【一話完結】僕は自分の力で、小説を書きたいんだ!

久坂裕介

第一話

「はあ……」と僕は思わず、ため息をついた。当然だ、僕が書いた小説は十話まで公開したが、★が一つも付かないからだ。やっぱり今時いまどき、勇者が魔王を倒す小説なんて、読まれないのかなあ……。古臭ふるくさくて、流行はやらないのかなあ……。気分転換きぶんてんかんに今、僕がハマっている曲、石川智晶いしかわちあきの『アンインストール』を聴いても気分はれなかった。


 僕は小説投稿サイト、『WriteライトアンドReadリード』で小説を公開している。僕は異世界ファンタジーが好きでよく読んでいて、それを書いてみたら書けたので誰かに読んで欲しくて公開している。もちろん、夢はある。書籍化しょせきか、アニメ化はもちろん、映画化だ。僕の考えではそれが、最高のライトノベルだからだ。


 それに、現実的な問題もある。僕は今、ニートだ。大学を卒業して就職したものの、そこはいわゆるブラック企業だった。長時間の残業、休日出勤は当たり前、だが残業代などは出なかった。それに上司がすぐに怒る人でパワハラも当り前で、僕はたまらず三ヵ月で会社をめた。だから僕は、何としても小説家になって成功しなければならない。


 とは言え、このままでは……。『WriteアンドRead』では異世界ファンタジーは、人気のジャンルだ。読む人も、多い。だからたくさんの作家さんが、異世界ファンタジーの小説を書いている。しかし数が多すぎるので、もれてしまう小説もある。当たれば大きいが、外せば全然読まれない。それが僕の異世界ファンタジーというジャンルの、感想だ。


 そう思いながら『WriteアンドRead』で公開されている小説を読んでいると、あることに気づいた。それは、対話型たいわがたAIをあつかった、小説が多いことだ。対話型AIとは文章で質問すると、的確な答えが文章で返ってくるというものだ。僕自身は質問したことはないけど今、流行っている。だから小説でも、扱っているのだろう。


 すると僕は、ふと考えた。AIに小説を書いてもらったら、どうだろう?

そうだ、AIに売れる小説を書いてもらったら、と考えたがめた。もしそんなことが出来るなら、みんなもうやっているはずだからだ。


 でも、更に考えた。でもちょっと、ためしにやってみたい……。だけど、いきなり小説を書いてもらうのは止めた。まずは試しに、タイトルを考えてもらった。僕は対話型AIの質問欄に、『これから、最も売れるライトノベルのタイトルは?』と打ち込んだ。すると一分後、答えが返ってきた。


 その答えは、『魔王に転生した俺。世界征服とかめんどくさいから、仲間のモンスターとダンジョンでほのぼの暮らす様子を配信はいしんしてバズりたい!』だった。


 何だこれ……。確かに配信とか最近、流行っているワードは入っているけど……。でももし書いたら、僕が今までに書いていない小説には、なりそうだ。


 そして僕は、考えた。このタイトルの小説の、第一話を。だがいくら考えても、ぜんぜん思いつかなかった。なので、対話型AIに質問してみた。『魔王に転生した俺。世界征服とか、めんどくさいから仲間のモンスターとほのぼの暮らす様子を配信してバズりたい! の第一話は?』と。すると一分後に、約二千文字の第一話が表示された。読んでみたら結構、面白おもしろかった。なのでそれを、『WriteアンドRead』に公開してみた。


 すると、おどろいた。何といきなり、★が三つ付いたからだ。それに味をしめた僕は第二話、第三話を対話型AIに質問して、表示された文章を公開した。すると★の数が、十になった! これはイケると考えた僕は、第十話まで公開した。その時には星の数は、百を超えていた。当然僕は、どんどんAIに質問して、どんどん公開していった。五十話まで公開すると星の数は、千を超えた。


 その頃『WriteアンドRead』では年に一度の、大コンテストが開催かいさいされていた。『異世界ファンタジー』などのジャンルごとに小説を応募して、大賞を取ると賞金百万円がもらえて書籍化される、という小説家を目指す人には夢のあるコンテストだ。小説の文字数は十万字以上というルールがあったが、僕の小説はすでに十万字を超えていたから問題は無かった。僕は試しに、応募してみた。


 すると僕の小説は、見事に大賞を取った。『今までに無い、斬新ざんしんな小説』というのが、大賞を取った理由だった。そして僕の担当たんとうは、高橋さんという人に決まった。高橋さんはメールで、僕を銀座の寿司屋すしやに誘った。

「何でも、好きな物を食べてください」と言われたので僕は、マグロとサーモンを注文した。だが食べ終わると、「はははは。もっと高い物を、食べてもいいんですよ」と言われたので、僕は大トロを注文して食べた。やはり、美味おいしかった。


 食べ終わると高橋さんは、真剣しんけんな表情で話し始めた。

「とにかく、第一巻が大事です。それが売れなかったら、次はありません。なので、がんばりましょう。『魔王に転生した俺。世界征服とか、めんどくさいから仲間のモンスターとほのぼの暮らす様子を配信してバズりたい!』を、人気作にしましょう」


