第9話 ででででっで……でっでー!

「しょうがないなあ。どーしても聞きたい?」

「あ、どうしてもって訳じゃ……」

「聞けよ」

「へい! 喜んで!」

「居酒屋の人かよ!」


 爆笑すんなや。

 でも篠原、楽しそうだ。

 ホントに何か、中学の頃の篠原っぽい。


 それに。


 あれだけモヤモヤして、悲しくって、ツラかった気持ちが……やっぱり片想い中の篠原に話を聞いてもらってるうちに落ち着いてきてる。


 もちろん、しばらくは苦しくて悲しいと思う。でも、何か頑張れる気がしてきた。篠原に偶然会えたのはラッキーだった。


 そう、ラッキー……?


「なあ、篠原」

「ん」

「犬の散歩って事は、お前んちこの辺だよな?あれ、犬がいない?!」

「ウチはあれ。カールは警備の人が連れて帰ったん、見てなかった?」

「マジか!」

「公園も警備してるみたいだな」


 カール君、全然見てなかったよ! 

 それに……え? 


「あれが、篠原のうち? 篠原城?」

「城じゃねーし! 何言ってんの……あっは!」


 また爆笑された。

 いや、だって……うちの何倍だよアレ。


「腹、腹! いってー! く、苦しい……ひー」

「笑いすぎ。ほら、話の続きしろよ!」

「むり言うな! っはぁ? 篠原城? あっはっはっは!」

「篠原、昔っからツボに入るとそうだったよな。これで落ち着け」


 懐かしくなって、昔みたいに背中をポンポンと叩いてみる。


 ……?

 静かになった。


 ヤバい!

 高校生で背中ポンポンはマズかったか!


「……中一の時さ。私、周りからめちゃめちゃ怖がられてたじゃん? 家がヤバい系って勝手に言われて、キレたらヤバい金パ女って」

「あー……うん。ヤバかった」

「ちっとは否定しろよ」

「全然ヤバくなーい」

「大根役者かよ!」


 指指すな!

 笑うな!

 恥ずかしいだろ!


「親もそん時は仕事、仕事で私をほったらしでさ。でも、好きな人がそんな状況から救ってくれたんだ。毎日ビビりながら話しかけてくれてさ。で、仲良くなったらみんなに誤解だって言ってくれて」

「へえ」

「諦めずにすっごく頑張ってくれて……すっごく優しくしてくれて、びっくりする位に楽しい未来をくれた人なんだよ」


 俺みたいな奴、結構いたんだな。クラス委員だった俺も半ベソかきながら似たようなことしたっけ。


 すげえな、ソイツ。

 篠原にここまで言わせたよ。


「最初はさ、ウザい! ベソかいてんなら来んなよ! とか思ってたけど……言ってたか」


 ええ。誰かが近づくたびにおっしゃってましたね。


「何を言っても脅しても、ソイツだけは全然諦めなかった。……んでさ。話すようになってからはそいつを中心にダチも増えてさ。ビックリするぐらい学校が楽しくなってったんだ」

「そっか、そんな事があったんだなあ。そう思うと俺は本当に力不足だったな、今考えると」

「……はあ~」

「ため息つくなや!」

「んっべー」

「あっかんべえまでしやがった!」


 でも、篠原……こんなにいい奴なのに 片想いしてたんだな。


 何かさ。


 佐倉さんが夜に輝く月なら……篠原は太陽かな。誰かの事、当たり前のように照らしたりして。そんな感じがする。


 ……何言ってんだ俺は。

 キモ!


 まあ、とりあえずこうなったら……乗り掛かった舟だ。


 話を聞いてもらったお礼に……俺の気持ちが落ち着いたら、だけど。篠原の恋がうまくいくように応援してみたい。俺の知ってるヤツなら何とかなるかもしれんし、な。


「な、篠原」

「いー」

「まだそれ続くの?!」

「何だよぅ」

「こんな事を言うのもなんだけど、せめてさ、お前の片想いがうまくいくように協力するよ。だから泣いたのとかナイショにしてくれっと助かるんだけど………」

「…………マジ?!」

「スッゴい食いついた?! 目力強っ?! 近い! 近いって!」


 手ぇ離して!


 でも、よかった。

 篠原なら、俺と違って……きっとうまくいくよ。


 何でこいつ、手を突き上げてるの?

 麦わら帽子をかぶった超有名人に怒られるぞ。


「じゃあさじゃあさ! 上村は夏休みずっと部活?」

「んな訳ないだろ。たまには休ませろ」

「うっし!」


 何だそのガッツポーズ。

 不安になるからやめてくれ。


 何か怖い。


「海行こうよ! お祭りデー……、ででででっで……でっでー!」

「レベルアップしやがった?! え? 何言ってんの?」

「彼氏ができた時の為に、予行演習付き合えよ!」


 は?

 何なんだコイツ、さっきから。


 あ、コイツまさか。イジって楽しんでやがるな! 

 その手は食わん、断固拒否する!


「断る! そんなん彼氏ができてから思う存分やれよ!」

「あ? 協力するって言ったくせにビビりかよ」

「はあ? ざっけんな! やってやらあ!」

「!!!」


 そのポーズやめろってば。

 ていうかお前……気合い入りすぎじゃね?


 でもさ。


 いっぱい幸せになれるといいな。

 頑張れよ。


 俺も頑張るよ。

 恋以外で、さ。


 しばらくは諦められなかったりウジウジすっかもしれないけど……同じようにずっと片想いをしてきたお前が、話を聞いてくれた。励ましてくれた。


 今日、篠原に会えてよかった。

 少し回復できた気がする。


 でも、彼女いない歴=年齢の俺がどれだけの事をしてやれんのかって言われたら笑うしかないけど。ははは。


 ……あ!


「なあ、お前の好きな奴まだ聞いてない」

「ちっちっちっ。練習が終わるまでナイショ!」

「何だよそれ! 意味わかんねえ! ちなみに練習っていつまで?」

「……私を物理で倒すまで?」

「無理言うな! そんなん、エンドレスじゃねえかよ!」

「うっし! 新しい水着、買おっかな! 買い物も付き合えよ?」

「マジですか……」




〜完〜

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

月に手を伸ばした日 ~二つの片想い~ マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画