第32話 生まれ変わった
町に戻った俺たちは1ヶ月の間、『干し肉』を売り続けた。
調達を任せたホクロウ組合には、毎日の売上の10分の1を渡した。
そのお金もあり、建物の内装を綺麗にしたり、御者を雇ったりなどしたことで、客が少しずつ増えているらしい。
利用したら串刺しの干し肉の割引券が貰えるというのも理由だろうけど。
領地の方は、補充しに戻ったホクロウ組合が、報告書を含めた手紙を受け取り、俺に届けてくれたおかげで、逐一確認できた。
手紙は長期滞在している宿に届けてもらっていた。
「――いやぁ。まさか1カ月でB地区に昇格とは……」
ゲンにそう言われる中、D地区でスーと屋台を片づけていた。
「いやいや。ゲンさんのおかげでもありますよ」
実は、ゲンは数日前にC地区に昇格していた。
今日は屋台の片づけの手伝いに来てくれた。
「場所は離れちまうけど、たまにはウチの屋台にも顔出してくれよ!」
「ええっと。そのことなんですが……」
「ん?」
「俺自身、もうここを離れてしまうんですよ」
「ええ!?」
「俺が信頼している民……じゃなくて仲間が2人程変わってくれるので」
ちなみに家族がいる人もいるので、1週間で交代する。
計8人で回していく。
賃金も発生する。
「そ、そうか。寂しくなっちまうな……」
俺は手を止め、ゲンの前に立った。
「色々お世話になりました。時々あのエールを飲みに行きます」
手を差し出して、握手を求めた。
「ああ。うんとサービスするからな」
2人はガッシリと握手を交わした。
片付けを済ますと、ホクロウ組合の馬車に乗ってきた部下たちに商売を任せ、ずっと馬小屋に預けていた馬を返してもらい、最初にここまで来た馬車でサイハテ領に帰ることにした。
◇ ◇ ◇
「――どうなってるんだろうな~」
馬車に揺られながら、期待を胸に呟いた。
1回補充で戻ったっきり帰ってないからな。
家も全部建ってるだろうし、温泉も整備させてあるだろうし。
全く別の姿になってたらなんて。
「ん!」
御者を担っているスーが何かを知らせてきた。
「おっ、噂をすれば見えてきたか?」
屋敷に近づいたことを察したが、あえて窓は開けずに、サプライズのような形で居住区を目にしたかったからだ。
◇ ◇ ◇
「――おっ……おおおおっ!?」
「おかえりなさいませ! リンドラ様!」
目的地に着き、馬車を降りた。
ルシアを筆頭に、何人かの民が出迎えてくれた。
「た、ただいまだけど、凄い変わったな!」
ずらーっと並ぶ新築の家。
あっちこっちで賑わう声。
衣装もそれぞれ違う。
「そのことも詳しく話したいので、景観を楽しみながら、屋敷に向かいませんか?」
「もちろんだ!」
ルシアの提案を承諾し、スーに馬車や荷物を任せて歩き出した。
ちょっと待てよ。
スーに色々やらせすぎか?
「ちょっと待てくれ。なぁスー」
足を止め、スーに話しかけた。
「?」
「お前には色々世話になったからな。報酬を与えたい。何か欲しいものはあるか?」
まあスーのことだし、薬関係だろうな。
設備とか研究室とかだと少し時間がかかるかもだが。
なんなら、俺がやりたくてやったからいらないとかでも――。
「お金」
「あっはい」
超現実的だった。
「後日働いた分渡すから待っててくれ」
「ん」
スーの要望を聞いた俺は、待たせているルシアについていった。
「――おかえりなさい領主様!」
「――お久しぶりですー!」
居住区を歩いていると、すれ違う民から丁寧に挨拶をされる。
見渡すと、やはり様々な衣装があることが目立ち、中心地には噴水広場ができていた。
と言っても、噴水自体はそこまで大きくないが、彩られて景観が良くなるな。
しかし噴水ができたということは……。
「水が通っているのか……?」
「はい。この1ヶ月で近くの川から水路を引きました。川の水は、カショウに見てもらったところ、水質は問題ないとのことです。念の為、飲み水として使う際は、一度熱消毒をしてから飲ませるようにしています」
わぁ。
衛生面も考慮しているのか。
「噴水の仕組みもオオヅチさんに協力してもらい、水路の途中に噴水を造った為、水を無駄にすることはありません。あえて噴水を小さくし、大量に溢れさせることで、このコソ居住区全体に水が行き渡るようにしています」
噴水が中継の役割を担っているのか。
そしてあちこちにある、元々あった井戸に繋げると。
元々ある資源も有効活用しているとは……。
ここから俺は何かできるのか?
かなり発展してない?
「じゃあ水不足になることはもうないか。あっ、温泉はどうなった?」
確か、温泉も水路を確保して、ランタンの為の魔力補充用と、俺たちが浸かる用に分けたいと思っていたけど。
「もちろん、2つの大きな水路を確保していますよ。まだ未完成ではありますが、しばらくすれば温泉施設も魔力補充施設も完成する予定です」
「そうか」
さらっと心読んできたな……。
「ちなみに、皆は職を持っているのか?」
「いえ。今は工事や畑など、手が空いたものから仕事を割り当てているので、ハッキリとした職は持っていません。あっ、もちろん休みは取らせていますよ」
「よし。ならば水路の水質管理の職をそのうち設けよう。少しずつ仕事を与え、賃金を支払い、上手く循環させなければいけない」
「流石です!」
ルシアは紙とペンを取り出し、一瞬でメモした。
良かったぁ。
まだやれることあるっぽいな。
「そう言えば、服も支給したのか?」
やはりすれ違う人たちの服が気になった。
派手ではないが、色とりどりで、印象もガラッと変わっていた。
「はい。割り当てた仕事の報酬として、生活に必要なものを支給するというやり方でこの1ヶ月間やってきました」
「例えば?」
「リンドラ様が
なんか、小学校で買った裁縫キットやエプロンを思い出すなぁ。
親にドラゴンはやめとけって言われたから買わなかったけど、アレ買ったら後々恥ずかしくなっちゃうよなぁ。
「どんな服があったんだ?」
「一色で統一したものや、ボタンが付いたチェックのようなもの……あとドラゴンの絵柄」
「ドラゴンの絵柄……!?」
「熟練した技術で作られており、それを選んだ際は、他の服を選べないです」
「そんなに凄いの!?」
「子供からも大人からも人気です」
「人気なの!?」
「はい。次も用意する予定ですが……」
「やめよう!このままではドラゴンの服しか出回らなくなってしまう。そう言う人気なものはたまに出すくらいがちょうどいいんだよ!」
「そ、そうですか……。気をつけます」
何でちょっと悲しそうなんだよ。
「よ、よし。じゃあ次の案内をしてもらおうかな」
「は、はいっ。それではリンドラ様! あちらの畑をご覧下さい!」
おっ、いつの間にか畑の予定地に着いたか。
一体どうなって――。
「ええええええええ!?」
そこで俺が目にしたものとは……!
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