中島哲也の憂鬱――【朝、目が覚めたら…Side Story】#短編創作フェス#スタート

いしも・ともり

朝、目が覚めたら…妻が〇〇になっていた

 俺は中島哲也、48歳、会社員。3歳年下の妻と高校生の娘と、中学生の息子と、小学生の息子の5人家族。ごく普通の家庭で、幸せに暮らしている。

ごく普通・・・のはずだった。


は、6月の第三水曜日。

朝、目が覚めると妻が「男性」になっていた。


『ねぇ…、私、男になっちゃった…。』やあるかいっ!!!

』やあるかい!!!


えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。

ひ、ひとまず、びょ、病院や!でも、保険証とか使えへんな?とりあえず…。

あれこれと思考を巡らせ、狼狽している俺のことはお構いなしに、当の本人は、『そんなこと気にしてられへん』と、いつもの朝の家事をこなしている。『母は強しやな…。』


で?俺はこのままずっと、男の美奈子と夫婦として暮らしていくんか…?

『妻です。』いや?『パートナーです。』って、紹介するんか?…。

せや!今はジェンダーフリーの時代や!!

よし、俺は堂々と言うぞ!言えるぞ!…言…言えるんかーーー俺ーーー!!

これからのことは、まぁ、ゆっくり考えよ。一旦、落ち着け、俺!!


「美奈子―、行ってくるでー。」

玄関で靴を履き終えると、いつものチュッ…。


「ひ、髭が…。髭を剃るのは、男の身だしなみや!俺の使って、剃っときぃ。」


て…、ジョリ男のチュウで見送られるって、どんだけシュールやねんっ。

あかんあかん。そんなん言うたらあかん。中身は、美奈子やもんな!


「…てか、このやりとり、絶対おかしいよな?頭がおかしなりそうやわ…。ほな、行ってくるわ。なんかあったら、電話してきい。」


***


そして、仕事を終えて帰宅。

相変わらず、美奈子は男性のままやった。でも、本人は気にしている様子もないし、由美子ちゃんとのランチも楽しめたみたいやし。ほんで、子どもたちも見慣れたのか、何も言わへんし??


23:00。寝室で、寝る準備をしながら、美奈子に尋ねる。

「由美子ちゃん、なんて?」

「あぁ、イケメンやんって。更年期障害の一種やないかって。ホルモンバランスの乱れとか?」

「えぇぇぇぇ…、そんなわけあるかぁ。いや、あるんかいな??…でも、さすが由美子ちゃんやな、おもろい子や。ま、体調は大丈夫そうやし、おいおい、色んな事考えていこな。」

「うん。」

「ほんで、改めてやけど、俺、色々と考えてん。真剣に言うで。」

「うん。何?」


「ぅおっほん。あんな、男はな、色々あんねん。生物学的に色々な。おま、何もわからんと思うけどな、俺はいうたら、大先輩なわけや。わからんことや、困ったことがあったら、遠慮しんと聞いてきぃや。何でも教えたるからな。ちなみに、やっぱ、せっかく男になったんやし、まぁ…何というか、試したい気持ちもあると思うんやんか?せやけどな、やっぱり浮気はあかんと思うねん。せやからな…、どうしてもという時にはな…。」

真剣に熱弁していると、白い目で、こちらを見ている美奈子に気付いた。


「あほらし…。しょーもな…。」

美奈子が下手な関西弁を使う時は静かな怒りに満ちた時や…。

「ふぇ?」

「まさか、そんなくだらんこと、今日一日、ずっと考えてたん?せっかくって何?試したいって何をよ?そんなこと、微塵も考えてへんわ?」

「え?あ、そうなん?そ…そうなんかぁ…。」

「てか、もう寝ていい?」

「お…おん。」


「あぁ、明日のパート、大丈夫かな…。とりあえず寝よ。」

美奈子はそう独り言ちると、俺に背を向けて、眠りに就いた。


独り取り残された俺は、静かにベッドに入り、電気を消した。

『ちゃうやろー。ちゃうやろー。言いたかったんは、それやないやろー。』


《「美奈子、どんな姿になっても美奈子は美奈子や。心配せんでええで。これからは同姓でも、今まで通り、親友みたいな夫婦でいよな。」≫


『これやろー。これが言いたかったんやろー。何しとんねん、俺は…。』

はぁ~…。大きなため息をついていると、


「で??『どうしてもという時には、…』の続きは何なん?は、そんな時どうするんですか?」

と、暗闇の中で美奈子の声が響いた。


『ひぃぃぃぃぃ。俺、もしや自爆した?いやいや、浮気もも、俺は皆無やで?誤解や、美奈子。でも触らぬ神に祟りなしや!!』


「ぐおぉぉぉぉぉ…ぷすぅー…ごぉーー…ぷすぅ…」


翌朝。

何のことはない、美奈子は元の姿に戻っていた。機嫌は治ってへんかったけど…。昨夜の俺の恥ずかしい熱弁を取り消してくれ…。そして俺は、無実やーーーー。


中島哲也の憂鬱――――――。










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