あすの資金がほぼほぼない

釣ール

お安くない!!

「やばい!卒業後は金欠が待ち受けている!」


 海老名は卒業シーズンで試験合格者も多い教室で堂々と懐事情を叫んでしまった。


「物価も上がって先輩たちが楽しんでいたチェーン店も俺たちの頃に潰れたもんなあ。

 賃金上がったって俺達の学力や能力は仕方ない部分があるからほんとどうしようかねえ。

 って、海老名。

 それは当てつけか?」


 しまった!

 今終らいせには海老名達には明かせない夢があるとか入学時に少し打ち解けてからベラベラ話されたのを思い出した。

 あれって設定じゃないんだ。

 違う。

 友としてすべきはこんな反応じゃない。


「いやあ今時成功者も金に困るし、規制も厳しいからアラサー達みたいに二次元に逃げる応急処置もできないじゃない?

 恋にしたって金がかかるし先輩のあの営みを見たら『その才能が資格よりも欲しいんですけど!』って叫びたくなるほどのテクニックじゃない?

 卒業したら俺の場合は学生ブランドもないしここまで続けてきたことなんて何にもない。

 金欠がただ待ち受ける十代最後さ。

 叫びたくもなる。

 どこかへ転生するくらいならどこでもドアが欲しい。

 どこでもドアという先人のアイデアをガキの頃観てたからそれがない現実で待ち受ける未来は金欠だ。」


 またしまったとリアクションをする。

 半分はわざとだ。

 あてつけは否定したくない。


 今終は幸せそうな一面と実は裏で苦労している一面を両立させるのが得意な優しい人間と言われる奴だ。


 昔の話をしよう。


 一つ上の実用的筋肉を持つ男性の先輩が今終が入学時に色々と手を回していて


「裏口入学?この高校大した偏差値じゃないけど?」


 嫌みたらしく聞いてみたら


「倫理観が厳しくなる世界で腕っ節を鍛えた先輩は結構シビアな生活を送っていて刺激がもらえるよ。

 海老名に手を加えないように頼んでおくからよろしくな。」


 こいつ友達にしちゃいけない奴かな?

 最初はそんな疑問を持ったが入学時に


「はじめまして。

 バイトの予定なんてするつもりもないから金欠で炭酸飲料くらいしかプレゼントはできないけど仲良くしようよ。」


 100mlだか忘れたがコーラとサイダーをその場にいた海老名を含めた四人に渡してくれる人間をこの程度の性格の悪さで決めつけるのは良くないと思って卒業まで仲良くしている。


 怖かったあ、あの先輩。

 一昔前なら傷ありの喧嘩好きだったかもしれない。

 去年先輩が卒業する時に海老名は欲しかったスキルを教わった。


「お前たちに対して先輩として何もやれることはなかった。

 だがな。

 今終に付き従う友人が出来るとは思わなかった。

 ありがとう。

 連絡先は教える。

 安心できるか分からないが最低限の連絡しかしない。


 いいか?

 筋肉ってのはあらゆる趣味に使える。

 俺達は家庭があるから忙しくなるし、海老名に金を渡したり、稼げる技術を与えられるほどの器用さはない。


 だが…!」


 そこで金欠の時に対応できるマニアックな趣味を教わったりした。

 本当にいい人かもしれないけど最後まで怖かった。

 今終はあの怖い先輩とも当たり前のように接して、あれよあれよと資格やらパートナーやら大学進学も決めていた。


 あてつけたくなるよお!

 無い物ねだりが人間の性分だと現実を頭でわかっていても明らかに天と地の差がある。


「今終!

 お前は金欠で可哀想な同年代の友人に最後まで味方をした最高の友人としてアルバムに乗ることになる。

 嫉妬じゃない。

 行き場のないストレスと金欠による不安で不安定になっている今終の友人の一人に過ぎない。

 愛読書が有名人かインフルエンサーの図書だと堂々と言える素晴らしい社会で今終と友に苦しんだ高校生活をこうしてエンドマークまで完成させられる。

 何度お前とヤンチャさせられ、大抵の理不尽を受け切ったか共感してもらえそうなお前は決して仕方なく金欠ルートに突入するもうすぐ男子高校生が終わる人間には情けはかけられないか!」


 教室は既に理解がある。

 大体こんな感じで海老名と今終は話し合っていた。

 先輩のことを死ぬまで話さないことを条件に退屈を紛らわせるために二人が経験した高校生活の結晶でもある。


「逆にそこまで金欠に絶望してる奴に変に気を遣われても嫌な思い出になるだけだと思うけど。

 まあいいや。

 ほらっ。」


 投げ出されたものを受け取ると標準サイズとされているコーラを二本も今終からサービスされた。


「未来を決めつけるのやめようぜ。

 卒業してからも合わないこと前提な主張ばかりで傷付く。」


「言い過ぎてごめん。

 けどさあ、ミニマリストの真似して売ってしまったあの時の思い出達が換金された束はもう使っちまった。

 捨てることで進む未来があるとは聞いていたけれど。

 あんまりだろ。」


 先輩が伝授してくれた技も完コピしてはいるものの、あれは余程スリルに植えた女性にしか使えない。

 何であの人はあんな傷を負わないように生きていけるのだろう。

 あれだけは真似できないししたくなかった。

 今終もそんなリスクを平気で追える人間だ。


 それも決めつけならもうやめる努力をしよう。

 コーラを飲み、落ち着く二人を教室の人間はやっとおさまったとため息をつく。



「自分のことばかり考えるムーブはこれで終わりだ。

 今に始まったことじゃない。」


「そうだな。

 じゃあ、今終も不安はあるってことか。」


「あの人から何を教わったのかは聞かないけど一年も海老名に記憶させるってどんな授業をしたんだか。」


 今終と話し続けていくうちに海老名はこの関係が腐れ縁だと自覚した。


 この過去を知っている人間…覚えている人間が欠けてしまうのは寂しいな。


「ちくわも持ってない金欠十代後半男性になる。

 まあ持っていても不安はつきものか。

 もういいや。

 コーラのお礼はちゃんとするから。」


 今終は皮肉も言わずに拳を突き出す。

 それに海老名は拳を返した。


「まずは卒業してから考えよう。

 先輩もここまで俺と長く家族や恋人とか以外で友人として一緒にいてくれる奴はいないと高評価だった。

 俺も忙しいうちにそれを忘れていた。」


 結局先輩が最後までチラついただけだった。

 親戚か尊敬している仲なのだろうか?

 ぞんざいにはできないな。

 この腐れ縁は!

 金欠より怖い。

 あの先輩からとんでもない置き土産を貰いまくっていたから。


「手頃な会社の就職も決まった。

 そこで立て直す!

 俺達はもう貸し借りは作らないようにするしかない!」


「分かってるって。」


 海老名は久しぶりに今終とやり取りができて安心した。


 先輩は今頃突き進んでいるのだろう。

 社会と現実の間を。

 俺達は別のやり方と別の道で距離を取りながら金欠を解決しよう。


 これからもよろしく。

 そして、もう良い部分は霞んでいるかもしれない。


 卒業シーズンに向けて教室の盛り上がりへと◯五年生まれの自分達は身を投じていくのだった。








 

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