たとえばこんな学級文庫

相内充希

たとえばこんな学級文庫

 十年ほど前の事です。

 ある日、我が家に近所の中学校の先生からこんなお便りが届きました。


「クラスで学級文庫を作りたいので、本を貸してください」


 まあ、こんなにシンプルなものではなかったはずのですが、簡単に言えばそんな内容です。

 どうやら朝に読書の時間を設けるので、教室に生徒が自由に読める本を置きたいのですね。


(あら、学級文庫なんて懐かしい。喜んで貸しましょう)




 さて、ここで問題です。みなさんならどんな本を貸しますか?


(ええと、お父さん、それ、お子さんの年に読んだことあります? 面白かったですか?)

 ――みたいな小難しい本?


 じつはこれ、学生時代に書店でバイトをしていたころ、何度か見掛けた光景でした。

 子どもはマンガが欲しいけど、親としては本を読んでほしいんだねぇ。というのは分かるんですけど、意外と親自身が読書してないなんてこともあったり。


(うん、笑えないけど、あるんだよ)


 本が好きな人だと、たくさん並んでる本の中から、吸い込まれるように好みの本を選び取れたりするんじゃないかと思うんですけど、読書体験が少ない子どもにそれは難しいです。


 じゃあ、どんな本がいいかな?


 私は図書委員や書店でのバイト経験があるのですが、誰かに本を選ぶときは以下のようなことを考えていました。


「私がこの子(この人)でこの年齢だったら、何を面白いと思うだろう」


 その人の趣味や好きなものをまず考え。

 相手が子供なら、記憶をその子の年のあたりまで自分までずっと遡り、当時の自分の周りにいた子たちがどんなものを好んでいたかを思い出し。

 普段の読書傾向を踏まえつつ、その人の目を使ったつもりで本棚を見るようにしていました。


 ですが学級文庫となるとそうはいきません。

 一クラス30人ほどの男子女子全員の趣味嗜好など、もちろん知るはずもないです。


 万人に受ける本などありません。

 ましてや中学生だと、個々で読める本の幅が違います。


「昔ながらの文庫本を抵抗なく読める子がいる一方、漫画以上の文字数がつらい子もいる。いまだとジュニア文庫もあるから、小学校4年生以上という認識でいいかな」


 そんな風に考え、本を選定していきした。



 まずは手に取りやすさが大事。

 硬そうなイメージのものは論外。かっこつけて難しそうな本を持ったところで、読まないならただの飾りです。そういう本は読書に興味を持った頃、本人が自ら見つけてくると思うのです。


 できればかわいい表紙、タイトルも難しいイメージのものは避け、シリーズ物がいい。

 この3点を基準にしました。


 まず表紙。

 これは顔です。

 読書経験の少ない子でも手に取りやすい雰囲気は大事。

 同じ本でも表紙が変わっただけで、びっくりするほど売れたなんて話も聞いたことがあります。

 私も子どもの頃は基本ジャケ買い(借りる含む)だった経験からです。


 次にタイトル。大事です。


 私が中学生の頃、休み時間に友人に借りた「絃の聖域(著・栗本薫)」を読んでいると、なぜか周りの子たちから、

「難しそうな本を読んでるね……(あきらかに、絶対読みたくないわ~的な表情)」

と何度か言われたんですね。

 内容は普通に探偵ものですが、どうも表紙(40代のおじさんが読んでたら普通って感じらしい)と、漢字から受けるイメージでそう取られたらしいです。


 また同じころ、「汗血公路(アルスラーン戦記)(著・田中芳樹)」を読んでいると、たまたま同じ本を読んでいた男子から、

「それ、男向きの本じゃない?!」

と驚かれたり。(いやいや、女性ファン、すごく多いよ?と答えたと思う)