 僕はプレッシャーを感じながらも、「はい」とうなづいた。それから僕は高橋さんと、第一巻の打ち合わせをした。だが高橋さんは、言ってくれた。

「普通、新人さんの第一巻目は、いろいろ直すんですけど、この作品に関しては直すところはありません。このまま、行きましょう」


 こうして僕の小説は、書籍化された。発売された第一巻を本屋で見つけた時はうれしくて、思わず二冊買った。少しすると高橋さんから、電話がきた。普段はメールでやり取りしているので、少しビビった。どういう、用件ようけんだろう? 電話に出てみると、高橋さんは興奮こうふんしていた。

『おめでとうございます! 第一巻の増版ぞうはんが決まりました! なので第二巻の出版も決まりました!』


 僕は、『ほっ』としながらも喜んだ。増版か……。よし、第二巻も、がんばるぞ! そして出版された第二巻も、好評こうひょうだった。そしてまた、増版された。なので第三巻の出版も、決まった。また好評だったので、第四巻も出版された。


 当然第五巻も、出版されることになった。僕は今まで通り対話型AIに、小説を書かせていた。すると高橋さんから、よほどのことがない限りかかってこない電話がきた。緊張しながら出てみると、やはり、良い知らせだった。

『おめでとうございます! 斎藤さんの作品が、アニメ化されます! 早速で申し訳ないんですが、第五巻のあらすじを早めにメールで送ってください』


 だがその連絡れんらくを聞いても、僕は驚かなかった。第四巻まで売れ行きが好評だったため、アニメ化されるのは時間の問題だと思っていたからだ。でもやはり実際にアニメ化が決まると、喜びがいてきた。アニメ化か、夢みたいだ……。


 でも僕は、気合きあいを入れなおした。いや、アニメ化で喜んではいられない。僕の夢は、映画化だからだ! でも、ふと考えた。これって、僕が書いた小説じゃないんだよな……。そして僕は、決めた。よし、これからは僕が小説を書こう! 今まで対話型AIに小説を書かせていたとはいえ、どんな小説が売れるのか分かってきた。だから僕にも売れる小説を、書けるはずだ!


 第五巻のあらすじを考えた僕は、それを高橋さんにメールで送った。すると少しすると高橋さんから、電話がきた。なので僕は、期待した。アニメ化以上のニュースを。たとえば本屋さんの店員が売りたい本を決める、『ブックス大賞』で一位を取ったとか? そうすれば僕の小説はもっと注目されて売れて、アニメ化にもはずみがつくはずだ。そう期待して電話に出てみると、高橋さんは語気ごきを強めた。

『斎藤さん、ふざけないでくださいよ! あらすじを読んだんですが全然、面白くありませんよ!』


 僕は、少しうろたえながらも説明した。

『いや、魔王が勇者とフォロワー数をきそうという、新展開です。面白いと思うんですけど……』

『いや、全然、面白くありませんよ! 今さら勇者が出てきても。魔王がモンスターと、ほのぼの暮らしているから面白いんですよ!』


 僕は、大きなショックを受けた。そうか、僕が考えたあらすじは、面白くないのか……。でも僕はもう、対話型AIに小説を書かせる気は無かった。僕は僕が考えたアイディアで、小説を書きたかった。なぜなら評価されているのは対話型AIで、僕ではなかったからだ。僕は、僕自身が書いた小説を評価してもらいたかった。僕の才能を、評価してもらいたかった。僕は自分の力で、小説を書きたかった。


 だから僕は高橋さんに、本当のことを話した。今までの小説は、対話型AIに書かせていたと。すると高橋さんは、あっさりと言い切った。

『それじゃあこれからも、対話型AIに作品を書かせてください。ウチは人間が書いた売れない作品より、対話型AIが書いた売れる作品を売ります』と。


 僕の中で、何かが切れた。ダメだ、僕はもう高橋さんとは、仕事をしたくない。気が付くと僕は、無言で電話を切っていた。それから何度も高橋さんから電話がかかってきたが、僕は無視した。『WriteアンドRead』も、退会たいかいした。そうして、数日間が過ぎた。


 でも僕は、気付くと小説を読んでいた。勇者が魔王を倒す、王道おうどうの小説を。すると僕は、やはり小説を書きたい! という気持ちになった。やはり僕は、小説が好きなんだ。読むのも、書くのも。


 そして僕は再び、『WriteアンドRead』にユーザー登録した。もちろん、ペンネームを変えて。そして、公開し始めた。勇者が魔王を倒す、王道の小説を。でも僕は、ちょっと工夫くふうをしていた。魔王が主人公の小説を書いていたおかげで、色々なアイディアが浮かんだ。


 なぜ魔王は世界を征服しようとするのか、モンスターは普段ふだん、どんな風に暮らしているのか。新しく公開し始めた小説では、そのことも書いた。するとそれが良かったのか第十話まで公開した時に、★を三つもらった。コメントも、もらった。『面白いです。早く続きが読みたいです。がんばってください!』と。


 書籍化した時よりもアニメ化が決まった時よりも、僕は喜んだ。そして第十一話を書き始めた。



                            完結

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【一話完結】僕は自分の力で、小説を書きたいんだ! 久坂裕介 @cbrate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