短編「無職ノ滑落」(完)

不可世

一話完結

私はニートである。

一見世間に口外しない方が無難ではあるが、あえて口にしたのには作為がある。

それは無職円満で生きたい、その野望の為である。

しかしどうであろうか、金がない、そう、金がないのだ。

そこで自宅に居ながら、自分主体とした稼ぎでストレスフリーなライフスタイルがないかと模索した結果、一筋の妙高の光に辿り着いた。


そう作家である。


そう、これなら。

これならいける。


だがそもそも世渡り出来る術などない。

それがあればニートではなかった。


ああ、、、


終わった。


作家とは圧倒的な人海戦術が無くてはならない

だが挑む他ない

生活のために

強いれば食うために、やるほかない


世渡り26年の私が如何にして、金銭をせしめるか、これはそんなリアルニートシュミレーターである。


さぁやらかそう


「おはよう」

無論誰もいない

居たとしたら擬人化マクラくらいだ。

いや訂正しよう抱き枕だ。

だが間違えないで欲しい、人寂しさに買った訳ではない。

これはアニメ界の飛躍の為の、資金援助であり、決して慰めの意ではない。

いや訂正しよう、尊過ぎたからだ。


私の源は二次元である。

これを誇る訳ではないが、記録サイトでは上位を占めている。

時間があれば、誰にでもなれるものだが、

時間を作るには、何かを辞めねばいけない

そんな禅問答はニートの私には無縁だ。


ニートにとって良いことは

時間的自由と繋がりの自由がある事だ。

全てはネットで完結し、見たいものを見て、寝るだけでいい。

なんとも合理的で教授したいが世では賛否両論だろう。


つまり、ニートが天職だと言うほど、世界の真理は一過的ではない

何故、ネットの重鎮である、ニートという高種族は、ここまで怪訝にされる事があるか。


その答えは私自身、述べている。

そう、生産性がない、金がない、自己満足、そのジンクスである。

しかし、ニートたるもの、好きに生きていく、という圧倒的な本能に忠実であるのも然り。

つまり世論など本能の前には効力はない。

だが、それは家の中で笑って居る時だけだ。

外に出れば、風をも脅威に見え、衆目は愚か、対面となれば、心拍は振り切れる。

これは些か過度な描写とも思えるだろうが、

ニートを極めるほど、常世は酷となる。


「今日はどうしようか」

ニートに確たる予定はない、漫然と広がるだだっ広い平野と同じで、めぼしい事もない

アニメを観たり、ネトゲをしたり、これはもう定番

それ以外は特段特化出来る事がない

そもそも活動範囲はネット圏内であり、

それを出ることは死刑宣告と同じ


家こそエデン

家こそトータルライフなのだ


ゆえに、今日も吞気だ

まずは何をしようか

その問いに対して

寝ころびながら考える


あくびをして

背伸びして

ぐうたらして

まだ二十代だし

この先何年もそう出来る

金があればの話だが


この本が売れれば

もれなく名誉あるニートとして

世界を闊歩できるだろう

なんとも、なんともだ


ニート的既決なら

名声より金が欲しく

だが世では

名声とお金は同義と言ってもいいだろう


ほんとにどうしようかな~

このまま私の卓越した独自的な退廃思想を

いやいや数奇なるライフソリューションを

いやいやいや

そう、言うならば

ニーティング・エスカレーションを

肥大に広大に壮大に、成していくのが、

ニートたる所以ではないか、世に据え置きされたニートという

バックドアを今宵は盛大に祭り散らかそうではないか

そうである、私はこの部屋から

全てを目撃し、全てを変える

言うならば、アンリミテッド・ニート・パラダイサー

完全なる世界のありありを、この画面から、見とどけ

パーフェクト・インサイダーとして、勝ち星を挙げる

完璧だ、抜かりない

見えてきたぞ

見える

見える

このニートの野望に、一光の太刀筋が見える

世は残忍だ、故に、マウスを握り、画面に食らいつく

このオーバー・テクニカル・ライフリレーションで

全てをエレクトロ・ダウンし、

ましては、万物の一切から、神仏の高尚まで

全てをありありと、淘汰しよう


この世界に覚えた

異質な、隔たりを

乱立する、案件を

全て、シャットアウトし

この黒きたる、ワールドエントランスから

全ての方便を返り討ちにし

最上で最高の最強を

顕現させよう

これはニートによる、ワールドクリエイト

そう、新世界創造の、オーバーディスカッションだ


ここに生ける生命すべてに問う

無論、二次元諸君も聞くがいい

私は、今ここに、国家を築く

それも私による私のための独裁国家だ

さぁ楽しくなってきたんじゃないか

もう、猶予はないぞ

私がいる以上、この世界のビジョンは

私が作る


さぁ軍門に下れ

もうやすやすとは返さない

ここに来た以上

ただでは返さない

そうだ、その懐にある

全てを捧げよ

なに?