 うん、タイトルから受けるイメージで敬遠しちゃうってあるよね。

 と、中学時代に印象に残ったエピソードを頭の片隅に置きました。


 シリーズものがいいと思ったのは、この本を面白いと思った時に、次の本を手に取りやすいからです。同じ作家を追っていくことはあると思いますが、シリーズなら知ってるキャラや世界があるので入りやすい。

 でも、できれば一巻ごとに完結するものが好ましいと考えました。ちなみに学校に貸すのはあえて一巻目だけにしてみます。


「じゃあ、選びますかね」


 古臭い本は論外です。面白くても、ボロボロの本は初心者は手に取りません。

 基本カバーをかけてるので、めったにぼろいのはないですけどね。


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 定番のミステリーは外せないでしょう。

「学園ミステリーで『氷菓 「古典部」シリーズ (著・米澤 穂信)』。可愛い表紙の方だからありだな」

(アニメ化した時のものらしいが、そちらは見たことがないです)


「『氷菓』を気に入った子なら、そのまま古典部にいくもよしだけど、『切れない糸(著・坂木司)』も気に入りそう。入れておこう」


「ありそうな冒険もので、『飛べ! ぼくらの海賊船(著・鷹見 一幸)』もいいよね。瀬戸内海で海賊? って思うかもしれないけど♪」



 おや、つばさ文庫率高いな。あ、これはMF文庫。ちょっと不思議系。


「『僕たちの旅の話をしよう(著・小路幸也)』。ほんの少しずつ不思議な力を持つ子たちの冒険」


「はやみねかおるも入れようか。中学生なら『都会のトム&ソーヤ』かな。『怪盗クイーン』……。いや、『夢水清志郎シリーズ』かな」


 当時はまだ「大人の知らないベストセラー作家」なんて紹介をされてましたが、今ははやみね先生の本を読んで育った子が親になってる頃でしょうか。




 女の子向けも見てみましょう。


「『マカロン姫とペルシャ猫・天才作家スズ秘密ファイル(2) (愛川さくら)』。私が最初に読んだのこっちだし、1冊で読みきりだからこっちにしよう。(あとから1巻読んだらいまいちで、2巻を先に読んでなかったら続きを手にしないだろうと思ったのが理由)」


 ちなみにこれは小学生向きだけど、子どもの頃、藤本ひとみのマリナシリーズ好きだった人には読んでみてほしいなんて思った本です。すっごく既視感あります。

(私は直前に、たまたま「カジュアル英雄伝(著・藤本ひとみ)」を読みなおしていたこともあり、作家名を慌てて見直した本です)


「じゃあ、『探偵チームKZ事件ノート 消えた自転車は知っている(原著・藤本ひとみ)』もいれようかな。これは青い鳥文庫だけど、もともとコバルト文庫で出てたんだよね。懐かしい」


 当初全4巻の予定だったようですが、長く続いてますね。




 ファンタジーも行きますか。


「『ブレイブ・ストーリー(著・宮部みゆき)』は児童文庫(つばさ文庫)全4冊だから、これはまとめて貸そう。アニメ映画にもなってるし」



「十二国記は、『月の影 影の海』はネズミが出るまで頑張れと言いたいけれど……。朝読むにはきつそうだから、『図南の翼(著・小野 不由美)』がいいかな」


 一巻で完結するというのもあるけれど、主人公と読者の年齢が近いというのもポイントです。


「『彩雲国物語』は可愛い表紙で手に取りやすいかな。シリーズは長いけど、1巻で一応完結だし」


「和風も入れようか。『少年陰陽師(著・結城光流)』」


「生きたぶたのぬいぐるみ(中身はイケオジ)の『ぶたぶたシリーズ(著・矢崎存美)』も、1話1話が短くて読みやすいかな。『ぶたぶた』に収録されてる「銀色のプール」は、場所に気づけばニヤッとする子もいるかも?」


 今はなきとしまえんの冬のプールに、ぶたのぬいぐるみが住んでいる、そんなお話。


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 そんな感じで、結果30冊ちょっと選んでお貸ししました。


 楽しい読書のスタートになることを祈って――。

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