤバい!! 

 絶対にそっちの方がヤバい!! あらぬ疑いをかけられれば俺の高校生活が終わる!! 嫌だ!! 終わりたくない!!


 そう思った瞬間、俺は咄嗟に白浜さんに近づき、話しかける。


「白浜さん!!」

「……!!」

 そう言うと白浜さんの身体がビクッと震える。


「ええっと、その、今日のことは見なかったことにするから安心してくれ!! これはお互いの為にもあってはならない事故だ!! 白浜さんには何かきっと深い事情があって、だからそんな格好をしているんだろう!? だから安心してくれ!! 俺はこれを見なかったことにする!! そう、これはなかった。なかった現実だ。だから繰り返す!! 安心してくれ!! そして、今日のことは二人の秘密にしておこう。この事実はナッシング。今二人で会っていることも無しだ。そしてこれで俺達はいつも通りの高校生活が送れる! ウィンウィンだ!!」


 そう早口で捲し立てながら言うと、白浜さんは……さらに泣き始めた。

 号泣だ。


 うわああああああああ。ヤバいヤバいヤバい。

 白浜さんさっきより泣き始めちゃったよ!? 何これ!? どうすればいいの!? これで良いんだよね?? 間違ったことは言ってなかったと思うんですけど!? てかこれ以上どうしろと!? 


 というかこれ以上はもう普通の男子高校生であるだけの俺には分からない!!

 誰か助けて!! 本当に!!


 そう願うと、皮肉にも遠くから足音が聞こえてくる。

 そして、その音はドアの前にて止まる。


 はうぅ!?!? え!? 待ってこんなところに誰か来た!? これ見られる!? え、まって終わるんですけど。俺の高校生活終わるんですけど!?!?!?!?


 そしてパニクった俺が後ろを振り返ると、そこにはクラスメイトの村田 麻友が立っていた。



 ーーーーーーーーー


 私は今、困惑し、混乱している。


 それと言うのも、今目の前に信じられない光景が広がっているからだ。


 親友が赤ちゃんのコスプレ、それもおしゃぶりをしながらマラカスを持ち、号泣している。

 その一方で、目の前にはあたふたしたクラスメイトの黒川くんがいるのだ。

 しかも昨日聞いた話によると親友である綾の好きな人、その張本人なのである。


 私は思わず眉間に皺を寄せてその光景を見つめる。

 そして手を頭につけて考える。


 え、ちょっと待ってどういうこと?? え、え??

 なんで綾は学校で赤ちゃんのコスプレなんかしてるの!? めちゃくちゃ可愛い!! じゃなくて、えっとどうして??

 昨日の夜のメッセージも「明日会ったら抱きしめてヨシヨシして」とか言ってたし、なんかもう訳わからないんだけど。

 それに、ここに黒川くんが居るのもどうしてなの?? 単なる偶然? 事故? それとも何か黒川くんが綾に指示したとか? それだとしたら黒川くんを今すぐ綾から離さなきゃだし。

 でも、それにしても黒川くんが慌てすぎてるし、やっぱりこの線はなさそう。え、じゃあもしかして綾があの格好で黒川くんを呼んでアプローチしたとか!? それでフラれて号泣!? え、待って本当にどう言うこと?

 とりあえずこの状況の場合、私の一言目が大事よね。そしてそこから状況の確認。

 よし。


「え、えっと、二人とも何してるの??」


 私が恐る恐る声を発すると二人揃ってびくん!! と身体を震わす。

 そしてしどろもどろに黒川くんが話し出す。


「え、えっと、村田。これはえっと、その、違うんだ!! 俺が悪いんじゃなくて、そうだな、うーんと俺が悪い!!」


 支離滅裂で訳の分からない黒川くんの答えに困惑すると、次に綾が話し出す。


「うっ、ま〜〜ゆ〜〜うう、遅いよぉ、もおおおお。うううう」


 もはやこの状況などお構いなしに私に泣きながら抱きついてくる親友。

 おい、流石の私でも許容し兼ねるぞ。状況の説明をちょうだいよおおおお!!

 俺が悪いんじゃなくて俺が悪いってなに!? どっちなの!?

