狂った女

トリスバリーヌオ

狂った女

 引き戸をこじ開けようと、腐った人形をガラスの扉に打ち付けていた。

 ひしゃげた右手からポタポタ流れる赤い食紅、私は「嫌嫌」と首を振っていた。


 頭に食い込むほど押し付けたガラスみたいな手を合わせ「嫌嫌」と顔を覆った。


 ガラス張りの部屋を囲むようにして茶色の机が等間隔に置かれている。

 その上には皆揃って、人の首だけがこっちを見ている。


 天井の通気口から玉虫色の液体が滴り落ちているのを見て「嫌嫌」と叫び嗚咽を吐いた。


 黒色と茶色と赤色とオレンジ色と黄色と緑と青と紫と灰色と白色と金色と銀色。玉虫色のアメーバはヌルヌルと移動して、ガラスの椅子や、ガラスの机をぐぷぐぷ溶かして行った。


 黄色に変色した地面を這って、ガラスの壁を溶かしていく。

 

 グジュグジュに煮立ったそれは、抱きつくように愛撫する様にゆっくりと私の体を飲み込んだ。


 監視カメラに映っていたそれから、笛のような甲高い綺麗な音と、ぐちゅぐちゅと下品な音が鳴っていたそうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狂った女 トリスバリーヌオ @oobayasiutimata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