普通な私がスーパーの店員さんに恋をした話

丸焦ししゃも

スーパーの店員さんに恋をした話

 “コンビニの店員さんに恋をした”


 高校二年生の春、なんとなく眺めていたネットでそんな記事を見つけた。


 毎日行っているコンビニの店員さんに片思いをして、手紙を渡したりするといった内容だった。


「恋かぁ……」


 ベッドに寝転んでいたら、そんな独り言が漏れてしまった。


 高校二年生にもなって初恋すらまだな私は、その言葉の本当の意味がよく分からない。このコンビニの店員さんの話でさえ、どこかおとぎ話みたいに聞こえてしまっている。


 学校に行けば友達はいるが、心の底から親友と呼べる友達がいるわけではない。


 夢中になれる何かがあるわけでもなく、別に何かに不自由にしているわけでもない。


 家庭内だって至って普通。


 お父さんお母さんとは普通に話すし、家族に不満や不安があるわけでもない。


 そんな普通の私は、今まで何かの“主役”になるということはなかった。


 ネットで見たが、こういうのをモブって言うらしい……。


 恵まれた環境にいるとは思っているが、自分自身はどこか空っぽのような毎日を過ごしていた。


汐織しおりー! ちょっと買い物に行ってきてー!」

 

 一階からお母さんの声が聞こえてきた。


「はーい」


 いつも通り、私は近くのスーパーマーケットに行くことになった。


 ……自分の周りの時間だけが勝手に進んでいくような感覚がある。


 病んでいるわけではないが、たまーにこんな風に思ってしまうことがある。


 ――誰も私のことは見ていないんじゃないかって。




※※※




ピッ


ピッ


ガラララララ



 スーパーに行くと、いつもと同じ人がいつもと同じ時間に値下げをしていた。


 目鼻立ちがはっきりしていて、とても優しそうな顔つきをしてる若い男の人だ。


「あっ、それ今値下げしますのでちょっと待っててください」


 お刺身のパックを手に取ると、その従業員の人が私に声をかけてきた。


 何も言わなければ、そのまま買っていくのに馬鹿な人だなぁと思った。


 

ピッ



「ありがとうございますー!」


 値下げの機械から赤いシールが出てくる。

 慣れた手付きで、それを値札のバーコードのところに貼りつけてくれた。


「す、すみません」


 そのお刺身のパックを受け取って買い物カゴの中に入れた。


「……」

「あれ? 何かありました?」

「い、いえ、値下げするって言わなきゃ普通に買っていったのになぁと思って……」


 ただの興味本位。


 普段の私ならそんなことは言わないのに、つい思ったことが口から漏れてしまった。


「もうすぐ値下げするやつだったので。それに」

「それに?」

「お客さん、いつも買い物に来てくれてるでしょう? だから特別ですよ」


 ……自分でも馬鹿だなぁと思う。


 それだけで、私は誰かに見つけてもらった気になってしまったのだから。




※※※




「ち、チーフ……その……あれなんですが……」


 私は、それからそこのスーパーでアルバイトをすることにした。


 理由はその男の人が気になったから。


 い、いや! 自分でもおかしなことをしているっていうのは分かってるんだよ!?


 お母さんにも散々からかわれたし!


 でもその人の真面目な仕事ぶりを見ていると、益々その人のことを知りたいと思った。


 その人の横顔を見ているとドキドキする。


 その人に話しかけれると、もっともっとお話をしたいと思ってしまう。


 その人が忙しそうにしていると、助けになりたいと思ってしまう。


 アルバイトを始めてから数か月が経ったある日。


 私はとうとうその人の特別な何かになりたいと思ってしまっていた。


 だから、告白しようと思うんだ。


 自分の中の何かをスタートさせたかったから。


 コンビニの店員さんに恋をするなんて都市伝説だと思ってたんだけどなぁ……。


 私はスーパーの店員さんだったけど……。


「わ、私、今50パーセント引きなんです。お買い得なんですがいかがでしょうか……?」

「へ?」


 自分に自身のない私は、そんなヘンテコな告白をしてしまった。


 あの日のように赤いシールを貼って、特別扱いしてほしかったのかもしれない――。











普通な私がスーパーの店員さんに恋をした話 


~FIN~





















そんな彼女が主役の話

「スーパー店員の白河さんは値下げシールをよく間違える」に続く


https://kakuyomu.jp/works/16817330667584906886

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