 そう心の中で思いながらも抱きつく綾をヨシヨシと撫でる。

 

 (くそぅ、怒りたいのにこんな綾滅多に見れないから超可愛い。見た目も合いまってキュンキュンする。)


 などと思っていると、先程よりも落ち着いた黒川くんに話しかける。

 親友は恐らくポンコツ化しているので答えてくれないであろう。


「え、えっとな村田、今から聞くことを信じてくれ! 頼む!」


 そう言うと、黒川くんはことの経緯を話し始めた。


 ーーーー


 数分後、事情を聞き終えた私はまたしても度し難い顔をしていた。


 うーんと、。

 つまり、これ…………。

 私と綾が悪いのね!?

 ていうか黒川くん一切悪くないじゃない!!

 

 それが私の出した答えであった。


 てっきり何かとんでもない事故があったのかと思ったけど、とりあえずはなんとも無いってことで本当に良かったわ。

 いや、まあ綾本人としてはとんでもない事故なんだけど、一生引きずるタイプ

の大怪我を負った事故なんだけど、だけどこれは自業自得で……。まあ、同情はする……。

 そもそも昨日私が綾にあのミームを教えたのがきっかけだろうし、それで行くと私がことの発端になるし……。

 で、結局私はどうしたら良いわけ!? 全く良い案が思いつかない!!

 誰か解決法を教えて!? 

 と叫んでもしょうがないから、頑張って結論を出す。

 とりあえずこのまだ私にしがみついている元凶の生き物を身体から剥がす。


「えっと、綾? これはその、私も悪かったから、その、もう泣かないで?? ね??」


 私の説得に綾はコクっと頷く。やだ超可愛い!! じゃなくて、ここはさらに謝っておくべきよね。


「それで、その、元はと言えば私が原因だし、元気出して!! 綾は可愛い!!」


 そう言うと綾はパーーっと顔を輝かせて、また私に抱きついてくる。

 もういいや、好きにして。

 そう思いながらあやして、次に黒川くんに話しかける。

 

「えっと、その、今日のことは三人ともなかったことにしましょ! 空き教室で会った、それだけ! それで、その、黒川くん。今日のことのお詫びに今度三人でお茶しましょ! 私達が奢るから! それに綾は気にしないから、黒川くんもあの綾を気にしないでね! むしろ可愛い綾は貴重だからその記憶を愛でて!」


 そう言いながら私は黒川くんにサムを立てて、グッジョブを送りながら綾を引き連れてその場を去った。



 ーーーーーーー


 いや、しかしあれはなんだったんだ。


 俺は村田 麻友が訪れてからの一連の流れを思い出す。


 マジで最初から最後まで訳分からなかったな。

 初めに見られた時には血の気が引いたし、もう高校生活終わりの文字まで見えたけど、結果的にあの二人が悪いってなるのどういうことだよとしか言いようがない。

 まあ、なんとかなったことに越したことはないんだけど、それにしても酷い悪夢だった。

 いや、最後の村田が言ってた白浜さんが可愛いって言うのは確かにそうだし、むしろ現役女子高生のあんなコスプレ見られる機会なんてそうそうないというか貴重だし、確かに超激萌えな可愛さだったんだが……。

 マジで一連の流れが嵐過ぎた……。


 俺はそうして先程までの出来事を思い出し、ため息を吐く。


 それにしてもなんだったんだろうな。

 ていうか白浜さんほとんど話してなかったな。間違いなくトラブルを起こした張本人なのに。

 まあ、逆に村田がしっかり話しつけてくれたからよしとしよう。

 てか、俺が悪いんじゃなくて、俺が悪い! ってなんだよ。パニくり過ぎだろ。


 そう思い出して少し吹く。


 そんなこんなで歩きながら、教室に向かう途中で気付く。


 てかこの状況で今から授業あんの!? 一日も!? 無理だって!!

 どんな顔で受ければいいんだよ……。

 え、てか三人で今度お茶しようって誘われ……え!? マジで!? え、どう言うこと? 普通こんな状況に遭遇したやつ誘わなくない!? え、何怖いんだけど。女子二人に締められるとか?? 怖い怖い。


 そう思いながら、黒川誠也にとっての憂鬱で少しドキドキした1日が始まるのであった。

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おぎゃる相手を間違えた。 来栖みら @kurusumira0

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