初詣とおみくじ

大田康湖

初詣とおみくじ

 あたしは友達の野口のぐち星未ほしみと一緒に、近所の神社に初詣にやってきた。近所といっても、この辺りではそこそこ知られた神社だ。コロナ禍もピークが過ぎたこともあり、かなりの参拝客がひしめいている。

「ねえ夏夜なつよ、お参りしたらおみくじ引いてお守り買おうよ」

 星未は正面の本堂より脇のお守り売り場が気になるらしい。

「来年は大学受験だし学業成就かな、でも恋愛成就も気になるし」

 まくしたてる星未の脇で、あたしは財布から五円玉を出していた。あたしも星未も、去年のクリスマスは相手にドタキャンされて最悪の夜を過ごした。星未はともかく、あたしはしばらく恋愛する気になれない。

 のろのろと参拝の列が進み、ようやくあたしたちの番が回ってきた。賽銭箱に五円玉を入れようと右手を上げたとき、突然右隣の男が振り上げた左腕が当たった。あたしの手の中の五円玉が舞い上がり、左前の茶色いダッフルコートの青年の頭に当たって賽銭箱の中に飛び込む。

 振り返ったダッフルコートの青年の顔を見て、あたしは驚いた。中学校の同級生だった元村もとむらだんだ。だいぶ大人びたが、口元の小豆大のほくろは変わっていない。

「あ、松永まつなが夏夜じゃないか」

 元村はあたしを見て驚いたように言った。

「お前、クリスマスに渋谷でケーキ買わなかったか」

「その話、もうちょっと詳しく聞かせて」

 星未が話に割り込んできた。


 おみくじを引きながら、あたしと星未は元村の話を聞いた。

「バイトしてる渋谷のコンビニの店頭でクリスマスケーキを売ってたら、松永が男と手を繋いで歩いてるのを見てさ。そしたら一時間くらいして、松永が一人でうなだれて道玄坂を下りてきて、突然ケーキをホールで買ってったから驚いたんだよ」

「まさか元村だったなんて。サンタの髭で口が隠れてたから分からなかったよ」

「松永は俺をほくろでしか覚えてなかったのか」

「そんなことはないけど」

 あたしはおみくじを開きながら元村に答えた。星未が補足する。

「ちなみにケーキは私と夏夜でちゃんと食べたから」

「やっぱり女はケーキが好物なんだな。今日はこれからどうするんだ」

 元村の問いに答える前に、あたしは開いたおみくじを見つめる。「末吉」と書かれたおみくじの「恋愛」の欄にはこう書かれていた。

『古い恋を引きずるより、新たな相手を見つけましょう』

 あたしはおみくじを神社の縄に結ぶと、二人に呼びかけた。

「みんなでファミレスでケーキでも食べない?」

                                終わり

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