天国の入学式

Grisly

天国の入学式

「ええ、今日という素晴らしい日を

 忘れてはいけません。


 隣に座っているのは、貴方方の一生の宝。

 もっとも、死んでいるのですが。ははは」




R氏は不満を募らせていた。


先程から始まったこの式。

同じ日に天国入りした者達で開催され、

壇上で上級天使が何やら喋っている。


いわば天国の入学式、

いや、入国式のようなもの。




作者もそうであるのだが、

こういう改まった式は

R氏には不向きと言えた。


クラスにも1人はいただろう。

静かにじっとしていられないタイプ。



加えて、

皆天国と地獄の選別で長いこと時間を取られ

散々待たされた直後。

くたくたになっているところ。




元からのクレーマー体質もあり、

遂にR氏はブチギレた。


「私にとっての友と呼べる人物はですね…」


「おいこら。てめえ。

 さっきから黙って聞いていれば

 ダラダラと。」




会場の空気が凍りついた。


サポートの下級天使達までも、

緊張が走り、

憤慨する者、恐れで固まる者、様々。




しかし、上級天使は落ち着いたものである。

経験の違いというもの。

逞しく、大きな体や、数々の傷が、

潜り抜けて来た様々な修羅場を感じさせる。


壇上からR氏に語りかける。


「と言いますと。」




R氏も怯まない。


「つまりだな、

 こんな式何の意味があるっていうんだ。

 

 俺はもともと、始業式、終業式、成人式、

 ありとあらゆる式が嫌いなんだよ。

  

 それでも100歩譲って、年齢が近かったり、

 人生の節目が同じという事で、

 まだ納得できるが、

 



 同じ日に天国へ入った?

 何の意味があるんだ。

 

 これから成長もしなければ、

 生き返る事もない。

 

 天国には集団行動も、仕事もない。


 おまけに

 年齢も性別も、国も職業も生前の行いも

 全部ばらばらなんだぞ。




 天国入りした奴等が、

 全員善人だと思ったら大間違いだぞ。

 地獄へ行く心配もなけりゃ、

 もう死ぬ事さえ怖くないんだ。

 死んでいるのだから。

 

 気に入らない事があればぶっ潰す。

 まずはこの式からだ。

 そうだよな。皆。」




聞いていた者達の中には

賛同する者が十数人。

どこの世界にも

あまり模範的ではない者達がいるものだ。


それ以外は怖がっているのだろう。

下を向いている。


下級天使達は、可哀想に。


赴任したばかりで直面した、

初めての試練。仕事の大変さを理解する。

青ざめるばかり。




しかし、上級天使は落ち着いたものである。

経験の違いというもの。

逞しく、大きな体や、数々の傷が、

潜り抜けて来た様々な修羅場を感じさせる。


ゆっくりとこう答えた。


「ははは。

 逆ですよ。

 全く違うものであればある程、

 式は必要なのです。


 貴方のいう、現世での

 始業式、終業式、成人式、ですが、

 本当にまとまった式ですかね。


 性別はもちろん、生まれた月日、時刻、

 趣味、趣向、目的、目標、家庭環境、

 宗教、主張。


 皆一つだなんて言っているのは、

 ネジが飛んだイカれメルヘン野郎だけ。


 共通点等、ひとつもない。


 ありとあらゆる式はバラバラなのですよ。



 だからこそ、式自体が、

 無理矢理 思い出をねじこみ、

 無理矢理 共通点を作るのです

 無理矢理同じ日にスタートという事にして


 

 

 

  

 








 

 



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