【SFショートストーリー】ルコルの扉:異世界が奏でる微笑みの旋律

T.T.

【SFショートストーリー】ルコルの扉:異世界が奏でる微笑みの旋律

 私の部屋の隅には、いつも異空間の扉がひっそりとたたずんでいる。

 彼の名前は「ルコル」。

 なぜ彼が現れたのか、誰が彼を作ったのかは誰も知らない。

 ただひとつ断言できる事は、彼がそこにあるということだけだ。

 私はその日も、いつものように突然現れた彼に手を差し伸べた。

「こんにちは、ルコル。今日はどこへ連れて行ってくれるの?」

 ルコルは言葉を返さず、ただ静かに光り始める。

 それはもう、異空間へ入るサインだ。

 私は息を吐き、ドアノブを回した。

 その瞬間、日常が非日常へと塗り替えられる。

 今日はいったいどこだろう。

 辿り着いたのは、宇宙の果てのような暗闇。

 しかし、足元を見れば、ぽつりぽつりと光る星々が存在している。

 まるで、宇宙を歩いているかのようだ。

 私は一歩ずつ進み始める。

 星々は優しく私の足元を照らし、私は宙を漂うように進んでいく。

 すると突然、自分の体が軽くなったことに気づいた。振り返れば、そこには私の体がある。

 分身?

 いや、ここは違う世界。

 私は身体を離れ、純粋な意識となって宇宙を旅しているのだ。

 星々を飛び越え、銀河を横切り、新しい星との対話を楽しむ。

 話題は、地球の生活や人間の奇妙な習慣について。

 星々は驚くも、同時にその多様性に憧れる。

「私たち星も、もっと色々なことができたらいいのに」

「色々なこと?」と私は訊ねる。

「そうだよ。例えば、笑うこと。地球では皆、笑ったりするんでしょ?」

 星々のその質問に、私はハッとした。

 そうだ、笑うこと。

 意識だけの体験ではそれができないことを初めて悟る。

 突然の懐かしさに襲われた。

 人間である温もり、笑顔の交換、触れ合いの喜び……。

 私は星々に説明する言葉を見つけようとするが、それは難しい。

「笑うことはね、心が軽くなる魔法なの」

 私は言葉を探しながら、星々に伝えようとする。

 しかし、それを理解するにはやはり意識だけではなく肉体が必要だ。

「ぜひ一度、体験してみたいものだ。」

 星々が呟いた。

「それならば」と私は呼びかける。

「君たちも地球へ行ってみたらいいよ」

 不意に、ルコルが再び光り始める。どうやら時間のようだ。

 私は意識を肉体に集中し始めながら、星々に手を振って言った。

「また会いましょう。その時は、一緒に笑おうね」

 私の意識は体へ戻される。ルコルの光は消え、部屋の隅に戻る。

 私は鏡でいつもの自分の笑顔を見つめ、もしやと思い窓の外を見ると、今日の空には普段と違う光る星がある。

 あれは、まさか……。

 星々が、笑いたくて地球へやってくる。

 そんな嬉しい日が、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。

 私は微笑みながらそう思うのだった。


(了)

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【SFショートストーリー】ルコルの扉:異世界が奏でる微笑みの旋律 T.T. @shirosagi_kurousagi

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