第5話 激情の行き先

「それで、この頭蓋骨か……」


 紫苑は現実にある頭蓋骨を見て、殺した後に処理したことを容易に想像した。

 紫苑は少女を睨みつけながら手を差し出す。


「返してもらおうか? 私の大切な物」


 少女は一旦大広間から消える。そして、戻って来た時、その左手には骨壺が握られていた。その場から少女は一歩も動かない。紫苑は近づき、少女の正面まで歩いた。紫苑が少女の真正面まで来ると、少女が骨壺を紫苑に渡す。紫苑が両手で優しく骨壺を受け取った瞬間だった。


「!」


 脇腹に衝撃を覚え、紫苑は後ずさる。紫苑の左腹にナイフが刺さっていた。その場に蹲る紫苑の前に少女がしゃがんだ。


「生きて帰れると思った?」

「……私は……通報……していない……」

「通報したら骨壺を壊すとは言ったけど」

「……ああ、そっか」


 少女は一度も、紫苑を生きて帰すなんて言っていない。


「頭蓋骨を見られた以上、あなたを生きて帰すわけにはいかないし、それにお前は、あの子のことをちっともかわいそうな子だと言わなかった。あいつらと同じ、お前はあの子よりあのいじめっこ三人を案じた、大衆と同じだ。大衆もあの子がいじめられているのを見逃して、死に追いやった」

「だから、謎解きゲームをしていたわけか?」


 少女は探偵を脅迫して謎を解かせ、そして試していたんだろう。

 自殺した子の境遇を、彼らはどう判断するか。


「かわいそうな子だと認めれば良かったか? でも……それでも君は殺すだろう? 所詮認めた所で、君以上にあの子を想っていた子はいないのだから」


 おそらく、誰かがあの子をかわいそうな子だと認めたとしても、少女はそれを許すことはない。

 誰かがかわいそうな子だと認めた時、少女はそう思うからだ。


 だったら、どうして助けてくれなかったのか、と。


 とても救いようのない激情だ。

 どっちにしても、紫苑は少女の激情のまま、殺される運命にある。

 その時だった。


「ひっ!」


 紫苑が顔を上げると、信じられない光景が広がっていた。

 頭蓋骨に生けられていた白百合が伸び、少女の体に巻きついている。

 白百合は成長し、少女の首に巻きついた。少女はもがくが、強く首に巻きついた白百合が緩むことはなかった。




 少女の首に白百合が巻きついた状態で息絶えている。紫苑には一体何が起きたのか、全く理解できなかった。

 だが、少女はもう愚行に走ることはない。

 その時、左腹に激痛が走った。その激痛で紫苑の思考は停止し、とにかく出ることに集中した。

 刺された傷口を押さえながら立ち上がり、気力を絞って廃墟を退出した。


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