第3話 振り返る〜水仙編〜

 事務所に帰ると、固定電話の留守電のランプが赤く点滅していた。

 紫苑は留守電の再生ボタンを押し、スピーカーにして聞く。

 聞き覚えのある、水仙の出来事に深く関わっていた陽水の声が流れてきた。


 父と和解できました。あなたのおかげです。ありがとうございます。


 留守電を聞いた後、紫苑は折り返し、電話をかけた。



 一時間後、紫苑と陽水は事務所の近くの喫茶店でお茶をしていた。

 紫苑が直接伺おうと聞いたところ、陽水が家ではなく、紫苑の事務所の近くの喫茶店を指定したのだ。

 気のせいか、目の前にいる陽水はとても疲れ切っていた。紫苑はすぐにそのことに触れず、陽水が話し出すのを待っていた。

 紫苑がティーカップに口をつけた所で、陽水が話し始めた。


「私たち、母をお寺で供養することにしました」


 それから陽水はこう話した。紫苑が去った後、陽水は父と話し合った。そして、陽水は父が殺していないことを知り、母の晴陽が病死で、頼まれて庭に埋めたことを話した。それから陽水と父は母との思い出を尽きるまで話した。長いこと話していた。夜が更けても、陽が昇っても話し続けた。


「話しているうちに決意しました、このまま母を庭に埋めておくのはかわいそう、って」


 そのことを決意した翌日、今まで庭に咲き乱れていた水仙が嘘のように消えた。この瞬間、陽水と父のわだかまりも解け、止まっていた時間も動き出した。それからというものの、警察が来て、事情聴取を受け、大騒ぎになった。今でも家の周りには記者が来ることもあるため、陽水はあまり家に寄りつかないようにしているという。


「でも、良かったと思います。これで……」


 陽水は涙ぐんだ声で紫苑にお礼を言い、頭を下げた。

 紫苑はティーカップをソーサーに置く。


「ところで、あなたはお母様が亡くなる直前、怪しい人を見ませんでしたか? 例えば、長靴を履いた……」

 

 陽水が弾かれたように頭を上げる。


「どうして? それを……」

「何か、心当たりが?」

「母が亡くなった日、家に帰るまでの道中に見かけない車とを見たんです。この辺りの人じゃないから、印象に残っています」


 長靴との関連は分からないが、そのは不思議な花と関わりがあるのだろうか。


「その人が……何か?」


 紫苑は答える。


「分かりません」

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