俺と友と街コンのプロ、サックの話

カプサイズ

第1話 街コン

これは俺がまだ大学生だった時の話だ。

俺は兎に角、彼女が欲しかった。もうどうしても欲しかった。

彼女になりそうな女性の友人はいない。

バイトは単発系で連続して同じ人と会うことは皆無。

友人の紹介を期待したが、そもそも友人にも彼女がいない。

俺はネットでのリサーチから開始した。

・街コン

・マッチングアプリ

・結婚相談所

大きく分けてこの辺りが人脈なしでも彼女ができる可能性がある方法だとわかった。

そこで、手始めに街コンへ行くことにした。マッチングアプリは何かよくわからないし、結婚相談所は流石に違うと思ったのと、リアルであってこそ相手の人となりがわかるものだと安易に考えた。

街コン、それは合コンに誘ってくる友達がいない俺に取って、言葉では言い表せない特殊な空間に思えて仕方がなかった。

そもそも女性と日常会話をすることが珍しいのだ。それを一回の出会いで交際に発展させる方法があるのか?本当に懐疑的だった。ただ行くしかない。その未知の領域に足を踏み入れなければ俺は一生彼女ができない。

俺は意を決して、参加登録を進めることにした。しかし、ふと考えてしまう。

俺は街コンという男女それぞれ30名ほどの荒波に立ち向かうことができるのだろうか。不安だ。とても不安だ。

いや待て、そもそも60名も人がいる集会に俺は耐えられるのか。参加登録をする前に俺の心は折れそうになっていた。

そう、何を隠そう俺は陰キャでコミュ障だ。友達だって片手で数えられるのだ。

参加費だって安くない。この値段なら焼肉食べ放題に行く方が良いのではないか?そんな葛藤が数日続いた。

そして、締め切りが迫るある日、俺は気づいた。誰かと一緒に参加すれば良いのだということに。どうしてこんな簡単なことにすぐに気づかないんだろうと思いながら、俺は数少ない友人のM氏へと連絡するのである。


「M氏よ。街コンに行こう」

「いいよ」


即答であった。俺は参加表明を決めるのに数日、いや調査から含めれば1ヶ月くらい費やしているのに、M氏は即答だった。恐るべき我が友よ。


俺たちは二十代限定の街コンへ参加することにした。まぁ、2人とも二十代ですし、余裕だろうと感じていた。M氏を得た俺はまさしく鬼に金棒という心意気で当日を迎えた。

街コン開始。数分経過。俺は帰りたかった。

もう無理だ。俺はここで戦えない。そう思った。何が余裕なのであろうか。

二十代限定の街コンだったのだ。周りはみんな二十代といえど社会人ばかり、俺とM氏は完全に場違いという感じだった。M氏も会場へ向かうまでは元気だったのに、今は水を失った魚のように萎れている。

スタートダッシュを切ったつもりが走るコースを間違えたような気分だった。

今にして思えば、学生限定の街コンに行くべきだったのだろう。1ヶ月もリサーチしていたのに、俺は一番大事なところで抜けていたのだ。

街コンは、基本完全フリーで近くのテーブルに座った男女数人のグループが雑談をして、数分ごとに男子グループが移動するシステムだった。

最初のテーブルに座って会話をしたあたり時からもう無理だとわかった。いや、受付を済ませて会場に入った時から無理だと思っていた気がする。やはり年齢は近くとも社会人と学生では会話が弾まない。まぁ、これは単にこちらのトークスキルが不足していただけのような気もする。ただ、確実に女性陣からは眼中にないというオーラを感じた。

テーブル移動の時間、M氏と俺は互いに互いの心境を吐露した。

やはりM氏もこれはダメだと感じたらしい。

2人でどうするか悩んでいたところに、颯爽と彼が現れたのである。


「どうしたの?君たち、次のテーブル行かないのかい?」


そう、これがサック(仮名)と我々の出会いである。どうにも印象に残らない顔と良くも悪くもない服装。ただ、もうどうしようもない俺たち2人に声をかけてくれた人。


「一緒に回ろうぜ!」


俺たちは状況を簡単に伝えるが、せっかくだから一緒に回ろうとサックは言った。

まぁ、せっかく参加したしと俺たち2人はサックと一緒に回ることを決める。

そこからは凄かった。次のテーブルに着くとサックの独壇場だった。男3人組だが、内2人は明らかに候補外なのである。そりゃ女性陣の注目はサックに全ていった。

そして、俺たち2人もサックの邪魔にならないように、適度に会話のアシストをすることに徹したのだ。そしてサックはしっかりと女性陣と連絡先を交換する。ついでに俺たち2人も交換させてもらう。

サックのトークは絶妙に盛り上がらない。ただ、少なくとも俺たち2人でいた時よりも街コンに参加してる感は上がったのである。

3人での1ヶ所目のテーブルは終了。また移動時間になる。


「君たち、何してんの!ほら、行くぜっ!次はあそこのテーブルにしよう」


完全にサックがリーダーである。

というか、俺たち2人はサックの子分状態になっていた。まぁ、別に良いんだけどね。次のテーブルでもサックのトークは絶妙に盛り上がらない。俺たち2人は適度に会話のアシストをして場を持たせる。


「3人はどんな関係なんですか?」


女性に聞かれる。そりゃ不思議だろう。絶妙に息の合っていないトリオ状態なのである。サックはすかさず答えた。


「彼らとはここでさっき知り合ったんだ!」


うん。そうですね。その通り。

女性陣も反応に困る顔をしていた。俺たち2人は大学の友人です。と説明すると、場が和んだ。社会人のお姉様方からすると大学生の子なので完全に可愛いもの扱いだった。


「サックさんはおいくつなんですか?」


それは俺たち2人もとても気になっていたことだった。二十代限定街コンではあるが、年齢はわからない。1ヶ所目のテーブルで社会人だという話はしていたのは聞いていた。


「29歳です」


1ヶ所目のテーブルで誕生日の話になっていた。そこから考えるとサックの二十代は残り2ヶ月だ。すごいぜ。二十代限定街コン。

そこからの会話は覚えていない。全く盛り上がらなかった。けれどサックはしっかりと連絡先を交換している。流石だ。

その後の小休憩。俺たちはサックに質問した。


「街コンには何回か参加しているですか?」

「結構来てるね。今回はハズレだよ。男女比が1:1じゃないし、会場もよくない。食事が美味しい街コンもあるけど、今回はそうでもないしね」


街コンにハズレというのがあることを初めて知った。俺たちにはサックの話は面白かった。そしてラストに完全フリータイムが始まる。

俺とM氏は適当に時間を潰すか、サックと回るかのどちらかにするつもりだった。


「なぁ、サックはどこだ?」


M氏が俺に言う。

サックがいないのである。お手洗いに行くと言って席を立ってはいた。それから結構時間が経っている。俺たちはサックが戻るまで、適当に時間を潰すことにした。

けれど結局最後までサックが会場に戻ってくることはなかった。

俺たちの人生最初の街コンは終わった。

もちろんそれから一度もサックとは会っていない。数人と連絡先を交換したが、サックとは交換していないからだ。


街コンからの帰り道。俺はM氏に一言


「俺マッチングアプリ始めるわ」


そう言ったのである。


サック、あの時俺たち2人に助け舟を出してくれた伝説の男。きっともう二度と彼と会うことはないだろう。もしかするとサックは困り果てた俺たち2人を助けるために参加してくれたプロの街コン参加者だったのかもしれない。

あれから何年か経った今でも時々M氏とはサックの話を笑い話として思い出している。そう、もはや街コン言った話というよりもサックと会ったことが話になっている。

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