2:魔界での計画。




 魔族の領土に到着し、王都全体を包むように建設されている城壁の中に入った。

 仔ケルベロスと。


 どうしよう……? とりあえず放置でいいかな?

 うん、それがいい。


 王都といえど、王城は遥か遠くの山の上にキラリと見える程度。壁の内側にはいくつかの街がある。

 魔族は王城に近ければ近いほど戦闘狂が多いらしいから、壁に近いあたりが一番安全だと思うのよね。


 まず優先すべきは拠点決め。

 魔界にはホテル的なものがない。理由は簡単で、魔法で高速移動が出来るから。

 ナニソレ、羨ましい!


 道行く魔族をとっ捕まえ、聞きまくり、不動産屋さんみたいな場所を紹介してもらった。


「はぁ? 金はあるんか? 臭い嬢ちゃん」

「臭い言うなや。お金は人間界のものですが。宝石が良ければ、そちらもあります」


 スーツを着た人型に近いカエルの不動産屋さんに、何故か臭い臭いと言われつつも交渉。

 支払いは宝石がいいらしい。言った瞬間に目がギョロギョロと動き出したから、たぶん。


「先ずは物件を見せてちょうだい――――」


 そうして紹介してもらったのは、お客さんが十人程度入れる、こぢんまりとした飲食店兼住宅という中古物件。

 キッチンはL字カウンターの六席と対面式になっていて、二人掛けのテーブル席が二つ。

 一人で回すには丁度いい。


 私の計画、それは『魔界で定食屋を開いて、異世界めしでウッハウハ!』である。

 それに見合う店舗を発見できて、既にウッハウハ気分。


「いいじゃない! ね? ポチ!」

「「グルルル!」」

「臭い嬢ちゃん、三頭とも『ポチ』は嫌だとよ」

「臭い言うなや。ってか、ケルベロスって三頭扱いなの?」

「そりゃそうだろ!?」


 知らなかった!


 魔族の常識①ケルベロスは一体で三頭扱い。


「ここにするわ」

「へいよ。本当に買えんのかい? 一二〇〇万ウパだが」


 この間抜けな響きの『ウパ』、いわゆる『円』。ありがたいことに、前世の私がいた日本の物価とほぼ変わらないという。しかも人間界と魔界でも呼び方と形状が違うだけで、価値は全く変わらないという。

 これって、あれよね……あれ。

 作者さん、考えるの面倒だったんだろうなぁ。レートとか細かな設定とか。

 まぁ、私は感謝でしかないんだけどね。余計な計算しなくていいから。

 

「宝石がいいのよね?」

「グゲッ。んあ、まあそう……ですな」


 挙動不審に目玉をギョロギョロさせながら返事された。わかりやすすぎない? 商売人として大丈夫なの?


 人間界の宝石は魔界ではちょっとだけレア。

 コミックでは書かれてなかったけど、この世界ではそんな扱いらしい。こういう小さな齟齬や描写されていなかった部分は、ある程度は勉強して来たから大丈夫だと思う。

 

「このダイヤが散りばめられたネックレスでどう?」

「まぁ、この家はそのくらいの価値だな」

「そうね。価値よね。少しネックレスが上回ってるから――――」


 店舗はテーブルなどは置かれたままだったのでそのまま使えるとして、居住スペースは何もなかったのと、調理具等も何もないので、それらを揃えるよう細かく指定しつつ交渉した。

 もちろん、カエル不動産に多少の利益を残しつつ。


「まぁいいでしょう。交渉が上手いですな、臭いお嬢さま」


 何故に臭い臭い言われるのか。魔族たち、レディに対して失礼すぎじゃない?

 あと、お金払えるってわかったら丁寧な言葉遣いになったの、わかり易すぎるんだけど?


「いや、後ろのケルベロスが『臭いご主人様』って言ってるからですね?」

「…………」


 ケルベロスは後で教育的指導をガッツリすると心に誓った。


「二時間ほどで配達と設置が出来ると思いますが、その間はどうされるんで?」


 流石は魔族、仕事が早い。

 本気で魔法が羨ましい!

 とりあえず、その間に服や食材などを揃えることにしようっと。



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