惜しいだと?


金は回りもの

使わぬものに、巡りはない

この巡りを消すつもりか?

なかったことにするのか?

野に咲く花を摘んで帰るだけか

なぜ歩みよらない

なぜ、懇願しない

もっと、見せてくれ

そなたの偉大さを

そなたの寛大さを

いいや何より

私の命乞いを無視する気か

このまま見殺しにする気か

許さん

許さないぞ

ただでは返さん

更新が途絶えたとき

そなたは泣くぞ

あの子がいないと

あのニートがいないと

泣くことになるぞ


いいのか

ここに芽生えた命

ここにある今見つけた

この命

それを反故にするのか

なんとも無体な

なぜ命が個々にあると思う

考えたことはあるか

それは助け合い生きるためだ

だから人は増えた

生きるために輪になった

それが分からないのか

ここまで生きて培ったのは

ただの国語だったのか?

道徳心はセオリーか、ただの対面の手向けか

そんな訳ないよな

だって心というものをあなたは既に知ってる

もう知ってたじゃないか

それは思ったことがあるからだ

心を知ってる人に、分からない訳がない

な、生きようよ

俺を、生かしてくれよ

頼む、頼むから。

俺も抱えて生きてくれ

俺をニートとして出世させてくれ

出来るんだよ、君なら出来るんだ

だってもう、心を知ってるんだろ

何歳だ、心を覚えたのは何歳だった

あると感じたのは

誰かを思って泣いたのはいつだ

おばあちゃんを

おじいちゃんを

突然失った家族を

妹を弟を

あの日から空き家になった

あの親戚が居たところを

もうあなたは、

誰かのために本気で動いた事があるじゃないか

それを今、

それをここに、

私に、向けれないのか。

なぜだ、私はただの落ちこぼれか

それとも、つまらない人間か


そうさ

そうだとも

大いに結構

大いに私は弱い

だがな、ニートだって初めはグラウンドにいた

だけどいつからか

息苦しくなった

心に触れたからなんだ

考えるほど繊細になって

考えるほど身動きがとれなくなる

そうなんだ

人ってほんとにそういうものなんだ

あの子が言った一言が

痛かった、態度も変わった

恋なんかしたこともない

もう終わってるんだよ

心なんて心なんて・・・

ほら、どうだ、滑稽だよな

俺はずっと、そうやって、心とか綺麗ごとで言い訳したけど

本当は、醜いんだ

かっこよくないんだ

だから、こうしてアバターになって生きれる世界が好きだ

好きなんだ

自由だ、この姿なら、なんだって言える

な、なんだって言っただろ

それが俺、俺なんだ

俺は醜いから、みすぼらしいから

この仮想世界でなら生きれるって

唯一得た、居場所なんだ

だけどもう、金がない

金がないんだ

これから社会に出て、生きろって?

無理だ

だって、不器用で不作法で不細工で

おまけに根性なし

すぐ泣いてしまう

すぐ取り乱す

場を混乱させる

悪循環になる

な、無理なんだよ、所詮、粋がれるのはここだけ

ここだけなんだ

無理なんだよ、全部、無理なんだ

な、あんたはどうだ

一人の時に何を考えてる

将来とか自分についてとか、悩みを考えるか?

俺はずっと、そうだった、自分を責めてばっかりだった

だから虚言を知ってる、分け分からないことを言う

そうしないと、せめて強く見せないと

真に敗北しそうで

作らないと、自分を作らないと、

本物の自分が痛むから

仮初で、張りぼてでも、それは作った自分が痛いだけだって

肩代わりしてくれるって

なんか、そう思えて

だからさぁ

いいだろ、くれよ

その埋め合わせを

その償いを

いいや、俺はこのままじゃ自殺するほかないんだ

生きろなんて無謀だ

さんざんこの10年で学んだから

生きるには、ここまでして、自分を駆り立てないといけないって

暑苦しいし、うざい、こと言ってるけど

でもそこまでしないと

ほんと、やばいんだ

ヤバいんだよ。

なぁあんた、選んでよ


俺の生き死にを


選んでよ。

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