俺の彼女は嘘つき少女〜嘘つきなのは口だけでした〜

ねこしぐれ

俺の彼女は嘘つき少女

「ソフトクリーム好き?」

「好きじゃないです」

「めちゃくちゃ美味そうに食べてるじゃん」

「おいしくないです」

「めっちゃ笑顔だよ?」

「笑ってないです」

 ――ここは、俺達が通う中学校の校区内にある公園だ。すぐそこの広場では、500円のソフトクリームが売ってある。

 ベンチに座って、俺は隣に座っている美少女を眺めていた。

 顔いっぱいに笑顔を咲かせて、小さな口でソフトクリームを食べる彼女は十六夜いざよい花火はなび

 顔立ちが整っていて、小柄で華奢な女子だ。

 ブラックダイヤモンドのような瞳は、ソフトクリームに釘付けでキラキラと輝いていて、長いまつ毛が、瞳の輝きをより一層目立たせる。

 肩にかからない長さで切りそろえられた黒髪は綺麗な内巻きで、幼さと大人っぽさが絶妙な割合で共存した超絶美少女である。

 だがしかし、1つだけ美少女にそぐわないところがある。

「花火の嘘つき」

 俺がわざと悲しそうにつぶやくと、花火はソフトクリームにかぶりついた状態で、動きを止めた。

 ギギギ……ときしむ音がしそうな、カクカクした動きで俺を見る。

 いつも眠そうな目は、目玉が零れ落ちそうなほど大きく開かれていた。

 すぐに眠そうな目に戻ると、ソフトクリームから口を離した。

 ソフトクリームは、彼女がかぶりついた部分だけ削られている。

 ――そう、彼女は嘘つきなのだ。

「嘘つきが嫌なら、今すぐ別れてもいいです。私はあなたのこと、好きじゃないですから」

 そんな冷たいことを言いながら、ソフトクリームの冷たさに悶えている。

 あーあ、一気に食べるからだよ。

「好きじゃないのに告白オーケーしてくれたんだ」

「勘違いしないでくださいね。ひかる君のアプローチがすごかったからであって、私が光君に惹かれたわけじゃないです」

 花火は顔を真っ赤にして、またソフトクリームにかぶりつく。

 声は淡々としていて寒気を感じさせるのに、頭をなで回したくなるくらいには可愛い。

「そういうところが好きだなぁ」

「光君に好かれたからって、嬉しくもなんともありません」

 真っ赤な顔をさらに赤くして、トマトのようだ。

「可愛い」

 正直に言うと、花火はプクーっとほっぺたをふくらませる。

「……光君のバカ。だから好きなんだけど」

 バカ、と言った後にソフトクリームの最後のひと欠片を口に放りこむと、またモゴモゴと何か言って立ち上がった。

「さて、ソフトクリームを食べ終わったことですし、私は帰ります。私と離れたくないなら、ちゃんとついてきてください。おいていきますよ」

 花火はそう言いながら、俺が立つのを待っている。

「俺と帰りたいのかな」

「ちがいます!」

 花火は顔を真っ赤にして否定する。

 こんな言い合いができるなんて、前は思っても見なかった。

 ――俺が花火と出会ったのは、転校してすぐだった。

 中2の2学期、俺は父親の仕事の都合で、今の学校に転校してきた。

 ほとんどのクラスメイトとは、あっという間に仲良くなれたけど、ただ1人、花火だけは距離を縮めることが難しかった。なぜなら、花火は超超美人で、近寄りがたい雰囲気があったからだ。

「あの子は……? ぼっちなの?」

 クラスメイトに聞いてみると、みんなは目を塞いだり、両手で顔を覆ったりしながら言った。

「オレらも仲良くなりたいんだけど、美人すぎて近づけないんだ……」

「まぶしい! 神々しさに目が眩むわ……!」

 大げさだ、と思った。

 みんなが止める中、「あの子と仲良くなりたい」という一心で、何度も話しかけ続けた。

 ある日は「おはよう。いい天気だね」。ある日は「オムライス好き?」。とにかく、どうでもいいと思われるようなことも話した。しかし花火は無反応で、諦めかけていた、そのときだ。

「……日野ひのさん、でしたっけ? 無反応な私に話しかけて、楽しいんですか?」

 と、初めて声にしたのだ。

(うわっ! 声かわいい!!)

 ……などと思ったことは内緒にして、

「俺の名前、覚えててくれたんだ」

「覚えていますよ。日野光さんでしょう?」

「そうそう! うわー、嬉しいなぁ」

「……太陽みたいな名前だから、印象に残っただけです」

 ツンとすまして言う花火は、少し頬が赤くて、照れている様子だった。

 ――それから、ゆっくり距離を詰めていった。

 友だちとして仲良くなるつもりだったけど、花火の良いところや可愛いところをたくさん見つけて、いつの間にか惹かれていたらしい。

「あ、この子のこと好きだな」って気がついた。

 3年の1学期末に、いざ告白してみると、すんなりOK。

 こうして、今に至る。

「……光君? 何1人でニヤニヤしているんですか。気持ち悪いですよ」

「そんなにハッキリ言う!?」

 冷たい目を向けられて、はっと我に返る。

 その「気持ち悪い」が嘘ならいいのに、表情を見るに本音らしい。

「ひどいよ花火ー……」

 昔のことを思いだして、懐かしさに包まれていたことは認める。でも、そんな言い方しなくてもいいだろ。

 唇をとがらせる俺を見て、花火はクスリと小さく笑った。そして、天使のようなほほ笑みを浮かべて見上げる。

「嘘ですよ」

 橙色の光に照らされる花火は、宝石のように輝いていた。


―――――――――――

 閲覧ありがとうございますm(_ _)m

 暗めな話ばかり書いているので、明るい話を書こうと思って作りました。

 自分は恋愛経験ゼロなので、光と花火が恋人に見えるように書けたかわかりません。

 ぶつ切りエンドで、文字数も少ないですが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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俺の彼女は嘘つき少女〜嘘つきなのは口だけでした〜 ねこしぐれ @nekoshigure0718

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